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お勉強会その二

 四十分後。空になった弁当をビニール袋に放り込み、茜音がゴミ箱に捨てに行った。

「勉強再開するよー」

 茜音の言葉に程度の差はあれ、皆が憂鬱そうな顔をした。

「かむー。スマホしまってー」

 なるほど。村上、むらかみ、むか、かむってことか。蒼はようやく理解し、黒井と晴斗と平井の教師役に戻った。

「えと、ここは……」

「あー、分かったような分からんような……」

「僕は理解できたね。つまりこういうことでしょ?」

「微妙に違います」

「そんなー」

 集中し始めると口数が少なくなり、壁に掛けられた時計が時を刻む音ばかり目立つ。

 三十分おきに十分休憩を挟む。それを午後の四時まで繰り返した。

「終わったー! お前らどのくらい進んだ?」

 晴斗が腕を伸ばしながら問うと、

「はいはい! 私七割!」

 未空が真っ先に答えた。大きな空色の瞳が輝いている。

「わたしは八割ですっ!」

 伊藤も嬉しそうに勉強道具を鞄に入れた。

「全部終わった」

 空は一向に片付けをしない姉に代わり勉強道具を鞄に突っ込みながら言った。

「アタシも、正答率高めで六割進んだよ。お姉ちゃんありがとう」

「だから私はお姉ちゃんじゃないと何度言えば……」

 茜音をお姉ちゃんと呼ぶ理由は謎だが、村上も無事に進んだらしい。

「僕は十割」

 ほくほく顔の平井に張り合うように、黒井が返す。

「僕もだし。お前だけじゃないし。……まあ僕は七割だけど」

「……えと、僕も全部終わりました」

 蒼がいつもに比べて少し大きめに答え終わると、晴斗は人狼ゲームのカードを取り出した。

「じゃあ遊ぼうぜ!」

「おー! 晴斗神!」

 黒井が弾んだ声で叫ぶ。

「他にもアナログゲーム持ってきてるし、ふつーのゲームも持ってきてる。まあ、九人じゃ流石に無理っぽいけど」

 晴斗が鞄を逆さまにすると、次から次へとカードゲームや人生ゲームなどが床に落ちる。 

「……どんだけ持ってきてんだよ」

 空が思わず、といった感じで呟くと、

「いや、姉がこういうの好きで。あるなら持って来たくなるだろ」

「お姉さんは目が見えないのにどうやってやってるんだ……?」

 黒井は純粋に疑問を持ったようだった。

「でもなぜか滅茶苦茶強いんだよ」

 不思議だな、と思いながら、蒼は広がった人狼ゲームのカードの一つを手に持った。

「ゲームマスター俺やるわ。あ、ルール知らない奴とか嫌いな奴いる?」

 誰も晴斗に答えない。

「じゃあ始めまーす!」

 晴斗が言って、ゲームが始まった。

 二時間ほどやった。主に晴斗が持ってきたゲームだったが。スマホを使ってイントロクイズをしたりもして、時間はあっという間に過ぎていった、ように蒼は感じた。

 午後七時。夏とはいえそろそろ日が暮れる時間帯である。

「じゃあ、そろそろ帰るわ」

 そう言って立ち上がった黒井を皮切りに、平井を除いた八人が帰り始める。平井がまたねー、と手を振っていた。

 蒼も荷物をまとめ、立ち上がって忘れ物がないか確認しようとした。その瞬間、呼び止められる。

「あ、月待、待って」

 平井だ。

「え……?」

 なんだろう。浮かせた腰をまた下ろして、平井と向き合う。

「連絡先、交換しとかないとでしょ? 月待だけグループ入ってなかったからさ」

「え? ああ……。ありがとうございます。えと、……」 

 蒼がスマホを開く。平井が承諾をとってから画面を覗き込み、操作してくれる。おかげで、無事にグループに入ることができた。

 そうしていると、すっかり静かになった。もう残っている人はいない。

「よし。じゃあ、予定とか組み終わったら連絡するから、ちゃんと見てね」

 穏やかに微笑みながら言われ、蒼は、

「あ、ありがとうございます!」

「いえいえ。ところでさ、敬語、外さないの?」

「えっ。あ……。癖で。敬語の方が落ち着くんです」

 多少ぎこちなくなっただろうが、しっかりと微笑をこしらえて言えた。嘘はついていない。

「そっか」

 時刻が七時九分から七時十分に変わる。

「あっ。時間が……。じゃあ、その、帰ります!」

 荷物を持って立ち上がる。忘れ物がないか床を見渡すが、ない。大丈夫だろうと玄関に向かい、扉を開けた。

「じゃあ、またねー!」

 降られた手に振り返し、少しばかり寒々しくなってきた風にあたりながら帰路を辿る。

 ……楽しかった。

 それ以外の感情もある。感動であるとか、無性に泣きたくなる虚しさであるとか。しかし、一日のことをまとめるなら、楽しかった、のだ。一つ懸念点があるとすれば、茜音のことだ。どうにか月雪さんの力になりたい。けれど、僕なんかには何もできない。

 だから僕は、記憶の片隅に留めておくだけだ。

 結論付けて、よぎる嫌な予感を搔き消した。

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