第54話 嬉しいけれどピンチです
いや、おかしいよね。
なんで光るの。
黄金のリコリスから作った特効薬は、魔力の暴発が起こる前に霧散させるものなんだけど、私の場合はなぜか光るようになってしまった。
あれかな。小説で最推しのセリオスお兄様が倒される時に「僕の光――」なんて言いながら死んでいったから、その伏線を回収するために光るとか。
って、そんなわけあるかーい!
でもクリスマスのイルミネーションのようにピカピカ光る体質は、私が入学する時になっても改善されなかった。
むしろ、成長して魔力が増えるにつれ、ピカピカ度は増していった。
……。
…………。
ま、まあ、死んじゃうよりは光ったほうがいいかな。
それにお兄様はもう卒業しているから、刺激が供給されることもなくて――。
「あ、そうだ、レティ。実はね、週に一度魔法学の講師として学園にお手伝いに行くことになったんだよ」
「え……」
いよいよ入学式が始まるという直前になって、親族の席に向かうはずのお兄様が私と同じ方向に進むのを不思議に思っていたら、とても爽やかな笑顔のお兄様が爆弾発言をした。
「驚かせようと思って内緒にしていたんだ」
「本当ですか!?」
ちょっと待って!
お兄様はもう魔法省のエースとして働いていて、私も学園に入学したら忙しくなるからお兄様に会う時間が少なくなるなぁってがっかりしてたのは確か。
だから学園でちょっとでもお兄様に会えるのは凄く嬉しい。
嬉しいけど……。
この学園には、お兄様を殺す勇者アベルと、お兄様を裏切るフィオーナ姫がいるんですよ……。
小説の通り、アベルは勇者として覚醒した。
でもなぜか魔王は誕生していないのである。
魔力の暴発によって膨大な魔力を発したアベルは生死の境をさまよったけど、その時に勇者として覚醒して命を取り留めた。
勇者の覚醒は教会に神託として伝えられたから、すぐにアベルは教会に引き取られた。
教会では、勇者が誕生したのは魔王が復活する前触れに違いないと判断して、アベルを学園に通わせて成長させることにしたのだ。
小説だと魔王が復活した後にアベルが勇者として覚醒しているから、順番がちょっと逆だ。
私が聖剣を奪っちゃったせいかと落ちこんだんだけど、執事姿の聖剣いわく、魔王が誕生するほどの瘴気がたまってないからじゃないかってことだった。
この世界では、戦争が起こってたくさん人が亡くなって恨みを持つ者が冥府に増えると、冥府からあふれた瘴気が地上に出てくる。
最初はただの瘴気の塊なんだけど、力を増すと神と同じ姿――つまり、人型になって『魔王』と呼ばれるようになる。
魔王は、元が人に恨みを持つ者の思念の塊だからか、とにかく人間を滅ぼそうとするのだ。
そうすると戦争するほど対立していた国々は『魔王討伐』のために一致団結しあう。
勇者のおかげで魔王が討伐されると、やがてまた各国が争い始め、そしてまた魔王が生まれ、というループを繰り返している。
なんというか、人類が団結するためには共通の敵が必要っていうのは、どこの世界も変わらないのかなぁ。
もうちょっと他の国に寛容になって仲良くすればいいのにね。
そんなわけで、勇者アベルはこの学園に通っているけど、まだ魔王討伐パーティーは結成されてないから、お兄様と関わることはないと思って安心してたのに。
お兄様が講師としてやってくるなら、必然的に関わってくるよね。
でも、できればお兄様にはアベルと関わって欲しくない。
だってお兄様を殺すんだよ?
もちろんお兄様がラスボスになっちゃったから仕方ないんだけど、私としては、そこは闇落ちしたお兄様を勇者の友情パワーで救ってほしかった。
っていうか、アベルをかばってエルヴィンが死ななければラスボスにならなかったんだから、お兄様にとってアベルは疫病神みたいなものじゃないかな。
関わらずに済むならそれが一番だよね。
そう思ってたのに……。
私があんまり喜ばなかったからか、お兄様が肩を落とした。
「レティは迷惑だったかな」
「いいえ、もちろん嬉しいです。でもお忙しいお兄様がもっと忙しくなってしまうのかと思うと、体調などが心配で……」
「レティは優しいね。大丈夫、レティの姿を見たら疲れも吹き飛んでしまうから」
はうー!
そう言って微笑むお兄様の麗しさよ!
周りの女生徒がうっかりその微笑みを見てしまって足元をふらつかせていた。
うん。分かる分かる。
たとえ自分に向けられてなくても、こんな美貌の持ち主が微笑むのを見ただけで感動しちゃうよね。
失神しなかっただけ偉いと思う。
私も興奮を抑えてるのは凄く偉い。
だって……入学式でピカピカ光りたくないんだものー!
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