決意したらあとは行動
その日、蒼は茜音に感謝を伝えた。ハンカチは洗ってお返しします、とも。
「全然いいんだよ。気に入ったなら返してもらわなくても平気だし」
「い、いえ。お返しします!」
「そっか」
ふわりと答え、茜音は去っていった。
落ち着かないまま家に帰り、ぐるぐる考え事をしながら、就寝。
翌日。寝起き特有の怠さを眠気と共に洗い流して、洋服に着替えた。朝食をとり、時計を見やる。午前七時。
『お話したいことがあります』
樋口宛のメールにそう書き、消し、
『謝りたいです』
そう書いて、消し……という作業を繰り返し繰り返しやるうち、徐々に文面が出来上がる。
『もし、僕と会ってくれるなら、あのカフェで待ち合せませんか。断っていただいて結構です。けど、僕は貴方にしっかり謝りたいと思います。』
書き終えても、なかなか送信できない。が、力を必死に入れて、送信ボタンを押した。
返信を待つ間、蒼はそわそわしていた。何度もリビングで水を飲み、意味もなく場所を変えてみたり、スマホの前で正座してみたり。
数時間後――。返信が来た。
蒼が通知の音に歓喜雀躍したのは言うまでもない。まあ、それとくっつくように不安や恐れもあるのだが。
アプリにゆっくり手を伸ばし、トーク画面を開く。
『いつ?』
「!」
急いで返事をする。
『樋口さんの方で決めていただけますか? 僕は予定がないので、都合の良い日に』
『じゃあ明日の九時』
『分かりました』
ほっと息を吐きつつ、忙しなく手で服を掴んでみたり、両手を合わせてみたりする。
明日、樋口とまた会うのだ。既に心臓の様子がおかしい。汗で手がべとべとだ。
昼食を食べることも忘れて、またもやそわそわと落ち着きなく部屋の中を右往左往する。
夕食のときは流石に母に呼ばれ、栄養をとることができた。
何を話すか色々考えていると、目が冴えてきて中々寝ることが出来なかった。このままじゃダメだと無理矢理目を閉じて無心で居続けると、なんとか意識を落とすことができた。
午前一時に一度目が覚めた。蒼ははっきりした意識を薄く伸ばし、眠ろうとした。姿勢を変え、もぞもぞと動いて丁度いい姿勢を見つけ、あとはひたすら目を閉じ続ける。
そんな苦労ののち、午前七時に目覚めることができた。いつもより少し遅いが、大きな寝坊ではないのでセーフとする。
着替えやすい服を着て、朝食をかきこんで五分で食べ終える。歯磨きをし、最低限見た目を整える。肩に提げた鞄に入れるのは、スマホと財布、それから茜音から借りているハンカチ。勝手ながらお守りとして持って行かせてもらう。
キャップを被ると、起きて三十分、七時三十分頃に家を出た。
軽く踏み出してみせた。
入学式の日と同じだ、と思った。なんてことないように強がった仕草をして、反して心は震えていた。怖くて震えていた。学校なんて二度と行きたくないと思っていた。
あれが数か月前か、と蒼は懐かしんだ。高校入学ブーストか、茜音のおかげか、今ではこんなところにいる。一緒にいて楽しいと思える人達がいて、自分を認めてくれる人がいて、そんな人達に見合うよう人間に少し近づいた自分がいる場所。
さて、蒼が目指すのは凛香の家だ。
歩く中で、頭は回想へと入っていった。




