第94話 聖女の条件
疑問に思った私は、こそこそっとお兄様に尋ねてみた。
「お兄様、どうしてレヴラント枢機卿がいらっしゃるのですか?」
するとお兄様は冷めた目で枢機卿を見た。
「魔王討伐の栄誉を、王家だけに独占させたくないんだろうね」
まだ倒してもいない時から、そんなことを考えているとか、教会も権力志向すぎない?
「でも勇者って教会に所属してますよね」
アベルは女神レカーテの神託によって勇者になったから、当然といえば当然だよね。
「そうなんだけど、アベルはまだ王家が運営している学園の学生だから、完全に教会の所属とは言い切れない」
えっ。そうなの。
ってことは、王太子エルヴィンを筆頭に、ほぼ王家派で魔王討伐しちゃうと、教会の立つ瀬がなくなるってことか。
そこで聖女という教会の派閥を増やしておきたい、と。
確かに聖女見習いより聖女のほうがインパクトあるけど……なんかこう、やることがセコくないですか。
「でも、どうしてわざわざ異端審問官が?」
とりあえず百歩譲って教会が聖女認定に来たとしても、なんでそれがレンヴラント枢機卿なんだろう。
「一番『聖女』に詳しいからね」
「そうなんですか?」
「レヴラント枢機卿は、聖女を心から崇拝しているんだ。だからこそ、偽物を憎んで異端審問官になったと有名だよ」
なるほどー。
つまり推しを騙る奴らは絶許ってことか。
確かに、その気持ちは分からなくもないかも。
私だってお兄様を騙る人がいたら、まず不幸のお守りを貼りつけて、さらに髪の毛がなくなるお守りとか足が臭くなるお守りをつけて絶対に許さない。
はっ、そうだ。
これからは貼り付けてもバレない、ステルスお守りを開発すべきかもしれない。
お守りというよりは呪いのお札に近いけど。
私がどうやってステルスお守りを作ればいいかを考えているうちに、レヴラント枢機卿はマリアちゃんへの質問を終えたようだった。
そして厳かに宣言する。
「マリア様は、間違いなく聖女様です」
おお。やっぱり。
私は心の中で拍手をする。
「怪我も瘴気も癒せるのは、聖女様だけですから」
前にお兄様が言ってたね。
私のお守りで怪我と瘴気を癒せるのが分かったら、聖女認定されるから隠したほうがいいって。
レヴラント枢機卿はひれ伏さんばかりの勢いだった
よく見ると、感極まって涙を流してる。
え、こわ。
でもマリアちゃんが聖女に認定されて、良かったかもしれない。
聖女なら勇者と釣り合うから、お付き合いするのも反対されないもの。
「やはり勇者様への純粋な愛が、聖女様の覚醒に繋がったのでしょう」
レヴラント枢機卿の言葉に、私はおや、と首をかしげる。
「ってことは、聖女が覚醒するためには、何か条件が必要だったの?」
思わず口をついた疑問は、たまたまその瞬間誰も喋っていなかったからか、思いがけず響いてしまったらしい。
レヴラント枢機卿の顔が、ぐるんと私の方へ向いた。
糸目がぐわんと見開かれていて、ちょっと怖い。
「そうなのです。勇者様への献身的な愛があればこそ、聖女様は女神さまより聖なる力を授けられるのです」
へ~。そうなんだ。
あ、そっか。それで小説のフィオーナ姫も、本来は火魔法しか使えないけど、アベルへの愛に目覚めて聖魔法に覚醒したってことなのかな。
でも、ちょっと待って。
小説のフィオーナ姫は旅をしている間にアベルを好きになったっていう設定だったけど、旅に出る前にはもう好きになってたってことじゃない。
つまりそれは、結構前から婚約者のお兄様を裏切っていたという証拠。
信っっっじられない
もともとフィオーナ姫の印象は悪かったけど、さらに悪くなった。
こんなにも完璧なお兄様の婚約者だったというのに、浮気するとか、あり得なくない?
そりゃあまあ、アベルだって小説の主人公になるくらいにはカッコイイし良い人だけど、それでも比較する対象がお兄様だと、月とスッポン。
美しい艶のある銀髪も、アイスブルーの美しい目も、頭脳も剣技も、全部全部お兄様の勝ちで、アベルのほうが優れてるところなんて、何一つないじゃない。
小説の中で剣技だけはお兄様に勝ってたけど、今思えばあれは聖剣のおかげじゃないかと思うし……。
それなのにお兄様じゃなくてアベルを選ぶフィオーナ姫の気持ちが分からない。
この世界ではお兄様と婚約していなくて、本当に良かった~。
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