いじめイベント襲来
「生徒会に入れたからって、いい気にならないでよね!」
「平民のくせに生意気な!」
さっきから大変不愉快な罵声が聞こえてきており、しかもそれが私の愛する大天使アイラちゃんに向かって浴びせられているということがもう発狂するぐらい腹立たしいです。
今すぐ学校内から武器とか持ってきていい?? 植木の管理する庭師さんとか用務員さんとかが持ってる鉈とか借りて来ようかな??
なんて思いながら、私は物陰に隠れて事の顛末をただ見ているだけだった。
え? 何で普段あんなに愛を叫んでるくせに止めに行かないのかって?
ふふふ、実はですね。
これは────大事な大事な、イベントの一つの前振りなのです!!
*
前にも言ったことあると思うけど、ゲーム本編では大体のルートでこの「苛められイベント」が起きる。
予想以上に早い発生だったため、一瞬「こないだ一緒に食堂付近に行っちゃったからかな……」と後悔もしたが、今となっては仕方がない。後悔先に立たずである。
それよりも重要なのは、ここで必ず攻略対象が助けに来ること!!
最後の攻略対象である「隣国の王太子」はもう少し先にならないと出てこないので、来るとしたらユーリかヴィクトールだ。
誰に教えられたのかは知らんが、このイベントは絶対攻略対象が助けに来てくれるのである。ちなみに来てくれるとしたら好感度のより高い方。
いやー、駆けつけて正解だったな。
お昼休みに入ってハイ毎日習慣推しとの食事会ですウフフってなってたら、「あれ? アイラちゃん居なくね?」と突然の不在に気付き。
クラスの人に聞いてみたら「他クラスの生徒に中庭へ呼び出されたみたい」なんて聞いたもんだから、これはもしや!! と思って全力ダッシュしてきたのだ。
そして案の定、中庭で知らん貴族令嬢にキーキー喚かれているアイラちゃんを発見。
攻略対象は……まだ来てない!! よっしゃ間に合った!!
そして現在に至る。
(許しておくれ、アイラちゃん……)
本当はもう聞いてられないくらいなんだけど。今すぐ「私の天使に何しとんじゃぁぁぁぁ!!」って叫びながら飛び出したい所なんだけど。
これは今誰の好感度が高いのかを知るためにも必要なイベントなんだ!! その内どっちかが必ず駆けつけてくれる!! だから、もうちょっとだけ我慢をお願いしたく思います!!
かくいう私も自分を抑えるのに必死である。腕にギリギリ爪を立てながら血の涙を流して耐えてるよ。自分が出ていってはならないこの状況に。
(ダメだダメだ、私が出てったらイベントが見れなくなっちゃう! 耐えろ、私!!)
何の為に長い時間を待って学園に入ったと思ってるんだ。全てはゲーム本編をリアルタイム、そして生で楽しむため。
そのためならばいくらでも我慢をしよう。
「あなた、平民の分際であの薔薇の宮に行っているそうね。いくら生徒会に所属しているからって、少しは弁えたらどうなの?」
「そうよそうよ。あそこは賢く貴い御方しか昔から入れない決まりなんだから」
(…………)
「しかも、廊下で生徒会長やユーリ様と仲良く話している所も見かけるし……! 全く、どんな汚いやり方を使って取り入ったのかしら。少しかわいいからって、調子に乗るのもいい加減にしたら?!」
「そうよそうよ!」
(…………)
「……ち、調子に乗っているつもりはありません。私はあくまで、学校内における友人や、先輩後輩の関係として接していて……」
「言い訳するなんて、ああ見苦しいったら無いわ! あなたなんかに言い寄られて、生徒会の方々もご迷惑に思っていらっしゃるのが分からないの?!」
「そうよ!」
「こぉんな卑しい平民に媚びを売られて、会長もユーリ様もお可哀想……!」
「そうよそうよ!!」
(…………)
いやそれしか言えんのかお前ら。
主にリーダー格の女子が喋ってて、他二人は合いの手入れてるだけなんだけど。もしかしてラップとか披露してらっしゃる所でした? Hey,YO。
いや、じゃなくて。
問題はそこではなく。
(────んんんん来ないねぇぇえ?!)
あまりの来なさっぷりに思わず驚愕した。
おかしい。ゲームではもっと早くに駆けつけていたはずなのに。異様に感知の早い攻めセンサーはどこ行ったの?
今一度現場をこそっと覗くが、やはり状況は依然として変わらず。
ていうか、何だろう。この「まるで来る気配の無さ」は。
(……えっ、来る……、来るよね……? 発生するよねイベント……?)
心配になってきちゃった。いや信じないでどうする。来る! 来るよ絶対! じゃないとこれ、アイラちゃんが可哀想な思いするだけで終わっちゃうじゃん!!
終わるといえば。
昼休み、もう半分くらい来てないだろうか。時計が見えないから分からないけど。
……、……来ます……よね……?
期待とハラハラから一変、一気に不安が押し寄せてくるが。
その時、ずっと俯いていたアイラちゃんがキッと令嬢達を真っ直ぐ見据えた。
「……っあの、先程から平民平民と仰っておられますが……」
「何よ。事実でしょう!?」
「確かに、その通りです。私はここに通う皆様とは違い、貴い身分の生まれではありません。
ですが、それだけで人を卑しいと判断するのは、良くないと思うのです」
「はぁ?!」
女子特有の「はぁ?!」攻撃にも怯まず。アイラちゃんは言葉を続ける。
「私の母も父も、私が生まれた時から必死に働いて、私をここまで育ててきてくれました。父母がくれた生活を、私が今まで生きてきた人生を、身分というものだけで悪く言わないでください」
「なっ……」
「それに、生徒会の皆様は毎日本当に、この学園、ひいてはここへ通う生徒達にとっての環境を良くするため、日々頑張ってお仕事をなさっているのです! 身分の差なども気にせず、皆が平等に仲良く過ごせる学園生活を作りたいと……、そんな心を持っていらっしゃる優しい方々であるからこそ、あなた方が蔑むこんな平民の私にも、普通に接してくださっています。その行いに対して、『平民が汚いやり方で取り入ったせい』などと仰るのは、とても失礼なことではありませんか」
「ッ……!!」
ギリ、とリーダー格のご令嬢が唇を噛み締めているのが見える。
自分が下に見て、嫉妬をブチかましていた平民の女の子に言い返されるとは思っていなかった模様。
「……私のことが気に入らないのであれば、いくらでも嫌味を言ってもらって構いません。ですが、私の家族をバカにしたり、優しい生徒会の皆様のお心を侮辱するような言葉は、どうかおやめください……!」
一連の流れを見ていた私は、耐えきれずに彼女の名を漏らした。
「……アイラちゃん……」
────ああ、やっぱり。だからこそ、君はこの世界のヒロインなんだね。
ゲームで見ていた通りの彼女だ。理不尽に責められながらも、自らを頑張って育ててくれた家族や、身分の差を気にしないで優しく受け入れてくれた生徒会のみんなのことに関してはきっちりと反論する勇気がある。
何よりも、自分がこの学校には相応しくないんじゃないかという負い目を持っているのに。だからこんな糾弾をされたら、きっと心が傷んでいるに違いないのに。
それでも、君は、泣かずに前をまっすぐ見てる。
(すごいな……、すごいよ、君は……)
だから私、あなたのことが大好きで。一番の推しになったんだよ。
だがそんな感動も、突然ブンッ! と高く振り上げられたリーダー格のご令嬢の手のひらによって強制的に中断させられる。
(はッ?!)
目を見開いた。
待って? あれ殴る気だよねもしかしなくてもね? 待って待ってゲームでは殴られる前に攻略対象来てたよ来てた筈なんだよ?! なんで?!
このままでは、アイラが頬をぶたれてしまう。
あの可愛らしい国宝級の顔面に、柔らかそうな白いほっぺたに、腫れが、
「────ちょっとぉぉおッ!!」
世界の宝に傷がつくと思ったらもう走り出してました。




