第71話 だって最推しなんだもの
コミックファイア様にてコミカライズ連載開始です。
漫画・夏河もか先生
ぎゃんかわレティと麗しのお兄様の物語をぜひご覧くださいませ!
「ということで、どう思いますか、お兄様?」
「聖女か……」
家に戻った私は、さっそくお兄様に質問してみた。
学園の講師になったとはいえ、公爵家の後継ぎとしての仕事もあるお兄様はとても忙しい。
そこにさらに王太子エルヴィンの側近としての仕事もあるんだから、休む暇もないはずだ。
でもスーパー有能お兄様は、学園での授業が終わったらさっさと帰宅して仕事を片付けて、私とのお茶の時間を捻出してくれている。
お兄様は行きだけじゃなくて帰りも私と一緒の馬車で帰りたがったけど、さすがに学園に他の仕事の書類を持ちこむわけにはいかず断念したらしい。
もしお兄様がまだ学生だったら一緒に登下校できたんだけどなぁ。
学生服姿のお兄様は本当にカッコよかったから、制服でのお揃いコーデをしたかった、って嘆いたら、学生服姿のお兄様がお出迎えしてくれました。
はああああああ。
やっぱりかっこいいぃぃぃ。
推しが、私とお揃いの制服を着てるー!
これはファンサービスですか?
どこにお布施すればいいですか!?
兄妹として暮らしてもうお兄様の麗しさには慣れたはずなのに、お兄様はいつでもときめきで私の心臓を止めにかかります。
今は魔力過多が治ったので、あふれた魔力はまるで仏様の後光のように部屋全体にあふれています。
……お兄様、尊い。
「相変わらずレティシアはセリオスが好きだな」
呆れたような声を出すのは、いつの間にか我が家の応接室でくつろいでいるエルヴィンだ。
れっきとした王太子なのに、ここが実家かというくらい、うちに入り浸っている。
ただ、それは王宮で安心して過ごせないっていう理由があるから仕方ないかな。
黄金のリコリスを探しに行った旅の時、私たちは襲撃を受けた。
それはエルヴィンを狙ったもので、犯人は分からなかったけど、王妃の可能性がある。
王妃はエルヴィンの継母で、フィオーナ王女の母だ。
王女が王位に就くのは王国法で禁止されているし、王妃には他に子供はいないから、エルヴィンの王太子の座は安心だって思われていた。
だけど実際には襲撃されて、しかも王妃が関係した可能性が高くて、エルヴィンは王宮での居場所を失ってしまった。
それまで継母とはいえ、愛してくれていると思っていたから、なおさらその衝撃は大きい。
ちょっと人間不信っぽくなってたエルヴィンだけど、精霊のモコと聖剣のランには心を開いていて、彼らのいるローゼンベルク家に入り浸ってだいぶ復活したみたい。
お兄様と私も味方認定してるらしく、執務の間を縫っては遊びにくる。
正直、お兄様と私が一緒にいる時間を奪われてるのでそんなに頻繁に来ないでほしいんだけど、お兄様が許しているので仕方なく私も受け入れている。
あ、あと一応エルヴィンは私の婚約者だしね。
婚約者っていっても、人間不信のエルヴィンが他に好きな人を見つけるまでの関係かなって思ってるので、私たちの間に色っぽいことは何もない。
小説のエルヴィンほどじゃないけど、基本的に脳筋で明るくて素直だから、むしろ私にとってエルヴィンは弟枠だ。
お兄様と同じ年だけど、私にとってのお兄様はセリオス・ローゼンベルクただ一人なので、残る家族枠は弟しかないしね。
「もちろんですとも。太陽が昇るのと同じくらい、私がお兄様を好きなのに変わりはありません」
きっぱりと断言すると「相変わらずぶれないな」と言って、エルヴィンは大笑いした。
私の答えなんて分かってるんだから、笑うくらいなら最初から聞かなければいいのに。
むうっと口をとがらせると、お兄様が私の口にチョコレートをつまんでくれる。
もちろんお兄様手ずからのチョコレートを食べないわけもなく、私は「あーん」と大きく口を開けた。
エルヴィンはそれを見てさらにゲラゲラと笑う。しかもソファに横になりながらという、お行儀の悪さだ。
いくら気心が知れているといっても、もうちょっと遠慮というものを考えてほしい。
私は呆れたようにエルヴィンを見たが、すぐによそ見している場合ではないと思い直す。
それよりもお兄様がくれたチョコを、しっかり味わって食べなくては。
パクっと口に入れるとほろ苦い甘さが口の中に広がる。
小さい頃は甘いミルクチョコが好きだったんだけど、今はもう大人になってきたからお兄様と一緒のビターチョコが大好き。
お兄様が口に入れてくれたからか、特においしく感じる。
喜びにあふれる私の体は、まるでイルミネーションのようにピカピカ点滅していた。
そしてエルヴィンは涙が出るほど笑い転げている。
「もし本当にあのマリアという生徒が聖女だとしたら、レティへの興味をなくすだろうからいいかもしれないね」
「あー、レブラント枢機卿、しつこかったもんなぁ」
笑いを治めたエルヴィンが、目じりの涙をぬぐいながら起き上がる。
「そういえば最近は来なくなったけど、それってもしかしてマリアちゃんのほうへ行ってたのかな」
私の作ったお守りの効果が悪いものかどうかを探るために、教会の異端諮問会のレブラント枢機卿が訪問してきたことがある。
お守りは精霊と言われているモコの毛で刺繍しているから、すぐに異端じゃないって認定されたんだけど、見本として渡したお守りの効果にレブラント枢機卿が「聖女じゃなくてもこれは凄い」って興奮しちゃって大変だった。
うちが公爵家じゃなければ権力のゴリ押しで、教会に拉致されてたかもしれない。
確かに前世でもお守りは神社で売ってるし、教会で加護があるって売り出したらとんでもなく売れるだろうから、気持ちは分からなくもないけど。
でも私はみんなの幸せより、お兄様の幸せのほうが大切だから、そこは譲れない。
だって最推しなんだもの!
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