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【書籍化・コミカライズ連載中】グランアヴェール~お守りの魔導師はラスボスお兄様を救いたい~  作者: 彩戸ゆめ
第ニ章 学園に入学しました

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第64話 バレンタインSS 推しにはチョコを貢ぎたい!

 小説『グランアヴェール』の暦は、一カ月が三十日で、十二カ月で一年になる。


 つまり、この世界には二月十四日が存在するのである。


 もちろんバレンタインデーを祝う習慣があるわけでない。バレンタインの元になった聖バレンタインがいるわけじゃないしね。


 しかし、前世日本人、そして心から崇拝する推しがいるならば、バレンタインデーは必須のイベント。


 前世でも私は病室のベッドの脇に祭壇を作り、そこにセリオス様のイラストを立てかけチョコを捧げた。


 看護師さんとかに変な目で見られたけど、そこは推しを布教するチャンスとばかりに、思いのたけを訴えたのだ。


 大体は笑顔でスルーされたけど、ちゃんと読んでくれる人もいたんだよね。

 ……なぜかエルヴィン推しになっちゃったけど。


 とはいえ『グランアヴェール』の話ができたのは楽しかった。


 バレンタインも、セリオス様の祭壇を作るのに材料を買ってきてくれたり、カプセルトイを買ってきてくれたりと、色々協力してくれたっけ。


 そして今、私の目の前には推しその人がいる。


 となれば、バレンタインにチョコをあげるのは必然だよね!

 幸い、この世界にはチョコレートがあるから、それをプレゼントすればいいわけで……。


 でも、ただ普通のチョコをあげるんじゃ、おもしろくないなぁ。


 といっても、三歳児の私では凝った手作りチョコレートなんて作れないし。


 うーん。どうしよう。


 悩みに悩んだ私は、夜寝る前に良いことを思いついた。


 これだ!


 私はさっそくドロシーに頼んでチョコレートを手配した。










 そしていよいよバレンタインデー当日。

 私はお兄様とお父様を誘ってお茶会をした。


 日当たりの良い一階の部屋でのお茶会で、大きな窓があるから外の景色が良く見える。

 花壇には冬咲きの薔薇が咲いていた。


「にーたまとおとーたま、来てくれてありがとでち」


 まだちゃんと「さしすせそ」が言えないので、ちょっと赤ちゃん言葉になってしまっている。

 恥ずかしいけど、どんなにがんばっても無理なのだ。


 カタコトでも意味が通じてればいいやと、最近では諦めました。


「レティ、お招きありがとう」


 ああああああ。

 にっこり微笑むセリオスお兄様の顔の良さよ!


 私はドロシーに子供用の椅子に乗せてもらうと、膝の上にモコを置く。


 お兄様たちはテーブルの上のチョコを見て、不思議そうにしていた。

 なぜならそこには丸や四角のチョコではなく、スプーンの刺さったチョコが置いてあったからである。


「どーいたちまちて」


 ペコリと頭を下げると、お兄様とお父様の顔がほんわかと緩んだ。


 うんうん。お母様譲りの顔の私、可愛いもんね。


 しかも無敵の幼女!

 可愛さマシマシなのである。


 私はドロシーに合図して、ホットミルクを持ってきてもらった。

 ローゼンベルク家の紋章が描かれたカップからは、ホカホカの湯気が出ている。


 いかにも高級です、って感じのカップだけど、公爵家では普段使いだ。

 落とさないように気をつけなくちゃ。


「その……このチョコはこのまま食べていいのかな」


 お父様がちょっと途方に暮れたように、目の前に置かれたホットミルクとチョコを交互に見た。


「だめでちゅ」

「ダメなのか……」


 シュンとするお父様に、私は慌てて言い直す。


 もー。お兄様をそのまま大きくしたような怜悧な美貌の持ち主なのに、捨てられたわんこみたいな表情をするのはやめてー!


「これは、こーやるのでちゅ」


 まだサシスセソがちゃんと言えないから、かみかみで喋る。

 でも、態度はキリっとしてるはず!


 私はチョコに刺さったスプーンを取って、ホットミルクの中に入れる。

 すると、チョコが溶けておいしそうなチョコレートドリンクになった。


 全部溶けたところでスプーンを取り出してお皿の上に置く。

 両手でカップを持って飲むと……。


「おいちい……」


 ほわ~んとした気持ちで呟くと、お兄様とお父様が競うようにスプーンをカップの中に入れてかき混ぜた。


 お父様よりちょっとだけ早くチョコを溶かしたお兄様が、カップの中身を飲んで少し驚いたような顔になった。


 ふふふ。

 おいしいでしょう~。


 疲れた時にも抜群なのよ。


「これはレティが考えたの?」


 お兄様に聞かれて、私は「うーん」と言葉につまる。

 私が考えたっていうと嘘になっちゃうなぁ。


 どうしよう。

 あ、そうだ。


「夢でみまちた」


 私が断言すると、お兄様はアイスブルーの目をまん丸にした。


 ふおおおおお。

 可愛いカッコイイ~!


 ぶわっと膨らむ魔力を、モコがすぐに吸い取ってくれた。


 危ない危ない。

 ついお兄様の魅力に負けそうになってしまった。


「夢で?」

「あい」


 お兄様にじーっと見つめられるのは嬉しいけど、それ以上のことは言えないから困る。


 私は誤魔化すようにカップを両手で持ってホットチョコレートを飲む。

 やっぱり、おいしいなぁ。


 しかも前世から最推しのお兄様と一緒に飲んでるから格別だよね。


「そうか。レティは特別な子だから、神様が教えてくれたのかもしれないね」


 お兄様はにこっと笑ってホットチョコレートを飲む。


 やった! お兄様も気に入ってくれたみたい。

 推しにチョコレートを貢ぐミッション、完了~!


「チョコレートのまま食べるのもいいけど、こうやってホットミルクと一緒に飲むと体が温まる」


 お父様も目を細めてホットチョコレートを飲んでいる。


 えへへ~。

 二人とも気に入ってくれたみたいで良かったぁ。


 この世界にバレンタインはないけど、毎年二月十四日にはお父様とお兄様にチョコをあげようっと。


 お兄様!

 と、お父様。


 ハッピーバレンタイン!


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