襲撃! 隣の王太子!
眩しい太陽が照りつけるお昼時。
でも、私の住む屋敷は割と夏でも涼しくて過ごしやすい。涼しい風が私達の身体を撫でていっている。
アイラちゃんがうちに泊まりに来て数日ほどが経過していた。
今は4人でゆっくりお茶を楽しんでいる最中だ。
……「ナチュラルに何でユーリおんの?」というツッコミは無しで。もう彼がうちに来るのは慣れたよ。
「そういえば、アイラ。うちの居心地はどうかな? ゆっくり出来ているかい」
ヴィクトールがそう尋ねると、アイラちゃんはカップをソーサーに置いて元気よく答えた。
「はい! とても心地よく過ごせています! 屋敷の皆様もすごくお優しいですし、実家に居る時とは比べ物にならないほど静かでゆっくりできて……。こんなにも良い待遇をいただけて良いのかと思ってしまうくらいです」
「そうか、それはよかった。うちの使用人は優しく働き者な、自慢の人達だからね。そう言ってもらえると私やウィラも嬉しいよ」
ヴィクトールの台詞にうんうん頷く。快適に過ごせているようで何よりだ。
かくいう私もめちゃくちゃに幸せである。
なんてったって、あれから夜も私の部屋、私のベッドで推しと一緒に寝てるんですよ?! 眠る時も横に推し! 目覚めた時も横に推し!! 一日中推しと一緒〜〜!!!!
この夏はずっと彼女と笑い合いながら過ごしていて、こんな幸せがあって良いのかと思えてしまうほどだ。アイラちゃんと結婚したらこんな生活が待ってるんだな……羨ましい限りだぜ。
「実家では弟さんや妹さんの面倒を見なくちゃいけないもんね〜。人数も多かったし大変そう」
「そうなのよ……。みんなそれぞれヤンチャ過ぎて大変だし、喧嘩はしまくるし……。しょっちゅう出かけたがるから、毎回ついていくのも大変」
「上に産まれた者の運命か……」
重いため息をつくアイラちゃんと、苦笑する私。
ちなみにここで話しておきたいのだが、この夏の滞在の間は、お互い敬語、敬称無しで行くことにしました。折角学校みたいにめんどい奴らが居ないんだしね!
さすがに両親とかが居る時は戻してるみたいだけど、ヴィクトールやユーリの同席時もこれで行っている。というより、二人で話してる時に「あれ? 普段と話し方が違いますね」みたいな感じで疑問をぶっ込まれ、結果的に「気にしないから好きに話して大丈夫」って言われたからお言葉に甘えることにした感じ。
やっぱ地のままで話す方がアイラちゃんも楽みたいだった。学校に居る時よりも幾分リラックスしてる雰囲気だったし。
私は学校でだろうと両親の前でだろうと気にはしないが、身分の差という避けられないものがこの世にはある。私が良くても周りがみんな許すとは限らない。
愛する推しに謂れのない噂を流されるくらいなら、多少距離が遠くなりそうでも我慢しよう。……寂しいことは寂しいけどね!
「だから、こんなにゆっくりとお茶を楽しめるような夏季休暇が来るとは思わなかった。あの時誘ってくれたウィラちゃんのおかげよ。ありがとう、ウィラちゃん」
「えへへ、そう? 私も来てくれてすごく嬉しいよ〜、ありがとう……!」
柔らかく微笑んだアイラちゃんにデレデレと顔面崩壊してしまう。そんな嬉しいこと言われたら涎とか出ちゃうようへへ。
「お二人はこの夏季休暇で更に仲が深まりましたねぇ」
「いつの間にそんな仲良しそうな口調で話すようになったんだか。女の子の成長って早いものだよ」
なんだか最近私とアイラちゃんを見る二人の目が温かくなっている気がする。いやもう、完全に生温かく見守る家族のそれや。
もしかして前に推しへの愛をカミングアウトしたから、私のことは単なるキモいオタクだと彼らの中で結論づけられたのかもしれない。つまり天使を害する奴ではなく、単に気持ち悪いだけで悪気は無いという奴だ。ゲームの展開的にもそっちの方がまだマシだな。
そう。私は天使を傷付ける人間ではなく愛を捧げる者。それを分かっていただけたのならいいんですよ……。
むしろ傷付けた奴を一緒にブチのめす勢いなのでそうなった暁にはお供させてください兄貴達!! 大丈夫っス、武器は出来るだけ鋭利なものを選びやすんで!!
「ウィラ、その仲良しな口調で兄様ともお話する気はないかい?」
「えっ、……無いですね……」
「無いかぁ……」
「じゃあ僕はどうですか」
「ユーリ様はそもそもあなた自身が敬語使ってるじゃないですか。人のこと言えませんよ」
「確かに……。すみません、これが性分といいますか」
じゃあ私も性分です。これにて閉廷。
「お嬢様〜!」
すると、どこからか使用人の人が一人こっちに走ってくるのが見えた。
お嬢様……ということは、私宛の連絡か。なんだろう。
「どうしたの?」
「はぁ、はぁっ……、そ、それが、ですね……!」
「ちょ、大丈夫ですか!? めっちゃ息上がってますけど!」
「だ、だいじょ、っです、ゲホッ」
全然大丈夫じゃなさそう。
「わ、私のことはいいのです! それより、早く玄関先においでくださいませっ」
「玄関? それはまた何故……」
「その、……タマルフォン国の王太子、サーシャ様と名乗る御方が、当屋敷においでなさっておりまして……!!」
「……はぁあ?!?!」
「えっ」
「うーん、これは」
「……来ましたか、やっぱり」
*
バタバタと4人で走っていけば、玄関ホールで見覚えのある二人組が立っているのが見えた。
うわ、うわうわうわ! 嫌な予感して走ってきたけど、やっぱそうじゃねえか!!
「おお、ウィラ! 久方ぶりだな!」
「殿下……」
息を整えつつ彼らの方を見つめる。
うん、やっぱ殿下。俺様余様の殿下です。きっちりお付きのカリュさんも来てる。詰み。
…………いや、何で?
何がどうなってそうなった??
「殿下、突然どうしたので……」
「その呼び方はやめろと言ったであろう? ほら、以前に言った通り、ほれほれ」
何だその誘導の仕方は。
思わずジト目で睨み上げそうになったが、彼の性格にも少しは慣れたもの。
はーっ、と一際大きい息をついて、言った。
「……サーシャ様」
「うむ!」
満足そうな微笑みありがとうございます。
やっぱりこの人、こうやって笑うと年相応ですよね。それ自体は美味しいし別に全然いいんだけど、せめてヒロインと話してる時にやってくれ。
え、何で今言うこと聞いたのかって?
なんかすごい前から呼べ呼べって命令されてたから、これ以上拒否するのも悪い気がして。学校でも思ってたけど、拒否する度に大声でやれー! って言いまくられる方が肩身狭いんだわ。
「ところで、何の御用でしょうか? サーシャ殿下」
ずい、とヴィクトールが私の前に出てサーシャに尋ねた。
「サーシャ殿下、如何に王族の身とはいえ……いえ王族の身であるからこそ、約束もなしに突然やってくるのはいかがなものかと存じますが」
ずずいっ、とユーリも出張ってくる。
何や何や、お前らそんなにサーシャとお話したかったんか。実は仲良しなの? 私そんな前に出られるくらいには邪魔だった??
「何故アポ無しだと分かった」
アポ無いんかよ。や、両親とかからそんな話聞いてなかったから分かってたことだけども。
「ウィラのご両親や使用人の者達からそういった話が出ることは全く無かったので、恐らくそうだろうなと考えまして」
ほぼ同じこと言ってるゥ!! こんな所で攻略対象と思考被りたくねえな!!
「ええい、貴様ら毎度毎度ちょこまかと……。余は貴様らに会いに来たのではない! ウィラに会いにやってきたのだ!!」
「え」
思わぬ発言に面食らった。
一瞬夏季休暇前に何かやらかしたかと勘ぐったが、「やらかしっていう面では割とやらかし過ぎててどれのことかさっぱり分からんな」という結論になった模様。つまり分からん。
「何か私に用でもあったんですか」
仮婚約者と義兄の間からすっぽり顔を出して聞いてみる。
あんたらが私の目の前に立ちはだかるせいでサーシャの姿が全く見えてねんだよ。だからこういう形で無理矢理顔を出しただけだし、よく分からない頭なでなでをするのはやめろ義兄。
「用も何も」
「うん?」
「今は夏季休暇中で、学園も休みであろう」
「そうですね。それがどうかしたので」
「なのにそなたはさっさと家に帰宅してしまった。だから余がこうしてわざわざ来てやったのだ」
「はぁ……」
何だ。話がよく見えてこんぞ。
暫し頭の中で考えを巡らせる。
えーと、えーーっとつまり、つまりサーシャが何を言いたいのかといえば…………。
「よく分かんないですけど、要は「夏休みだから遊びに来た」ってことですか?」
「そうだ!!」
適当に言ってみたら当たったでござる。思わず脱力してしまったわ。
「さぁさぁ、そうと分かればさっさと屋敷の中を案内しろ! 余達も暫くここで滞在させてもらうが故な!!」
「わぁ〜相変わらずグイグイ押してくるなあ……。
……まぁ、さすがに王族の方をすぐ追い返すのもどうかと思いますし……、とりあえずこちらへどうぞ」
「うむ。やはりそなたは分かっておるな〜!」
歩き出した私に意気揚々とついてくるサーシャ。&カリュさん。
うん、まぁ分かるよ。いくら王族とはいえアポ無しで突撃はどうなん? という君達の気持ちはわかるよ。でも来てしまったものはしゃあないやん?
だからこっちをめちゃくちゃ睨みつけるのはやめてください。
ということで。
突然の王太子殿下参戦である。これで攻略対象全員が揃ったね☆ なんてな。
集まった先がうちなのは気に食わないけどまぁ我慢しよう。これから夏の乙女ゲーム生スチルが続々と見れるに違いないのだからなぁ……!! ハーッハッハッハ!!




