第53話 光り輝く君
小説グランアヴェールで、勇者アベルを救った魔力過多の薬。
小説よりも早く完成したその薬は、私の病気を完治させてくれた。
つまりお兄様の麗しい姿にどんなに興奮しても、死ぬ危険がなくなったのである。
そうなったら今までの遠慮は投げ捨てて、本能のままに前世からの推しであるセリオスお兄様にべったりとくっついた。
うへへへへ。
週に一度と我慢していた、お菓子をつまんでもらってお口にあーんとか、ほっぺにキスとか、そういうお兄様とのスキンシップを、思う存分堪能できるなんて。
黄金のリコリスばんざーい!
ロバート先生ばんざーい!
そして聖剣もついでにありがとー!
プロポリスがそんなに量が取れないんで量産は無理だけど、それでも少しずつ薬は流通していくだろう。
きっとアベルの村にも……。うーん、ちょっと値段が高くて平民には無理かなぁ。
そもそも平民は魔力が少ないから、アベルみたいに魔力過多になるなんてことはないんだけど。
ほら、アベルって特別だから、例外なんだろうね。
勇者に認定されたら学園にやってくるだろうから、その時にお兄様経由で渡してあげればいいかな。
どっちみち、アベルはお兄様の一学年下に入学するから、来年の話だ。
「お兄様ぁぁぁぁぁ」
そして私はお兄様にセミのようにひっついている。
だってー。
せっかくこんなにくっついても発作を起こさなくなったのに、愛しのお兄様と離れ離れにならなくちゃいけなくなるなんてぇぇぇ。
「ほら、レティ。セリオスが困っているよ」
私の後ろでオロオロしているお父様が声をかけるけど、でもこの手を離したらお兄様がいなくなってしまううううう。
「今日はレティの入学式でしょう。せっかくのレティの晴れ舞台なんだから、ぜひ見たいな」
それは分かっているんだけど、どうしても、どうしてもこの手が離れがたくぅぅぅ。
「お嬢様、セリオス様がお困りですよ」
私専属の執事になった聖剣が、私のドレスの襟首をひょいとつまんでお兄様と引き離す。
ちょっと、私の扱いが乱暴なんじゃないかしら。
「それに入学式なら家族席でご覧になってますよ」
呆れたように言うランに、私は思わず抗議する。
「だって家族席って、ここからここまで、こーんなに離れてるじゃない。遠すぎてお兄様の姿が見えないんですもの」
この世界には双眼鏡とかもないから、しっかりとお兄様の麗しいお姿をこの目に焼きつけなければ。
あぁ、スマホがあったらなぁ。写真と動画を永久保存したいです。
「レティは本当にセリオスが大好きだねぇ」
当然です、お父様。
だってお兄様は、前世からの私の推しですから。
うんうん、と頷いていると、足元に子犬サイズになったモコがやってきた。
「きゅっ」
どうやら興奮して魔力が少し増えてたらしく、モコが吸収してくれる。
魔力過多の特効薬は、興奮すると魔力が一気に増えるのは変わらないけど、その魔力が暴発するのを抑えてくれるようになった。
だから急激に増える魔力が体にダメージを与えることはない。
その代わり……。
「帰ってきたら二人だけのお茶会をしようか。楽しみだよ、僕のお姫様」
そう言ってほっぺにチューをしてくれるお兄様の表情のあまりの尊さに、私の体の中の魔力が一気に増える。
そして――。
増えた魔力が光となって、ピカピカと私の体を光り輝かせた。
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