第77話 校外学習
そして迎えた校外学習当日。
登校してから聞かされた生徒たちは、一斉に騒めいた。
私みたいに上に兄弟がいる生徒は知ってたけど、そうじゃなければいきなり校外学習に行くなんて初耳だ。
ただ校外学習と言っても、ちょっと学園の裏の森に探索に行く程度なので、それほど危険はない。
そもそも王都には魔物除けの結界が張ってあるので、魔物が現れることはない。
学園はその結界のはずれにあって、本来は裏手の森も魔物が入れないようになっている。
でもそれだと生徒たちが魔物を倒す練習ができないからって、森全体をさらに別の結界で囲って、その中にわざと弱い魔物を放しているという、いわば人工の狩場にしているのだ。
しかも道の上を歩けば魔物に攻撃されることはないという安全仕様。
さすがにね、王族や貴族が通う学園だから、安全対策はバッチリなんだよね。
この学園を創設した人が天才だったらしく、学園には独自のシステムがいっぱいある。
王都全体を結界で覆う技術を発明したのも初代学園長なんだって。
その功績で、この学園を創設するのを許されたらしいの。
だから私たちが向かう泉までの道も、危険は何もない。
道の外にスライムとかツノウサギがいて、王都で育った貴族は魔物なんて見たことがないから、びっくりして怖がって。
それを上級生が魔法でちょいちょいと倒してみせて、新入生たちの尊敬と憧れのまなざしを一身に浴びる。
なんていう、いわば上級生と下級生の親睦を高めるイベントに過ぎないのだ。
……本来であれば。
でもなぁ。
ここにはアベルがいるんだよねぇ。
小説の主人公であるアベルは、トラブル体質だ。
もちろん本人に問題があるわけじゃないんだけど、信じられないようなトラブルが頻繁に訪れる。
小説の時も、アベルが新入生の時だったけど事件が起こったわけだし。
一応、講師であるお兄様は安全確認のために、泉の手前で待機している。たとえ小説のようにケルベロスが襲ってきたとしても、今のお兄様なら瞬殺だろう。
その他の先生方もたくさん道の途中で見守ってくれている。
だから安心なはずではあるんだけど……。
アベルがいて、無事にすむんだろうか。
しかも。
しかもだよ。
アベルだけじゃなくて、なんとフィオーナ姫もアベルと一緒なの。
そして、なんと、私とマリアちゃんの引率の上級生は、アベルとフィオーナ姫だったのである。
えええええええ。
なんでぇぇぇぇ?
確かにフィオーナ姫も上級生として引率しなくちゃいけないなら、学年で一番強いアベルと組むのは当然だと思う。
でもなんで私とマリアちゃんのとこに来るの?
もっと実力のある新入生が他にもいるんじゃない?
泉までの道に危険はないとはいえ、私たちは戦いに向いてないんですけど!?
「俺たちが君たちの引率役のアベルだ。よろしくな」
ニカッと笑うアベルの姿は屈託なくて、日に透けて柔らかい色を見せる栗色の髪の毛も、金の混じったような琥珀の瞳も、小説『グランアヴェール』の挿絵で見たそのままの太陽のような姿だ。
教室でチラっと見たことはあるけど、やっぱりアベルには太陽の光が良く似合う。
「フィオーナです。よろしくお願いしますわね」
おしとやかにお辞儀をするのはフィオーナ姫だ。
私は初めて近くで見るフィオーナ姫の姿にうろたえた。
え、なんか肌白い。唇真っ赤。
こんな綺麗な人、お兄様以外にも存在してたの?
手入れのされた金色の髪は艶やかにきらめいていて、光を反射してまるで輝いているかのように見える。
一見すると冷たく見えそうな赤い瞳も知的で穏やかで、ほんのりアルトな声も、その印象を柔らかく変えている。
もちろん遠目に見たことはあったからその容姿は知ってたけど、こうして近くで見ると、その美しさに圧倒されてしまう。
凛として立つ姿も美しく、まさに『グランアヴェール』のヒロインにふさわしい。
「ひえっ。お、お姫様……?」
マリアちゃんが横で大きく息を吸った。
そりゃそうだよね。
辺境の村で育ったマリアちゃんが、いきなり王族のお姫様と対面するんだもん。いくら学園では身分は関係ありませんって言われても、そりゃあ驚くよねぇ。
私も一応公爵家だけど、ほら、中身は前世の影響が強くて庶民だから、マリアちゃんもあんまり萎縮しなかったんだと思う。
でもフィオーナ姫は、どこからどう見てもお姫様だからなぁ。
っと、こうしちゃいけない。ご挨拶しないと。
「レティシア・ローゼンベルクです。よろしくお願いします」
制服のスカートをちょっとだけつまんで軽く頭を下げる。
さすがにこの格好じゃ、本格的なカーテシーなんて無理だもの。
「まあ、あなたがローゼンベルクの秘めた薔薇なのね。お会いできて嬉しいわ」
フィオーナ姫は嬉しそうに顔をほころばせる。
そうすると美人度がさらにがっつり上がった。
なるほど、これがヒロイン力……。
でもアベルのことを好きになるんでしょう?
だったら絶対にお兄様は渡しませんから!
「私もです」
私はにこにこ笑って、それ以上の会話をしなかった。
そして隣で怖気づいているマリアちゃんの背中をそっと押す。
マリアちゃんは、ハッと我に返ったのか、物凄い勢いで頭が膝につきそうなくらい深くお辞儀をした。
「マリアです! えと、アベルの幼馴染です。よろしくお願いします!」
「よろしく」
あれ?
なんか素っ気ないような……。
気のせいかな。
「さあ、泉まではすぐだから、さっと行ってさっとかえってこようぜ。魔物なんて襲ってくるはずがないからな」
いやいやいやいや、ちょっと待ってアベルさん。
そういうの、フラグって言うんですよ!?
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