第6話 ロバート博士
ミランダの代わりに私の侍女になったドロシーはとても優しい。
茶色の髪に茶色の瞳で、ほんわかした雰囲気の可愛い女の子だ。
小さい弟や妹がたくさんいるらしく子供の扱いも上手なので、毎日の暮らしが快適になりました。
しかも絵本とかも読んでくれるから、お喋りが上手になった。
まだ舌足らずだけど、これで思う存分、お兄様への愛を語れる!
「お嬢様、ご機嫌ですね」
私のピンクゴールドの髪をすくドロシーが、にこにこしている私に鏡越しに語りかける。
「にーたまと、あしょぶの」
「それは楽しみですね」
私のお兄様愛は、今ではすっかり屋敷中の人に知られている。
なにせお兄様がいればいつでもご機嫌なのだ。分からないはずはない。
はあ。
推しのいる生活がこんなに素晴らしいものだったとは。
朝起きて食堂でお兄様に朝の挨拶をして、そのままお兄様のお勉強姿を堪能して、お昼ご飯の後はお兄様が剣術の稽古で汗を流すのを観察……ではなくて見学して。
毎日が薔薇色です。
たまに興奮しすぎて死にそうになるけど、優秀なお医者さんとモコのおかげで何とかなっている。
主治医のロバート先生は、魔力過多の研究で有名な先生らしい。
娘さんが魔力過多で亡くなっているので、ずっと治療薬を研究しているのだとか。
もっと私がちゃんと喋れれば、特効薬の作り方を教えるのになぁ。
といっても勇者アベルの故郷の村は小説で「辺境の村」としか書いてなくて、アベルが聖剣を手に入れた後すぐに魔物に滅ぼされちゃうからどこにあるのか分からない。
村の名前さえわかれば、小説で書かれていたのよりも先に魔力過多の特効薬が作れるし、勇者の両親も含めた村人たちを救う事ができる。
確か小説のレティシアが魔力過多で死んじゃうのは特効薬が見つかる直前だから、タイムリミットまであと九年かぁ。
それまでには何としても特効薬を見つけたい。
「さあ、お可愛らしくなりましたよ」
頭の上に大きなリボンをつけてもらった私は、横を向いて鏡をチェックする。
うん。お兄様ほどじゃないけど、美幼児!
ピンクゴールドの髪に紫の瞳の私は、お父様には全く似ていない。
もちろんお父様に瓜二つのお兄様にも似ていない。
でも肖像画のお母様は私にそっくりだから、きっと将来はお母様のような美人になるはず。
「ドロチー、あいまと」
私は椅子からぴょんと飛び降りるとお兄様の部屋へと急ぐ。
「お嬢様、ロバート先生が急に走ってはダメだと言っていましたよ。私と手を繋いで行きましょう」
「あい」
そうだった。
心臓がドキドキする事は全部禁止なんだった。
もう少し大きくなれば軽い運動もできるみたいだけど。
あれ? そういえばロバート先生って小説に出てくる保健室の先生じゃない?
娘さんを魔力過多で亡くしてて、自由に研究できるからって学園に勤めてる。
それで生徒として入学したアベルが小さい頃は魔力過多で苦しんでたって話を聞いて、もしかして治す薬があるんじゃないかとアベルの故郷の村に行って調べるのよね。
そこで見つけるのが聖剣のあった洞窟で見つけた黄金のリコリス。
その花粉が、魔力過多の特効薬になるの。
小説では挿絵に描かれてなくてアニメでちょこっと出てたけど……ロバート先生をもうちょっと老けさせたら、まさにあの保健室の先生だ。
という事はつまり、黄金のリコリスの花粉さえゲットできれば、特効薬が作れるって事!
これは何としてもアベルの故郷を見つけなくっちゃ。
うーん。聖剣がある場所って特に有名ではないのよね。
そもそもアベルも聖剣に呼ばれるまで、そこに洞窟があった事すら知らなかったし。
っていうか、よく考えると聖剣に意思があるんだ。
そしたら、呼べば応えてくれないかな。
聖剣さん、聖剣さん、あなたは今どこにいるんですか?
なーんてね。
遠く離れた場所にあるんだから、返事なんて返ってくるわけないか。
『我を呼んだか』
んん?
今誰か喋った?
もしも「面白かった」「続きが気になる」などと思って頂けましたら、
広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援いただけると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします!




