そういうのどこで習得してくるんですか?
ちょっとした問答があったものの、それは平和的に解決し。
私は、とりあえずまだ学園の寮に帰ることが出来ておりません。
(畜生……)
サーシャが予想以上にアレコレ興味を持つからどんどん遊ぶ時間が長くなっとる。
「どうした? 顔が暗いぞ。折角の外出なのだから楽しまねば損ではないか」
「サーシャ様……、あの、もう大分歩きましたし、そろそろ帰りませんか……?」
「断る!! 余はまだまだ満足しておらぬからな!!」
子供か。
やっぱりこの状態は変わらぬ通常運転らしい。
もう何回目のため息だろうか。
……でもしょうがない。乗りかかった船だ。最後まで乗っとかないと。
「ほんとは婚約者じゃない男性と出歩くなんて良くないんだけどなぁ……」
ぽつりと出た呟き。
ゲーム本編のユーリはまるでウィルヘルミナに興味を持っていなかったし、ましてやウィルヘルミナがこんな風にサーシャと出かけるようなイベントも無かった。
けど、今のところ私とユーリは友人としての信頼関係をある程度築けている状態。これは……、後で正直に話しておかないと、その信頼関係にヒビを入れてしまうのではないだろうか。
「む? 何だ、そなたには婚約者がおるのか?」
「サーシャ様、何をお食べになってるんですかそれは」
「その辺で売っていたキャンディだ。甘くて中々美味だな!」
ノリノリで食べ歩きまでし始めた。この王子。それでええんか?
ていうかそんなの売ってるんすねこの世界。
「サーシャ様! 市井のものを安易に口にするなど……! しかも毒味もしていないというのに!」
「こんな所に毒など入っておらぬだろう。大丈夫だ」
ホントに大丈夫なのかそれって思ったけど、もうなんか色々言うのが面倒だから放っとこう。うん。
「……そういえば、サーシャ様は婚約者などは……?」
「おらぬな」
即答。
まぁ知ってたけど。一応念の為聞いておいた。
これで最終的にサーシャが選ばれても問題なく嫁げるね!!
「余は王になった後、宮殿の後宮に世界中から集めた絶世の美女を入れ、ハレムを作るのだ。正妃などはそこから決める」
「へぇ〜……そうなんですね……」
ゲームでは最終的にアイラのみを妃とすると宣言していたから、国に帰ってもハレムは作ってなかっただろうけど。やはり、今の彼は作る気満々のようである。
そこで、隣を歩いていたサーシャが悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべながらこんなことを言ってきた。
「そなたも加わるか? 余のハレムに」
「はっ?」
何だその発言。
「……私、絶世の美女などではありませんが」
「まぁそうだな。だが、変わり種を一人くらい入れてみても面白いだろう?」
「いえ……遠慮します……」
とんでもなく失礼な発言を聞いたが、私は大人なのでスルーします。別に権力に屈してるとかじゃないですから。
「何だ、つまらぬな」
ため息をつかれるが、逆に何故その言葉で「分かりました入りまーす!!」みたいな展開になると思ったのか、私にもよく理解できるように教えてくれ。
「でも、いつかサーシャ様のお国には訪れてみたいですね」
何気なく呟いた一言。
単純に「他の国行ってみたい」「砂漠の国ヒャッホー」という願望からのものだが。
その言葉を聞いたサーシャが一転、「おおっ!」と笑顔になり、私の背中をバンバン叩いてくる。
「そうかそうか! やはりそなたも我が祖国を訪れたいと! よい心がけだ!!」
「うぐぇっ。……まぁ、興味はありますし。うちとは大分違う文化のようですから」
「むっ、そうだな。ここの国はやたらと規則に煩くやかましい」
煩くやかましいって、それ同じ意味じゃないんすかね。
まぁヨーロッパの貴族とかを題材にしてる時点でそういうのは避けて通れない道だろうな。
「我が国タマルフォンはもっと自由で、開放的な風潮だ。……身分制度という、決して逃れられない決まりごとは、存在してしまうが」
そこでふと、サーシャが長い睫毛を伏せながら何やら物憂げな表情を見せた。
普段の彼からはあまり想像がつかないそれに、思わず目を丸くしてしまう。
「……身分制度がお嫌なので?」
彼は王族の生まれなのに。
私の問いに、「気付いてしまったか」とちょっと眉を下げながら微笑む。
「余がとても尊い生命として生まれたことは分かっている。この身分に生まれた以上、余は王となるべき男であるし、他の者共から王として崇められる存在だ。その責務から逃げるつもりは一切無い」
「……」
「ただ……、国に住む民達は、そんなものには縛られず。皆平等に笑い合って暮らすことが出来ればどんなに良いかと、そんなことを考える時もあるのだ」
その言葉を聞いて、私は唐突に、ゲーム内に映っていた彼を思い出した。
(……ああ。そういえば、ゲームでもこんなこと話してたなぁ)
タマルフォン王国にも身分制度は存在する。それは建国当時から制定されているものであり、様々な事情が絡み合っていて、一から無くすなんてことはまず無理だ。それこそ、市民からの革命なんかが起きさえしない限り。
それでも、自分はそういったものをあまり好まない。
王族は国を治めるために必要であり、そして最も尊いものとして崇拝される存在であるが。それ以外の、市民達における差異は本当に無くすことが出来ないのだろうか? と、ゲームの彼が話しているのを前世の私は聞いていた。
夢を見ているだけかもしれない。建国当時からある強固なものを無くしたり、みんなが平等に笑い合える、なんてのは、貧民の苦しみを知らない王族の描く単なる夢物語なんじゃないかと。
だが、……もしそうだとしても、理想は人間にとって大切なものだと思う。あって然るべきだと考える。
だから。
「そうですね。私も、そう思います」
「……馬鹿馬鹿しいとは考えないのか? そなたは」
「理想なんて大抵そんなものじゃないですか? そのせいで人に迷惑をかけているのならちょっと考える必要がありますが、想うことは自由でしょう。サーシャ様のお話を聞いて、私も「そうなればいいな」と素直に感じました。馬鹿馬鹿しいと言うのなら、私だって同じです」
「国の人間から税を巻き取ってやるぜグヘヘェ」みたいなこと言う悪辣な王より、「みんなが笑って暮らせればいいな〜」って考える優しい王の方が誰だってええやろ。
理想だろうがなんだろうが、考え的にそっちの方が断然同意できるってだけだ。馬鹿馬鹿しいとか叶わないとかは知らん。
「サーシャ様は優しい王様ですね」
何となく。マジで素直にそう思ったので、そのまま口から出てしまった。
それを聞いたサーシャが目を見開いて、口に手を当てる。……なんかブツブツ言ってるけど、え、何? 不敬?
アイツ不敬じゃない……? どうする、処す? 処す? ってか??
「……よ、余は、まだ王ではないがっ!! よ、よよよい心がけではないかっ?!」
「うわぁ急に元気」
いきなりボリューム上げられるとビビるので声量の調整ちゃんとやってくださぁ〜い!!
あと一人称が「余」なせいで“よ”がゲシュタルト崩壊しとる。
*
「────おい、何だあれは? 何かの催しか?」
「え?」
そろそろ街の広場に差し掛かろうとした時だった。
なんだか陽気な音楽が流れ、簡易的な舞台の上では踊りが披露されているのが見える。
「あれは……旅芸人の一座ですかね」
「ほぉ、曲芸師などの見世物のようなものか」
「まぁ近いかもしれません」
そういえば、ユーリと春祭りに行った時はここで踊ったなぁ。あれは楽しかった。
旅芸人の一座の周りには観客が結構居て、次にピエロの格好をした人が球形のものを何個か持っており、それぞれ上へ投げたものを交互にキャッチする華麗な技を披露している。あのサーカスとかでよく見るアレね。確かジャグリングとかいうやつ。
「お〜、すごい……」
思わず感心してしまう。周りからも歓声が上がった。
手先が不器用な自分には一生出来ない芸である。
「何だ、あんなのがすごいのか? 余もできるぞ」
「へ?」
サーシャの突然の言葉に頭がハテナ状態。
そして何を思ったか、突然彼がズンズンと簡易舞台の方へと足を進めていく。
「おい、そこの」
「エッ?! は、ハイ」
「貸してみろ。あと、その玉の量をもっと増やせ」
「は、はぁ……?」
いきなり話しかけられ状況が飲み込めてないまま、とりあえず玉をさっきよりも多めに渡すピエロさん。
(ちょ、何やってんだーーーーッ?!)
よく分からないが慌てて止めようとすると。
ぽんぽんぽんぽん! と、サーシャの手の中で面白いくらいに綺麗に回っていく玉たち。
「えっ……」
何が起こっているのか、さっぱり分からん。
王子が街中で思いっきり注目浴びてるのも分からんし、その中で芸を披露してるのも意味不明すぎる。
ただ見てて思うのは一つ。
サーシャすげえ。
「どうだ?」
「す、すごいです! サーシャ様、そんな特技あったんですね?!」
一朝一夕で身につけられるものではないと思うのだが、サーシャは何でもないように笑って「こんなもの特に難しくもない」と言う。マジかよ。
「宮殿でもこういった遊びはあったからな。余はさして興味がなかった故、やった経験は少ないが」
「それは更にすごいってことなのでは?!」
「フッ、そうか?」
「はい!!」
だって周りからもめっちゃ歓声上がってるし、さっきのピエロさんなんか呆気に取られてるよ。そりゃ自分が持ってた玉の数より多めに渡したのに簡単に芸をこなされてるんだもんな。
そうしてすごいすごいと褒めていたら気を良くしたのか。
「これも出来るぞ!」
「おお!」
足を使ったジャグリング。
「これも余裕だ!」
「おおお!!」
的を使ったナイフ投げ。
「よし、カリュ! 来い!!」
「承知致しました!」
「おおおお?!」
バーーーーン!! と効果音が鳴るのが聞こえた。
まさかの組 体 操 。
「す……すごい……!! お二人のバランスもすごいですけど、サーシャ様のそれは一体どうなってるんですか?! 体幹が強すぎません?!?!」
カリュさんが下の土台になってるけど、その肩の上に乗っかってポーズを取ったりまさかの逆立ちしたりしている。ま、マジでどうやってるんですかそれ。
向こうの人ってそういう芸が得意なのか?!
「よいぞよいぞ、もっと褒めろ!!」
「素晴らしいです!! びっくりしました!! 最強!!」
「フハハハハ!! 当然よの!!」
広場にサーシャのでかい笑い声が響き渡る。
「何の儀式なんだこれは」と我に返ったのは、散々すごいすごいと褒めちぎった後であった。
「なんか途中から旅芸人の方々の仕事を奪ってしまったような気が……」
「客が喜んでいたのだからよかろう」
まぁ確かに大ウケでしたけどね。
「それにしても、サーシャ様は何でも出来るんですね。
見ててすごかったし、面白かったです。見せてくださり有難うございます!」
貴重なものを見せていただいたのは事実なので、笑顔でそう言うと、サーシャはピタリと止まってこちらを見た。
いや、見たっていうか。
凝視してるって言った方が正しいなこれ。
「…………あの…………?」
「……ふむ」
何か呟いて顎に手を当てるサーシャ。
「そのように笑っていれば中々……、うむ、うん」
「??」
いや、だから何の話。
覗きこまれる顔をよく分からないままとりあえず見上げていると、サーシャが言った。
「そなた、やはり余のハレムに入らぬか?」
「え、いえ、入らないです」
入らん言うとるやろ。何でまた誘ってきたんだよ。




