第83話 フィオーナ姫
小説では確かにフィオーナ姫が回復魔法を使っていた。
この世界で怪我や病気を治すのは、回復術師の役割だ。
報酬がいいことから、他に適性があっても、回復魔法の適性がある者は回復術師になるのがほとんどだ。
でも回復術師は魔物に傷つけられて瘴気を受けた傷を治すことはできない。
それができるのは修行を積んだ神官だけだ。
そして『聖女』は……『聖女』だけが、怪我も病気も瘴気も癒すことができる。
だからこそ『聖女』は特別な存在なのだ。
フィオーナ姫は『聖女』なのだから、回復魔法の適性に特化しているはずだ。
そのはず、なのに……。
魔法の適性は一つだけという人が多いけど、複数の適性を持つ人がいないわけじゃない。
たとえば完璧で最高なお兄様は、氷魔法の他に風魔法も使うことができる。
とはいえ、氷魔法のほうがはるかに威力が高いのは確かだ。
フィオーナ姫もあれほどの回復魔法を使うのであれば、他の魔法の適性は低くなければおかしい。
あんなに凄い火魔法を使えるはずがないんだけど……。
それとも勇者の影響を受けて聖女になると、どっちの適性も大きくなるのかな。
あー、確かに勇者って全属性の魔法に適性があるんじゃなかったっけ。
だとすれば、聖女として覚醒すると、今までの適性にプラスして回復魔法の適性が跳ね上がるなんていうことも考えられるかもしれない。
フィオーナ姫があんなに凄い火魔法を使ったことに驚いている間に、フィオーナ姫の護衛が残された魔石を拾い上げた。
その魔石は、激しい炎にさらされたからなのか黒くすすけている。
「やったのか」
「凄い!」
消えたケルベロスの姿に歓声がわく。
「フィオーナ姫、ありがとうございます!」
「フィオーナ姫!」
「フィオーナ姫!」
えええ。
ちょっと待って。
私もケルベロス倒すのに攻撃したんだけど。
っていうか、足止めしたのも頭を二つ倒したのも、私なんですけども……。
確かに入学したばっかりで私の名前を知らない人が多いのかもしれないけど、それにしたってフィオーナ姫だけ賞賛するのは違うんじゃないのかなぁ。
「レティシアさん、怪我はない?」
マリアちゃんが心配して駆け寄ってくれる。
ああ、マリアちゃーん。
あなただけが私の味方だよぉぉぉ。
「レティシア、というと、もしやローゼンベルクの幻の妖精姫?」
「そういえば、今年入学だと聞いていたわ」
「彼女がそうなのか……」
ふっふーん。
今頃気がついた?
そうです。別に幻でも妖精姫でもないけど、私がレティシア・ローゼンベルクです。
「まああああ。レティシア様、助けてくださってありがとうございます。さすがローゼンベルクのお血筋ですわね」
マリアちゃんを押しのけるようにクラスメイトの、えーっと、なんていう名前だっけ。
確か伯爵、子爵、男爵の、段々爵位の人たち。
「フィオーナ姫との連携も素晴らしかったですわね。日ごろから練習なさっているのかしら」
「ええ、ミュラー様のおっしゃる通りですわ。もちろん一番威力のある魔法を放ったのはフィオーナ姫ですけれど、レティシア様の魔法も素晴らしかったですわ」
ミュラー……、えーと、そうだ。
ドリス・ミュラーとイヴリン・ジュミットとローラ・ハモンドの三人組だ。
入学初日にお兄様狙いで声をかけてきたのを無視したんだっけ。
なんで今さら……。
いぶかしんでいると、ドリス・ミュラーたちはフィオーナ姫をチラチラ見ている。
ああ、なるほど。
学年の違うフィオーナ姫に近づくのは難しいから、姫の兄であるエルヴィンの婚約者の私を通じて仲良くなろうとしてるのか。
なんていうか、分かりやすいなぁ。
でも残念ながら、私はフィオーナ姫とそんなに親しくないんだよね。
小説ではお兄様を裏切ってアベルとくっついたから、親しくなる気もない。
私はチラリと横目でフィオーナ姫を見る。
(確かに、綺麗ではあるんだよね)
もちろんこの世で一番麗しいのはお兄様なんだけど、フィオーナ姫も負けていない。
その美しさには、まるで太陽が昇る瞬間のような、すべてを照らし出すような輝きがある。
金色の髪は純金を紡いだかのようにきらめき、軽やかに揺れている。
赤い瞳は極上のピジョンブラッドのように、濃く深い。
一目見たら視線を奪われる――それほどの美貌だった。
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