第82話 歌
ここにお兄様かランがいてくれれば良かったけど、いないのなら仕方がない。
私の攻撃でなんとか二つの首を倒すしかない。
「私が残りの二つを倒します。先生はタイミングを合わせて攻撃してください!」
一つはお兄様の魔法がこめられた指輪で倒して、もう一つは攻撃特化の『風刃』のお守りで首を切る。
二つの首を同時に攻撃だとタイミングが難しいけど……。
でも、やるしかない。
『残った頭の目が赤く光ると、残りの頭が復活する合図です。その間に倒してください』
(分かった。ありがとう、ラン)
三つの首を倒すのが、タイムラグなしでの同時じゃなくても倒せるのは朗報だ。
まずは『制止』のお守りで足止めをしたい。
「モコ、これをケルベロスに貼り付けて」
もし校外学習中にケルベロスが現れた時は、お守りで対抗しようと作戦を練ってきた。
本当はランが気を逸らしてる間に『制止』のお守りをモコに貼ってもらうはずだったけど、多少の作戦変更は仕方ない。
モコ、大変だけどよろしくね!
「きゅっ」
分かったとばかりに、モコが『制止』のお守りを口にくわえる。
私は左手の中指にはめている指輪にそっと触れて、お兄様に力を貸してくれるように願う。
そうしたからといって威力が高くなるわけじゃないけど、でも、お兄様が助けてくれるような気がするから。
「歌うよ、モコ」
私は深く息を吸って、歌を歌う。
「光と影の間で、僕たちは揺れ動く
風が物語を運び
月は静かに僕たちの道を照らす
僕らの出会いは一筋の光
照らし出す未来、揺るぎない絆
共に歩んだこの道程
君の笑顔が僕を導いた
君と一緒ならどんな闇も怖くない
そこで僕らは光を見つけるんだ
明日へと続く、この道を行こう
希望の歌を、共に歌おう」
これは小説『グランアヴェール』がアニメになった時の主題歌だ。
実力派女性シンガーが歌った主題歌は瞬く間に大ヒットして、私もカラオケの定番にしていた。
今でもつい鼻歌で歌ってしまうくらい大好きな歌なので、もちろん歌いこんでいる。
素晴らしいメロディーラインに、ケルベロスの足が止まった。
今だ!
モコが結界から走り出て『制止』のお守りをケルベロスに貼る。
「モコ、ありがとう!」
私は片手をあげて号令する。
「攻撃を!」
素早くケルベロスから離れたモコの姿を確認してから、『風刃』のお守りを首に向かって投げる。
それと同時に指輪の魔力を解放した。
「指輪よ、目の前の敵を倒せ!」
指輪から、慣れ親しんだお兄様の魔力が噴き出す。
それは狙い違わずケルベロスの首を狙った。
よし、これで!
いける、と思ったのだけど、先生たちが放った魔法の威力が弱い。
ただ一つ残ったケルベロスの目が赤く光って、遠吠えをしようと顔を天に向ける。
ああ、復活しちゃう。
そう思った時、私の横を赤い光が走った。
「業火の炎」
アルトの柔らかい声が後ろから聞こえる。
空気を切り裂き星のように輝くその炎は、講堂を一瞬で明るく照らし出した。
赤い軌跡は一直線にケルベロスへと向かって、最後の首を捉える。
真っ赤な炎が首に触れると、ケルベロスの頭は瞬く間に燃え上がり、黒い体を真っ白に照らし出す。
最後に残った頭が、口を大きく開けて叫びを上げた。
その叫びは雷鳴のように響き渡り、講堂全体を揺さぶる。
恐怖と絶望に満ちたその声は、断末魔の叫びとも取れるものだった。
頭を燃やした炎はそのまま容赦なく体を焼き尽くし、ケルベロスの力強さを一瞬にして奪った。
叫びが絶え、ケルベロスの姿は炎に完全に飲み込まれた。
カランと、ケルベロスの残した魔石が音を立てて転がる。
講堂にはただ熾火のような小さな炎が残され、ケルベロスがいた証として講堂全体を照らし続けた。
「やった……」
でも、誰が炎の魔法を放ってくれたんだろう。
そう思って振り向いた先には、脱いだ手袋をはめ直しているフィオーナ姫がいた。
今の攻撃はフィオーナ姫?
え、でもこんなに強い魔法を使えるの?
聖女って回復魔法に特化してるはずじゃないの?
もちろん二属性使える人はいるけど、あくまでも補助的なものだ。
複数の属性の強力な魔法を使いこなせるのなんて、それこそ勇者かお兄様くらいだ。
一体、どういうこと?
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