第91話 却下と言われても諦めません
「却下だね」
帰宅してすぐに口を開いたお兄様の第一声に、私は思いっきり出鼻をくじかれた。
「ええっ、なんでですか」
「むしろどうして許可されると思ったのか聞きたいくらいだよ」
呆れたようなお兄様に、あ、その顔も素敵、と思ってしまった。
いやいやいや、今はそんな場合じゃなくて、お兄様を説得しないと。
「実はですね、ランは魔王の居場所がわかるんです」
そう言うとお兄様は本当かというようにランを見る。
「まだ魔王は発生したばかりなので気配が薄いですが、大体の方角は分かります。あちらですね」
ランが指さしたのは聖剣があった洞窟とは逆の方向だ。
あれ?
小説では東じゃなくて北のほうに魔王がいたはずだけど。
発生した時期が違うから、場所もズレてるのかなぁ。
「それならば、ランだけを連れて行けばいい」
これで話は終わりだよ、と手を振るお兄様に、私は「それは無理です」と答えた。
「ランは本体の聖剣と離れすぎると人型を保っていられなくなるんですって」
お兄様はもう一度、本当か、とランに確認を取る。
「その通りです」
ランは肯定したけど、実を言うとランは王国の端から端くらいまでの距離であれば人型を保っていられるんだよね。
ただ本体の聖剣と離れれば離れるほど、能力は少し落ちる。
ということは、勇者パーティーの一行としては力不足になりかねない。
「でも契約者である私が一緒にいれば、大丈夫なの」
「しかし……」
「お兄様、お願い! またあの村の時のようにお兄様に怪我をしてもらいたくない」
黄金のリコリスと聖剣を見つけた直後、エルヴィンを狙った集団と戦いになってお兄様が倒れてしまった。
あの時の、世界が真っ暗闇になるような感覚を、もう二度と繰り返したくない。
もちろん魔王たちとの戦いはそれ以上に厳しいものになると思う。
でも勇者アベルはいるし、聖女になれそうなマリアちゃんはいるし、私もお守りの力をパワーアップさせて折り紙くん一号二号三号という戦力を持ったし。
なんといってもお兄様と私をモチーフにしたこの指輪があるからね。
負ける気はしないのです。
「それは僕も同じだよ。レティに危ない目にあってほしくはないんだ」
眉をひそめて苦悩するお兄様も美しいですが、やっぱり笑顔のほうが似合います。
私は抱っこしていたモコを肩の上に移動させると、お兄様の手を取った。少し骨ばった手は、ちょっと冷たい。
「だからこそ、ランに道案内してもらってサクッと魔王を倒しましょう。今ならまだそんなに強くないみたいですから」
お兄様は少し悩み始めた。
アイスブルーの瞳が揺れている。
よーし、あともう一押し!
「それにお兄様が守ってくれるって信じてますから」
絶対の信頼をこめてお兄様を見上げる。
だって私は知ってるもの。
目の前で私が倒れたのを悔いて、お兄様は誰よりも強くなろうとずっと努力してきた。
きっと勇者なアベルより、今のお兄様は強い。
モコとダブルでうるうるお願い目をすると、お兄様は大きくため息をついて前髪をかきあげた。
「ここでダメだと言っても、無理やりついてくるんだろうね」
なぜバレた。
確かにダメならこっそりついて行こうと思ってた。
だってだってだって、もう小説のお話と現在は違ってきてる。
小説でのお兄様は魔王を倒すまでは生きていたけど、これからどうなるかなんて分からない。
それに魔王の元へ辿り着くまでの戦いは、途中でエルヴィンが犠牲になってしまうほど熾烈なものだった。
エルヴィンの代わりに、お兄様がそうならないという保証はない。
だったら魔王がまだ力をつけていないイージーモードのうちにサクッと倒したほうが、絶対いいに決まってる。
まだ発生したばかりの魔王は人型になってないけど、人型になると段違いで強くなっちゃうんだよね。
だから同行を断られたらこっそり後をつけて、モコの毛を丸めたぬいぐるみっぽいのを作ってその中にお守りを入れて、道先案内をするモコモコ妖精さんをお兄様の近くに飛ばそうと思ってた。
お兄様たちが魔物を倒した後の道なら、私とランとモコと折り紙君たちでも何とかなりそうだしね。
「分かったよ。レティは僕が必ず守るから、一緒に行こう。ただし必ず僕の言うことに従うこと。いいね?」
やったー!
もちろんです、お兄様。
心配しなくても私がお兄様を守りますからね!
「ありがとう、お兄様!」
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