第73話 ラスボスじゃなくて勇者だったかもしれないお兄様
コミックファイア様にてコミカライズ連載開始です。
なんと、もう二話も読めちゃいます。
漫画・夏河もか先生
ぎゃんかわレティと麗しのお兄様の物語をぜひご覧くださいませ!
お兄様は説明するランを見て、何事か考えこんでいる様子だった。
さらさらの銀髪が少しだけ頬にかかって、なんとも言えず美しい。
はあ。眼福。
「その言い方だと、まるで聖剣があの村の近くになければ、アベルは勇者に選ばれなかったように聞こえる」
お兄様の言葉に、私のカップに紅茶のお代わりを注いでいるランが頷いた。
「その通りです。今ならばきっとセリオス様が勇者に選ばれるでしょう」
「お兄様が勇者?」
びっくりして思わず声を上げると、お兄様はそれほど表情を変えていなかった。
そんな風に冷静なのはお兄様だけで、エルヴィンも緑色の目をまん丸にしている。
あ、良かった。驚いてるのは私だけじゃなかった。仲間がいた。
「聖剣は、鍛冶神ヘパトスが直接創造した存在だし長生きだからね。あの洞窟で咲いていた黄金のリコリスが唯一無二の効果を持つように、そこにいるだけで影響力を持つんだと思う」
確かに魔力過多の特効薬になる黄金のリコリスはあの洞窟にしか咲いていなかった。
今はローゼンベルク家の温室で咲き誇っているけれど、それも聖剣の分身を温室の中央に突き刺しているおかげだ。
花がそれだけ影響を受けるのだから、人間もその影響を大なり小なり受けることになる。
特に子供は体が小さい分、大人よりも多くの影響を受けただろう。
でもあの村の人たちが全員影響を受けているとは考えにくい。
だってみんな、普通の人たちにしか見えなかった。
前世で読んだ小説の中には、主人公が最果ての魔王城に近い村に住んでいて、一見普通に見える村人たちは実は物凄く強くて周りのレベルの高い魔物たちを普通に倒している、なんていう話があったけど、アベルの住んでいる村の周りにはそれほど強い魔物はいない。
村人たちもどこからどう見ても普通だった。
でも待って。
そういえば、アベルの家は村のはずれにあって、そこには黄金になりかけたような、白に金の縁取りのリコリスの花が咲いていた。
そしてマリアちゃんがアベルと仲良しだったなら、アベルの家にも遊びに行ったことだろう。
子供の二人がその影響を受けて勇者と聖女になるんだとしたら……。
「聖剣って……今は執事になって、うちにいるんですけど……」
思わずランを指さすと、うやうやしく頭を下げた。
すっかり執事だなぁ。
って、感心してる場合じゃない。
聖剣がいると、魔力が増えるってこと?
せっかく魔力過多が治ったのに、また再発する可能性があるとか!?
「いえ。お嬢様に関しては契約者ですので、元々多い魔力がこれ以上増えることはないでしょう。ただセリオス様とエルヴィン様は以前よりかなり魔力がお増えになりましたね」
再発しないんだ。良かったー。
私が死ぬとお兄様がラスボス化しちゃうかもしれないから、それだけは避けないといけない。
ピカピカ光ったり、興奮して魔力が増えすぎるとリミッターが発動して寝ちゃったりするくらいなら問題ない……はず。
「なんか最近魔法が強くなったと思ってたのは気のせいじゃなかったんだな。じゃああれか。聖剣が王宮にあったら、俺が勇者になってたかもしれないのか」
だらだら寝転がっていたソファからがばっと起き上がったエルヴィンは、悔しそうに髪の毛をかきむしった。
えー、勇者になったら、魔王と戦わないといけなんだよ?
それに小説ではエルヴィンはお兄様たちをかばって命を落としていた。
エルヴィンは単純だから、なんとなくカッコいいからってだけで勇者に憧れていそうだけど、現実はもっと大変なんだよ。
そこまで深く考えてないんだろうなぁ。
まだ魔王も復活してないしね……。
勇者が選定されたってことは必ず魔王が復活するんだけど、いつ復活するかは決まっていない。
記録によると、魔王が復活した後で勇者が現れたこともあるみたい。
ただ勇者の選定と魔王の復活の時期は、離れていたとしても十年前後だ。
確かに、勇者が現れて五十年後とかに魔王が復活したら、体力的に魔王討伐の旅に出るのも大変になりそう。
勇者を選定する大地の女神レカーテも、そこら辺はちゃんと考えているのかもしれない。
「エル様は勇者になりたかったの?」
「響きがかっこいいじゃないか」
そうだろう、という目で見られても返事に困る。
お兄様と同じ年のはずなのに、エルヴィンってまだまだ子供だなぁ。
「エルヴィン様もかなり魔力が増えましたが、やはりセリオス様は格別ですね。なんといってもまだ十一歳の時ですら、私を圧倒する魔力でしたから……」
そう言ってランはちょっと遠い目をする。
お兄様、ランと会った直後に一体どんな教育的指導をしたんだろう。
「たまたま女神レカーテの目があの村の近くに向いていただけで、おそらく私が王都にいたとすれば、セリオス様が勇者に選ばれていたでしょう」
お兄様が勇者かぁ。
ラスボスだったお兄様も麗しく哀しくて素敵だったけど、勇者になったお兄様を想像しても、それはそれで凄くかっこいい。
聖剣グランアヴェールを手に、魔王と戦うお兄様……。
ふおおおおおぉぉぉぉ。
それって素敵が限界突破してませんか!?
思わず興奮してしまって、膝の上のモコが起き上がる。
モコの毛が私の魔力を吸ってケバケバだ。
そして全身が光る。
ランが慌てて私の手を取って魔力を調整しようとするけど――。
ごめんなさい。魔力が増えすぎてリミッターが発動しました。
おやすみなさい……。
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