第98話 距離感がおかしいのでは?
「だからまずは東へ行ってみようと思う」
「なるほど。分かりました」
納得したアベルは少し肩の力を抜いたようだった。
やっぱり闇雲に魔王を探す旅よりも、目的地がはっきりしているほうが安心できるもんね。
「マリアは俺が守るから」
アベルはそう言ってマリアちゃんの手を握った。
「アベル、嬉しい」
にっこりと微笑むマリアちゃんは可愛い。可愛いけど、ラブラブすぎて目の毒だから、ちょっと場所をわきまえてくれないかなぁ。
そう思っていたら、エルヴィンがアベルの足をドカッと蹴った。
弁慶の泣き所だから痛そう。
「俺たちもいるんだから、こんな所でいちゃつくなよ」
「こんな所でって……エルヴィン先輩、俺は普通にしてるだけですよ」
「え?」
真面目な顔で言うアベルは誤魔化しているわけではなさそうだった。
マリアちゃんも、きょとんとしている。
つまり、この二人はこれが通常行動ってこと?
だとすると……旅の間中、ずっとイチャイチャを見せられるってこと?
それはちょっと勘弁かなぁ。
「二人はまだ婚約していないんだろう?」
お兄様に尋ねられたアベルとマリアちゃんは、顔を赤くしながら頷く。
初々しいよね。
「だとしたら少し距離が近いかな。いずれ君たちは勇者と聖女として、貴族に準じた扱いを受ける。その時にマナーができていなければ、侮られてしまうだろう」
お兄様の言う通り、小説でも魔王を討伐した後、アベルは男爵位と領地をもらっていた。
男爵は貴族の中で一番下とはいえ、やっぱり平民とは全然違う。社交界に出る機会もあるだろうから、マナーを覚えておいたほうがいいのは確かだ。
「だからこの旅から帰ったら、僕がアベルに、レティがマリア嬢に教えてあげる」
「いいんですか!」
お兄様の提案に喜んだアベルのお尻にしっぽの幻影が見える。喜びでブンブン振り回してるよ。
「その代わり、二人は節度を持って行動すること。大体、この旅で婚約者がいないのは僕だけなんだからね。少しは気を遣って欲しいな」
そう言われて、そういえば私とエルヴィンは婚約していたんだって思い出した。
思わず横を見ると、エルヴィンも私と同じように忘れてた、って顔をしている。
「いや、どっちかっていうとあぶれてるのは俺じゃないか?」
自分を指さすエルヴィンに、思わず頷きそうになって止める。
「エル様は私の婚約者だし、お兄様は私のお兄様なので、私たちはトリオということで良いんじゃないでしょうか」
「……いいのか?」
「だってエル様はお兄様の親友でもありますし、三人で仲良しなのはダメですか?」
ちょびっとウルウルしてみせると、エルヴィンは思いっきりうろたえていた。
「そっ、そうだな! 俺たちは三人で仲良しだもんな!」
「……単純」
納得したエルヴィンの横で、お兄様が呆れたように言う。
お兄様、しー、です、しー。
そんな本当のことを言っちゃいけません。
私たちのやり取りを見ていたアベルとマリアちゃんが、こらえきれないように噴き出した。
「俺もエルヴィン先輩の後輩だし、マリアはレティシア様の友人だから、俺たちみんなが仲良しってことですね!」
勇者らしいさわやかな笑顔でアベルが締めくくる。
さすが主人公!
でも、ね。
「私の専属執事のランも忘れないでくださいね」
ちょっとおどけて言うと、アベルがしまったという顔で御者席を見る。
「もちろんだよっ」
その慌てぶりがおかしくて、皆でわらってしまった。
魔法討伐の旅は――そんな風に、にぎやかに始まった。
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