第56話 勇者パーティーの現在
HJノベルス様より2023年1月19日に1巻発売予定です。
そしてコミカライズも決定しました!
応援ありがとうございます。
小説ではお兄様の婚約者になるフィオーナ姫だけど、ここでは誰とも婚約していない。
この国でフィオーナ姫の婚約者にふさわしい相手はローゼンベルク公爵家の嫡男――つまり、世界で一番素敵なうちのお兄様くらいしかいないのだけど、形式上とはいえ、私が王太子のエルヴィンと婚約してるからそれは無理。
さすがに同じ家から王家と縁続きになるものが続いちゃうと、他の貴族家から不満が出ちゃうし、ローゼンベルク公爵家が王家を乗っ取ると思われてしまう。
だからフィオーナ姫とお兄様との婚約は、一度も話に出てこなかった。
グッジョブ私!
だってフィオーナ姫はあんなに素敵でカッコイイうちのお兄様ではなく、勇者アベルを選んでしまうのだ。
そんな相手に、私の大切なお兄様を渡せるものですか。
絶対に阻止します。
その為には我が身を犠牲にするのもいとわないのです。
といっても、婚約者になったエルヴィンは、お兄様と聖剣の教育的指導によって、小説よりもだいぶ性格が丸くなった。
王太子の仕事が忙しいだろうに、ちょくちょく家に遊びにきてお兄様とランにつっかかっては撃退されている。
外面はちゃんとした猫を被れるようになったので、あれはきっとお兄様やランに甘えてるんだろう。
九年前、黄金のリコリスを求めてヘル子爵家の領地に行った時に継母である王妃の差し向けた刺客によって殺されそうになったエルヴィンは、否応なしに大人にならざるを得なかった。
黒幕が王妃であるという、はっきりとした証拠は出なかった。
トカゲのしっぽ切りのように、「盗賊の横行を許した」という罪でヘル子爵家が取り潰され、王妃のスパイとしてローゼンベルク家に送りこまれていたミランダは、一度入ったら二度と出ることができないと言われている修道院に入った。
今までずっとエルヴィンを可愛がっていた王妃が疑われることはなく、逆に王妃から距離を取るエルヴィンのほうが逆恨みをしていると陰口を叩かれている。
無邪気で脳筋だったエルヴィンは、ほんの少しだけ大人になった。
思ったことをすぐ口にするところは変わらないけど、相手の好意を無条件に信じなくなった。
いわゆる、人間不信である。
血がつながらないとはいえ、あんなに慕ってた王妃に殺されかかれば無理もないかなーと思うし、私たちには心を開いてるから、いいかな、と思ってる。
そして私がエルヴィンの婚約者になったことで、ローゼンベルク家は王妃とフィオーナ姫とは距離ができた。
一応私は未来の王太子妃ってことになってるんで王太子妃教育があるけど、基礎は我が家でやればいいし、お城に行っての勉強は、王妃サイドがエルヴィンを殺そうとした疑惑が濃い以上、命の危険があるので、病弱を理由に行ってはいない。
そもそも私には王太子妃とか向いてないので、エルヴィンには早いとこ、他にふさわしい女性を見つけてほしいものだ。
それにしても、と私は壇上のフィオーナ姫を見る。
お兄様からの情報によると、フィオーナ姫とアベルはそれほど交流がないのだそうだ。
本来なら既に魔王が復活して討伐されてるはずだから、おかしいなぁと思うんだけど、やっぱり戦いの中でしか燃え上がらない恋ってあるのかもしれないね。
特にフィオーナ姫と平民のアベルとじゃ、思いっきり身分違いだもんね。
アベルが魔王討伐という功績を残して、ラスボスになったお兄様を倒したからこそ、結ばれたわけだし。
そこで私は最上級生の席にいるアベルを見る。
明るい栗色の髪。琥珀に金の混じる珍しい瞳。
一目見て、アベルだってすぐに分かった。
勇者として認定されているからか、アベルの周りには清廉な空気が流れていて、目が離せない。
もちろん私の最推しのお兄様には敵わないけど、これがいわゆるカリスマというものなんだろう。
ただ未だに魔王が復活してなくて旅にも出てないので、小説のラストの時のように眉間に皺が寄っていない。
本当だったなら、魔王討伐パーティーとして共に戦うはずだった勇者アベル、フィオーナ姫、そしてセリオス・ローゼンベルク――私の、お兄様。
いずれ王太子エルヴィンを含め、魔王討伐パーティーを結成して命を預け合う四人のいる位置はこんなにも離れている。
小説の時間軸ではとっくに討伐されて、ラスボスになったお兄様も討伐されている頃なんだけど、なぜか魔王は未だ復活していない。
この世界の魔王は、恨みを持って死んだ人間の瘴気が冥府からあふれて人型を取ったものだ。
元が人に恨みを持つ者の思念の塊だから、とにかく人間を滅ぼそうとする。
でも我が家の元聖剣執事のランによると、女神レカーテによって勇者は選定されたけど、まだ魔王は人型を取るほど力を持っていないらしい。
だったら瘴気の塊のうちに倒せばいいんじゃないかと思うんだけど、人型でもなんでもいいから形を取らないと、人の剣では倒せないんだそうだ。
人じゃなくて神様がちょいちょいっとやっつけてくれればいいのにと思うんだけど、元々が人の恨みから生まれている存在だからダメなんだって。
ただ勇者が選定されたってことは、遠くない内に魔王が復活するのは確実なんで、アベルは戦い方を覚えるために学園に入学して、お兄様は勇者に魔法を教える講師になったのだ。
そのおかげで私はお兄様と一緒に学園に通えるわけだから、大歓迎!
週に一度は、朝起きてお兄様におはようの挨拶をして、そのまま一緒の馬車に乗って登校するんだもん。
魔力過多が治ってなかったら毎日が命の危機だったと思う。
たまにピカピカ光っちゃうけど、私とお兄様が持ってる防御お守りの魔力が補充されていると思えば何も問題ないよね。
いよいよ待ちに待った講師の紹介が始まって、お兄様の名前が呼ばれた。
講堂中にざわめきが起きる。
そうでしょうそうでしょう。
当代一と言われているお兄様に魔法を教えてもらえるなんて、凄いことだもんね。
みんな、アベルに感謝しようね!
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