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舞踏会①

「アイラちゃん、かわいいよ、かわいいよ〜!! 最高だよ〜!!」


 私は目の前に映る最高の景色に涙を流した。なけなしの化粧が落ちるぞとか言っちゃいけない。


 だって、アイラちゃんのドレスが無事、間に合ったのだから!!


「本当に、よかったのですか……? ウィルヘルミナ様。ドレスを貸していただいて……」

「大丈夫大丈夫!! あんまり自分には似合わなさそうだなと思ってほぼ袖も通してなかったし!! それより、アイラちゃんこそ本当によかったの? 私の持ってるもので……」


 おそるおそる尋ねてみる。


 結局、時間の関係で実家にあったドレスをアイラちゃん用に直すことくらいしかできなかった。それでも、ドレスの色は可愛らしいピンクのプリンセスライン。最大限彼女の魅力を引き立てていると思うのだが……。

 似合ってはいる。だが、やはり。


(仕立ててあげたかったー!!)


 私の全お小遣いをはたいてもよかったから、人のものじゃなくてちゃんと彼女のために似合うものを買ってあげたかった。

 街に行って見る時間もなかったしなぁ……!!


 それでも、ドレスを着た天使はふわりと嬉しそうな笑みを浮かべて言う。


「とんでもありません。こんなに素敵なドレスを着られる日が来るだなんて、私、思いもしませんでした。

 ありがとうございます。ウィルヘルミナ様」


  はい。今日も笑顔に無事浄化されました。

 舞踏会はこれからだっていうのに大丈夫かな私。毎秒可愛さと尊さに死ぬんとちゃうか。


「ウィルヘルミナ様のドレスも素敵ですね。大人っぽくて、すごく青色が綺麗……」

「えっ、あ、そ、そうかな? ありがとう〜、えへへ……」


 天使に褒められて気持ちの悪い笑いが出る。


 今日の私はアイラちゃんとはちょっと形の異なったAラインシルエットのドレスを着ていた。中央から裾にかけて、美しい青色が広がっている。


 ……うん。ドレスを作った時にも言われたけど。


(これ、ユーリの瞳の色ってことだよなぁ……)


 舞踏会では婚約者の瞳の色をした装飾品やドレスを身に纏うのが常である。これで「私たち仲良しですよー」っていうアピールに繋がるのだ。


(ちょっと恥ずかしいんだけど……)


 まぁ、仕方がない。ユーリが「色はこれにしてください」って注文してたから。



「やぁ、綺麗なお嬢さん達」


 すると、背後からそんな声がかけられた。

 この声は……見なくとも分かるぞ。


「ヴィクトール兄様……、って、三人とも居るじゃないですか!」


 思わず突っ込んだ。まぁ、生徒会メンバーだし、一緒に居てもおかしくはないか。

 その言葉通り、ヴィクトール、ユーリ、サーシャ(少し離れた所にカリュさん)が居て勢揃いだった。ギーゼラ先輩達は……居ないようだ。


 そして案の定、めちゃくちゃ目立っている。しょうがないねキラキラ集団だからね。


「ウィラ、そのドレス、よく似合っています。吟味した甲斐がありました」


 ユーリが私の手の甲にキスを落としながら言う。おおう、相変わらずのロイヤルプリンスっぷり。


「あはは……、ありがとうございます」

「うむ。悔しいが、今日のそなたの装いは素晴らしい。しかし! 今度こそ我が国の衣装を着てもらうからな!」


 サーシャがふんぞり返りながら言う。それには苦笑いしながら「まあ、機会があれば……」と返すしかない。

 私に着せるよりアイラちゃんの着たところが見たいよ私は!!


 そうこうしている内に学園長からの舞踏会開始のお言葉をいただき、今年の舞踏会は始まったのであった。



 *



「これも美味しいですね、ウィルヘルミナ様っ!」

「うん、美味しい! あ、こっちもオススメだよ!」


 はい。社交ガン無視で食べ物の方に行ったのは私とアイラちゃんでした。

 男性陣はそれを困ったような笑みで見つめている。社交に行かないのかと聞いたが、「今日はお二人のボディガードなので」とかいう答えが返ってきたので、まぁよくわからんがいいかということにした。


 まぁ、この学園の舞踏会もそこまで格式高いものじゃないしね。文化祭と同じ、お祭りみたいなもんだから。……たぶん。



「……あ」


 すると、ホール内にダンス音楽が流れ始める。

 来てしまった。ついに奴が……。


(私の苦手なダンスの時間じゃあああ!!)


「ウィラ」

「……はい」

「嫌そうですねえ。まぁ苦手ですものね、ダンス」

「こればっかりはなんとも……」


 くすくすとユーリが笑みを零す。笑われたっていい。運動は苦手科目なのだ!!


「僕と踊りましょう。ウィラ」


 さすがにファーストダンス、ラストダンスは婚約者と踊るのが常識である。私だってそれくらいわかっているつもりだ。


 だけど……。


「アイラちゃん、ごめんね……。ちょっと行ってくるねえ……!」

「は、はい。行ってらっしゃい」

「アイラちゃんも、誰かと踊ったりしてね! 絶対!」

「は、はぁ」


 あんまり気のない返事だったが仕方がない。私は諦めてユーリの元へ行き、ダンスの姿勢を取る。

 そして彼と手を取り、踊り始めた。


(ホントはこの時間でも、アイラちゃんが誰とダンスを踊るのか見たかったんだけどな〜……)


 しかし、余計なことを考えているとすぐユーリの足を踏んでしまうだろう。それが分かっているので私はダンスに集中するのである。

 ちなみに今のところは踏んでない!! よっしゃ!!


「ダンスに熱中するのもよいですが、たまには僕の顔も見てください」

「あ、すみません……」


 真剣すぎて足元しか見れてなかった。

 彼の言葉通りにぐっと顔を上に向けると、シャンデリアと共にキラキラ輝いているユーリの顔が見えた。素直に感心する。その美しさに。


 ユーリが首を傾げる。


「どうしました?」

「いえ、今日のユーリ様はいつも以上に輝いているなあと……」


 言ってから「率直すぎたなこれ」と後悔した。だが時既に遅し。

 ユーリはありがとうございます、と殊更微笑んだ。


「でも、それはあなたもですよ」

「はい?」

「今日のあなたはとても美しく、可愛らしいです。僕の婚約者なんですよって見せびらかしたいくらい」

「あはは、ご冗談を」

「……冗談ではないんですけどねぇ」


 むっとユーリが眉を寄せる。

 そして、私の耳に唇を近づけ。



『ちゅっ』



「?!?!」


 今、確実に耳に何か触った!!

 慌てて耳を押さえる私に、ユーリはいたずらが成功したような、子供っぽい笑顔で「あはは!」と笑った。


「冗談だ、なんて言うからですよ」

「〜〜っ……ユーリ様!!」

「ふふ」


 公衆の面前で何してくれとんねん!! と怒りたかったが、こんな所で騒ぎ立ててしまえば目立つことこの上なかっただろうから、ぐっと我慢した。

 ……そういうのは、アイラちゃんにやってほしいんですけどね。


 けど、さすがにそんなことを、本人に言うことはできなかった。



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