第5話 初めましてお父様
初めましてこんにちはの人は、なんと私の父親でした。
いや、びっくりしたー!
銀髪にアイスブルーの瞳で、お兄様を大きくしてちょっと気弱そうにした感じの人だ。
小説で名前しか出てきた事がなかったから、興味がなかった。
確かレティシアが死んだ後、後を継げる子供がセリオスだけでは少ないという事で再婚し、子供も生まれていたはず。魔王との戦いの中で物語の始めに戦死している。
セリオスお兄様が連れてきたらしいけど、ベッドの手前で棒立ちになっている。
「お母様によく似ていると思いませんか?」
「うん」
「お母様が生きていらしたら、きっとレティを可愛がっていたと思います」
「うん」
「なのにレティが生まれてから会いに来なかったのを知ったら、お母様はきっとお怒りになるでしょうね」
「……それは嫌だ……」
六歳児に諭される大人ってどうなの。
セリオスお兄様はラスボスになっても違和感がないくらい、クールな美形になるけど、顔立ちは変わらないのにお父様の雰囲気は全然違う。
最愛の妻が亡くなった事実を認められなくて、妻の死因になった娘に会いに来れなかったくらいだし、当然かもしれないけど。
仕方ないなぁ。ここは私が大人になってあげないと。
「あー」
私はお父さまに顔を向けてにっこりと笑う。
赤子の無垢な笑顔攻撃を受け止めよ。なんてね。
「エミリア……!」
お父様は端正な顔を歪めて滂沱の涙をこぼす。
エミリアってお母様の名前かな。小説では出てこなかったから、どんな人か分からない。
でもお父様がこんなに好きだったのだから、とても素敵な人だったんだろうと思う。
……一目でいいから会いたかったな。
「お母様に、そっくりでしょう?」
「ああ、本当によく似ている……」
お兄様の言葉に頷いたお父様は、おそるおそるといった風に私に手を伸ばす。
もー、仕方ないなー。
私はその手を小さな手でぎゅっと握った。
アイスブルーの目を見張ったお父様は、ほろほろと涙をこぼしながら、両手で私の手を包む。
そして壊れ物を扱うように、そっと私を抱き上げた。
お兄様にくっついているのも好きだけど、お父様の抱っこもホッとするかも。
やっぱり血の繋がりがあるからなのかな……。
「お父様、ミランダをレティシアの侍女からはずしてください」
「ミランダが何かしたのか?」
「目が覚めて間もないせいで喋れませんがレティはとても賢い子で、自分に関わる人間をよく見ています。そのレティがミランダの事をあれほど嫌がっているのですから、何かあるはずです」
お兄様、私の事をそんなに評価してくださっているとは!
感無量ですー!
あ、いけない。
平常心、平常心。
「ふむ……」
「それにレティのような小さな子供には、侍女ではなく乳母をつけるべきでしょう。今からでは遅いと思いますが、もっと年配の侍女をつけたほうがよろしいのではないでしょうか。一体誰がミランダをここに配置したのですか」
「メイド長だ」
「……メイド長とミランダに繋がりがないか調べてください。もしかしたらお父様の後妻狙いかもしれません」
後妻狙い……?
あ、そういえば小説でお父様は再婚してたはず。
という事は、もしかしてミランダがその相手?
ええっ、断固反対するよ!
だってあんな意地悪な人が継母になったら、お兄様がいじめられてしまうもの。
お父様、絶対、絶対、再婚反対!
そんな私の思いが通じたのか、お父様は考えた事もないという顔で否定した。
「私の妻はエミリアだけだ」
「でしたら付け入られる隙を作らぬ事です。幼いレティシアには母親が必要で、レティシアが懐いている自分ならば良い母親になれるなどと言われてその気にならないようにしてくださいね」
「わ、分かった」
お兄様の有無を言わせぬ迫力に、お父様が押されるように返事をする。
どちらが年上か分からないやり取りだ。
さすがお兄様です。
「しかし新しい侍女は誰が良いのか……。メイド長も関わっているとなると人選が難しい」
「そうですね……。まだ年若いですが、侍従長の姪はどうでしょう。リネン室で働いているはずです」
「セリオスに任せよう」
「はい」
うんうん、どう考えてもお兄様の方が有能。
お兄様に任せておけば、間違いないですよ、お父様。
というか、お兄様こんなに小さいのにこれほど賢いとは、もしかして神童なのでは?
まさに神が遣わせてくれたこの世の奇跡……!
と、感動している間に寝落ちしました。
赤ちゃんの体って、すぐに眠くなっちゃうのよね……。
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