ポーカーフェイスな魔女が見上げていた星座は
親は気付いてないが僕はもう大人だ。
母子家庭とは言えもう親離れしてもいいよなと、時々考える。
だからかな。
夜中によく家出する。少し離れた高台から夜景を眺めるだけの家出。
ある寒い季節にそこで魔女と出会った。
本人は正体を隠しているつもりらしいが、僕は最初からピンときてた。僕の洞察力を舐めてもらっちゃ困るワケ。
だって全然笑わないんだよ。
雲のない夜に度々出くわす僕たちは、沢山話をした。よく分からない話もあるけど、星座の話は面白かった。夜空に物語があるのは何か素敵だ。
ある日魔女がポツリとこぼしたんだ。
「おうし座のトコ、あの星団が昴っていうのよ。
あそこに私のお友達がいるの。目が良ければもっと見えるのに…見えづらくなってきたな…」
そっか、魔女はすばるを見に高台へ来てたのか。
夜空にいるなんて、さすが魔女の友達だな。
空を見上げる。
細く冷たい風が鼻を撫でる。
その風に魔女の気持ちも嗅ぎ取る。
で、決めた。
翌日、母親に一緒に暮らしたい人が居るから家を出ると打ち明ける。
寂しそうだったけど僕の頑固さを知ってる母親は、
「辛かったらいつでも帰って来るのよ。」
って許してくれた。
だけど僕は帰らない。
実は気付いてる事がもう一つある。
それは母親に新しい彼氏がいるって事。
僕が出ていけばきっと楽になるよね。
雲ひとつない夜。
魔女はいつものように高台へ来た。
しばらく昴を眺めた後、魔女が立ち上がって帰ろうとし、すかさず僕は無言で付いて行く。
魔女は怪訝な目で僕を見る。
僕は平然な顔で魔女を見る。
「アンタは自分の家に帰りなさい。」
「いや、僕はアンタの家に住む。」
このやり取りを何度も繰り返し「今晩だけよ。」と溜息まじりに魔女が折れ、僕は魔女の家に住み着いた。
まかせろ。あの日感じた寂しさの匂いは僕が消す。
魔女の家は森の奥でひっそり、…ではなく商店街の喫茶店だった。
一番驚いたのは、店の中では明るく笑う事。
えっ、もしかして魔女ではない?
いやまてよ。
そいつは仲間か?
あるじいさんと親密に小声で話す魔女。
話を聞こうとそっと店内に入る。
「あ!コラ。こっち入っちゃだめよ。」
「あれ、ママ。猫飼ったの?」
「何だか付いて来ちゃってね。」
「可愛いな。名前は?」
「…昴。」
「昴…昴子から…?」
「勝手にごめんね。」
「いやいや、うん、いい名前だ…」
フン。可愛い、ね。
それよりじいさんも魔女と同じ匂いしてるのかよ。
しょうがないなぁ。まとめて世話してやっか。
良ければ他のなろラジ大賞4への応募作品にもお立ち寄り下さい。本文のタイトル上部『なろうラジオ大賞4の投稿シリーズ』をタップして頂けるとリンクがあり、それぞれ短編ですがどこかに繋がりがあります。