第76話 準備万端
歴史学が終わった後は、お待ちかねのお兄様の授業!
ほくほくしながら授業を受けて、お兄様と一緒に家に帰る。
はぁ。幸せ……。
「そういえば、明日は校外学習があると思うよ」
「校外学習ですか?」
「うん。新入生が早くなじめるように、上級生と組んで学園の裏にある森を探索するんだ」
学園の裏手には、こんもりとした森がある。
そこには学生でも簡単に倒せるような、比較的弱い魔物が生息していて、授業で行く事も多い場所だ。
新入生たちは先輩たちの戦いを見て、魔物との戦いがどんなものかを学ぶ。
そういえば『グランアヴェール』でも、アベルが校外学習で森へ行ったっけ。
魔王が発生すると、地上の魔物も力を強くする。
けれどまだ誰も知らなくて。
安全な校外学習だったはずのなに、突然ケルベロスという魔物が現れた。
ケルベロスは頭が三つある大きな黒い犬の魔物で、騎士たちが十人かかってやっと倒せるほどの強さを持つ。
いくら教師や上級生が引率しているといっても、学園に入ったばかりの生徒たちが敵う相手ではない。
それでもアベルは聖剣を持って立ち向かおうとしたけれど、ケルベロスの威嚇に体が麻痺して動けなくなってしまった。
ケルベロスはアベルを狙い定めて飛び掛かろうとする。
その時!
私の最推しのセリオス・ローゼンベルク様が颯爽と現れて、氷の槍でケルベロスを串刺しにするのである!
そしてセリオス様の決めゼリフが出る。
「恐怖に打ち勝て! お前は勇者だろう!」
ふおおおおおおおおおお。
かっこいいいいいいいいいいい。
生まれて初めて感じる本能的な恐怖に、動けなくなってしまったアベルを背に庇いながら叱咤するお兄様の、カッコいい事と言ったら!
もちろんそんな素晴らしいシーンにイラストがついていないわけもなく、肩越しに振り返るセリオス様の尊い姿に、全世界が恋に落ちた瞬間だと思う。
もちろん私もその一人だ。
でも現実世界では、まだ魔王が復活してないからか、そのシーンは再現しなかったらしい。
お兄様にそれとなーく聞いたところ、普通に森に行って、襲ってくるツノウサギを倒しておしまいだったんだって。
お兄様の名セリフがなかったのは残念だったけど、私がその場にいて聞けるわけじゃないからそのままスルーしてました。
その校外学習があるのかぁ。
「明日とか、いきなりですよね。普通はそういうのって前もって生徒に説明しておきそうだけど」
「裏手にある森ですぐに行けるからね」
確かに、学校施設の中の見学と言えないこともない。
ただ……魔王ってまだ復活してないのかな。
小説の時みたいに、復活してるけど知らないだけって事になったら、きっとアベルを狙ってくるはず。
ここは有耶無耶にしないで聞いてみよう。
(おーい! ランー!)
私は心の中でランを呼んだ。
こういう時は聖剣のランは頼りになるんだよね。
『お呼びですか、お嬢様』
(あのね、教えてほしいんだけど、魔王ってもう復活してるの?)
『そろそろかとは思いますが、まだのようです』
(だったら安心かなぁ。でも一応念のためにランに聖剣としてついてきてもらったほうがいいのかな)
『例の、小説の内容ですか?』
ランには私が覚えている限りの小説の内容を話してある。
実は、この世界に転生してから段々前世の記憶が薄れてきちゃってるから、代わりにランに覚えてもらってるんだよね。
契約しているからなのか、ランに記憶してもらったことは、私の記憶からもなくならないのだ。
これって試験の時も便利なんじゃないかと、今から期待している。
(そうそう。アベルが入学した時の出来事で、時期がずれてるから起こらない可能性が高いんだけど、もしも、ってことがあるから)
『確かにもしもの時のために準備はしておいたほうがよろしいかと』
(そなえあれば憂いなしって言うしね)
『ええ』
作り置きしてるお守りはいっぱい持っていく予定だし、折り紙君一号も忘れないようにしなくちゃ。
モコはいつも肩に乗ってるから、頼りにするね!
「キュッ」
モコが任せて、というように、毛をふくらませる。
モコ可愛い!
ランは……うーん。さすがにランを執事として連れて行くわけにはいかないから、聖剣本体の形に……するのも、持って行くのが大変そう。
違う形になってもらうのが一番だけど……。
あ、そうだ。
指輪がいいんじゃないかな。
ちょうどお兄様色の魔石と私色の魔石を組み合わせた指輪ができたばっかりなんだけど、それにうまく重ねられる指輪の形にして身につければ問題なし。
前世の推し指輪の再現だけど、実用的でもあるからね。
これで準備はばっちりだね!
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