第95話 ついに出発!
その後も色々マリアちゃんと話していたレヴラント枢機卿は、急いで聖女の認定をすると言って慌てて帰っていった。
いやー、それにしてもどうしてフィオーナ姫が聖女になったのかが分かって、すっきりしたわ。
今のフィオーナ姫にアベルとの接点はないし、聖女じゃないフィオーナ姫がわざわざ魔王討伐の旅に参加することもないだろうから、もう聖女にならないのが確定!
やったね!
正直、ちょっと不安だった。
魔王が復活したことで、強制力が出現して小説通りになるんじゃないかって。
途中から合流するとか。
お兄様がフィオーナ姫を好きになったりとか。
エルヴィンが魔物に倒されちゃったり、とか。
でもこれから先、フィオーナ姫が聖女にならないのなら、そういう未来はやってこないはず。
良かった~と思っている内に、お父様たちは魔王討伐の一行をどうサポートするという話をしていた。
魔王討伐の旅っていっても、この世界での旅にはかなりの準備が必要だ。
移動をどうするかとか、宿をどうするかとか、食料をどうするか、とか、そういう手配を全部しなくてはならない。
思い立ったらふらっと旅に出られるなんていう、現代日本みたいなお気楽な世界じゃないのだ。
小説ではもう人型の魔王が暴れまくっていたのでどこに行けばいいか分かってたけど、現時点では分かっていない。
私たちはランから魔王のいる方向を教えてもらってるけど、それでも方向だけだから、実際に向かってみないとどれくらいの距離になるのかは未定だ。
そこで馬車での移動一択なんだけど、その馬車の大きさにも色々ある。
魔王討伐の一行は、勇者アベル、聖女マリア、王太子エルヴィン、セリオスお兄様、聖剣ラン、そして私の六人だ。もちろんモコもいる。
だから四人乗りの馬車二台で男女に分かれて乗るか、それとも乗合馬車のような二頭立ての大きい馬車を一台用意するかで分かれる。
魔王討伐の旅なのに人数が少ないのでは、っていう意見もあったけど、下手に大勢で向かうと、それだけ支度に時間がかかっちゃうからね。
あと、大々的に勇者一行が出発します、って宣伝すると、地方の領主なんかがこれ幸いと厄介ごとを持ちこんでくるかもしれないんで、小説の時みたいな華々しい出発式もない。
勇者だけじゃなくてエルヴィンもセリオスお兄様もいるからね。
お近づきになりたいって考える貴族は多いと思う。
それこそハニートラップも警戒しなくちゃいけない。
そんな面倒を嫌ったお兄様が、お父様を後ろからつついて王様に直談判して、こっそり魔王討伐に向かうのを決定させた。
魔王がまだ弱いうちに、サッと行ってチャッチャと倒してこようというわけだ。
むしろこのメンバーで行くなら、過剰戦力なのでは、って気がしないでもない。
油断は禁物だけどね。
そんなこんなでお父様やお兄様が調整して、魔王討伐に出発するのは三日後に決まった。
そして三日後。
王宮と王都を出る門の中間地点にあるローゼンベルク公爵邸に全員が集まった。
エルヴィンは良く王宮を抜け出して遊びにきてるし、アベルたちも私の同級生だから、皆がうちを訪れていてもおかしくない。
ここでお別れだけど、エルヴィンの従者のイアンも一緒に来ていた。
イアンはどこぞのおかんのように、エルヴィンに色々と注意していた。
「いいですか、殿下。生水はお腹を壊すから絶対にそのまま飲んではいけません。必ず一度沸かしてから飲んでください」
「いざとなったらセリオスに氷を出してもらって、俺が溶かせばいいだろ。……魔法で出した水って飲めるよな?」
「飲めます」
「なら、いいか」
「雨に濡れたらすぐに服を乾かしてください。風邪をひきますから。それから――」
「あー、もう分かった分かった」
片手でしっしと振り払うような仕草に、イアンは救いを求めるようにお兄様を見た。
イアン、一応言っておくと、お兄様はエルヴィンの保護者じゃないから。なんでもかんでもお世話を押しつけないでね。
結局、馬車は六人乗りの大型のものを用意することになった。
左右に三人ずつ座れるようになっている、二頭立ての馬車だ。
一見、なんの変哲もない普通の箱馬車に見えるけど、実はローゼンベルク家で作った馬車なので、最高級の素材を使って作られているのだ。
そしてもちろん、車体には私の特製の「防御」と「快適」お守りがつけられている。
本当は「防御」じゃなくてどんな攻撃にも耐えうる「絶対防御」が良かったんだけど、そうすると魔力の関係なのかどうなのか分からないけど「快適」が使えなくなっちゃうんだよね。
でも「快適」があるだけで、お尻は痛くならないし、暑くも寒くもならないしで、はずせない。
ただの「防御」でも武器は防御するし、魔法はよっぽど強い魔法じゃなければ防御するから、それほど問題じゃない。
それに馬車で移動中に男女で分かれちゃったら、お兄様の麗しい姿を拝めなくなっちゃうでしょ。
そんなのは絶対に嫌だもの!
「お嬢様、ご無事でお戻りくださいね」
「こちら、念の為に用意した薬ですのでお持ちください」
もう既に涙目になっているお父様と、心配そうなドロシーとリチャード先生が、馬車の前で待っていた。
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