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なんとかもぎ取った保険

 ────だから殺したり怪我させたり、群衆の中で悪女と糾弾したりしないでね!! 私、あなたの味方!! 決して邪魔しないミカータ!! OK?!?!


 どうせここがあのゲームの中の世界なら、私は結局、彼と婚約を結ぶことになるのだ。実際、既にやめられるような立場ではないし。

 ならば保険をかけるしかあるまい。事前にこういう約束してましたよ! だから邪魔しませんよ! と、こういう時から必死に訴えておくのである。

 何なら今から書類を作ったっていい。紙持ってくるか? 持ってこさせようか??


 私の言葉に、ユーリはぽかん、と口を開け、鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔で見つめてくる。

 まぁ、初の顔合わせでこんなこと言われるとは思ってなかっただろうな。こんなのシナリオには無いだろうし。それはゴメン。


 そうして暫く経った後、開かれた彼の口から出たのは、「……珍しいことを言うのですね、あなたは……」という言葉だった。


「そうですね。……私も、そんな風なことを言われるとは思ってました」

「……貴族の結婚は、恋愛事に左右されるものではありません。その家の当主が決め、子供はそれに従い、相手と関係を育んでいくものです。当然、婚約解消など以ての外。しかも僕達の身分の関係により、解消される側となるのはあなたですよ。それなのに、僕が真に愛する人を見つけたら、それを喜んで応援するのですか?」

「ええ」


 ハッキリ言った私にまたユーリが眉を顰める。

 私の狙いが何なのか分からず探っている、のか? 11歳でそんなむずいこと考えるなよ~。


「……私、貴族に生まれはしましたけれど。愛のない結婚というのには、あまり肯定したくなくて」

「…………」

「変だと思われても仕方ありません。でも、未来の自分が誰とどう出会って、誰と永遠を誓いたいようになるかなんて、わからないじゃないですか。今こうして結婚の約束をしていても、未来でもしかしたら、あなたの運命の相手と出逢うかもしれない」

「運命など……そんなもの、貴族の結婚には必要ないでしょう。そもそも、実在するのかだって怪しい」


 実在するんだよ少年。君にはな、この世界で一番愛される、一番かわいい女の子が居るんだ。

 もしかしたらこの世界のアイラちゃんは君を選ばないかもしれない。でも、君が彼女に惹かれるのは、この世界の摂理なのだ。

 こんなこと、今は絶対言えないけれど。


「でも出来ることなら、誰だって好きな相手と添い遂げたいと思うでしょう? ……私は、それを邪魔してまで、親に決められた相手と一緒になりたいとは思わないのです。折角婚約者という長い付き合いになるのですもの。ユーリ様とは、嫌な確執などは生みたくありません。あなたに本当に好きな人が出来た時は、是非ともその方と添い遂げ、幸せになっていただきたいと考えております」


 要約すると、早くアイラちゃんと出会い、彼女とイチャイチャきゃっきゃする所を見せてください。そうして推しと添い遂げてください。

 そんで頼むから私には何もせんでくれ。ここまで頼み込んでるんだ、どうか聞いておくれよ!!


「私の言葉が信じられないのなら、今から紙とペンを持ってこさせて、誓約書を作成いたします」

「よ、用意がすごいですね……。ですが、そこまでしていただくのはちょっと……」


 え、マジ? 駄目です? 口約束だけだとちょっぴり心配なんだが、まぁ無理を言うのも良くないか。

 それにユーリの性格なら、念を押しとけばちゃんと覚えていてくれそうだし。


「それでは、今お話した内容を、どうかどうか覚えていてくださいませ。そうしてその日が来た時は、約束通り私に一言貰えれば、それで」

「…………」

「……お願いいたします……」


 私の懇願するような声に、ユーリはふぅーっ、と重いため息をついた。

 額に手を当て何か思い悩む仕草を見せたが、次に聞こえてきた言葉は。


「……、……分かりました」


(やったーーーーッ!! 勝ったァーーーーッ!!!!)


 心の中で勝利のガッツポーズを取る。

 拙者、この重い空気の中「分かりました」の一言を手に入れたで候。


 やったよアイラちゃん!! これなら一応!! ほんとに一応だけど、もしユーリと君の間に生まれた愛の話をされても、君を傷つけず穏便に別れられる保険が獲得できた!! 今からでも入れる保険はあるんですよ!!


「ありがとうございます、ユーリ様っ! それを約束してくださるのなら、もうお願いすることは特にありません!」


 なんならこれから学園入学まで放置プレイでも全く構わない。私が見たいのはあくまでヒロインと攻略対象の絡みであって、私と攻略対象が絡む図は特に望んでいないからな。

 でもだからって本編始まって急に憎しみを露わにするとかはやめてね。


「…………あの」

「はいっ!?」


 やべっ声が上擦っちまった。テンション上がってるのが分かっちゃったかもしれない。ごめん。


「貴族の結婚だからと散々言ったのは僕ですけれど……、その、なんというか」

「何でしょう」

「……そんなにも、僕との未来が君には描けませんか?」

「エッ」


 その言葉に驚くと同時に「なるほど」となった。

 そうか、ユーリからしてみたら「あなたと結婚する気は更々ありません! だって愛情ないですし!」と大っぴらに伝えたことになるよな。しかも了承貰った後我ながらめっちゃ喜んじゃったし。

  これじゃユーリに非があって、結婚生活を夢見れません、みたいな悪口言ったのと同じになっちゃう。やばい、訂正しなきゃ。


「いえいえあのっ!! 決してユーリ様が好きではないとか魅力的じゃないとか、そういうことではなくてですね?!」

「…………」

「ほら、やっぱり私達まだ出会ったばかりですし……というかむしろ、ユーリ様が素敵であるからこそ、私なんかよりももっと素敵でかわいらしい、そう……あなたにぴったりな女性が見つかると思うんですよ!! だからこその発言みたいな!!」

「いえ、そんなことは……」

「あります!!」


 ある。あるったらあるんだ。だって君は攻略対象なんだもの。

 あとここだけの話だけど、何もアイラちゃんの存在が無くても私が彼に似合うことは多分無い。何てったって美男美女が多いこの世の中にこの黒髪黒目な普通顔。背伸びしても到底無理です。


 私の勢いに押されたユーリが困惑した顔で「……ま、まぁそれは置いておいて……」と話を切り替える。


「このお話はあまり他人に話さない方がいいですよ」

「う゛ッ、……そう、ですね……」

「先程誓約書を作成すると仰っていましたが、形に残るものだと如何に隠してもその内バレてしまう可能性がありますし」


 ああ、だからやめときましょって言ったのね。


 こんな話、両親に聞かれたらさすがに怒られちゃうかもしれない。両親は幸いお互いに好き合っているけれど、その関係だって政略結婚から始まったものだし。

 前世の感覚が抜けないとて、私だって一応は貴族の務めを理解している、……つもりだ。


 でも、どう考えても私と君がくっつくことって無いと思うよ。それ以上にそんなことになってもらったら私が困る。ヤダヤダこの世界はアイラちゃんで回る世界なんだから君はヒロインに惚れなきゃ駄目なんだーーッ!!


「……ですから」


 するとそこで、ユーリが突然顔を近づけ、耳元でそっと囁く。


「これは、僕と君だけの秘密です」



 …………何で急にこんな近付いてきたんや、君?


 あ、なるほど。秘密だから近付いてきたんですね。

 でも今は周りに使用人の人も特に居ないし(気を遣ってくれたのかちょっと離れた所で見守ってくれてるよ)その必要はないのでは。

 

 そしてイケメン特有の良い声が耳の中に響いてきてちょっとビビった。本当にゲーム通りの声してるからびっくりする。さすがCV○井さん。

 こんな感じでその内アイラちゃんにも囁くようになるんだなぁと思うと逆の意味で幸せになる。ユーリに抱きしめられながら耳元に吐息を吹きかけられ驚きと照れで耳まで赤くなってしまうアイラちゃんとか、それを見て悪い笑みを浮かべるユーリとか……、ね!! 早く見たいよねみんな!!


「……ウィラ」

「はい? ……あ、わかりました。二人の秘密ですね!」


 うっかり妄想空間へ本格的に飛び立ちそうになってしまった。危ねえ。

 でも許してほしい。だって学校に入学するまで推しカプはおろか推しも見れねえんだよ。察してくれこのオタクの切なる気持ちを。


 意識を現実に引き戻し慌てて答えた私を見て、彼がぽつりと呟く。


「……あなたは……、……なんていうか、不思議な人ですね」


 どういう意味だろう、それ。

  相手の頭がやばそうなのでこの話は無かったことに」って君から親御さんに言ってくれてもええんやで、大いに。

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[一言] 凄い!きっぱり邪魔しないとアピールしたのに逆に気に入って貰えているw
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