第48話 小さな村へ(セリオス視点)
けれど死んだと思った僕は生きていて、代わりにレティが倒れていた。
訳が分からなかった。
確かにあの時、僕はもう死んでしまったのだと思ったのに……。
「レティ! レティ!」
すぐにレティのそばに行くと、レティを抱きかかえたランが「命に別状はありません」と言ったので安心した。
震える指で触れた薔薇色の頬は、ほんのり温かい。
レティに触れた指の先から、凍りそうだった僕の心が溶けていくのを感じる。
本当に良かった。
だけれども、目をつぶったままのレティは一向に目を覚まさない。
僕たちは襲撃者たちを全員倒してから、近くの村へレティを運んだ。
来る時には立ち寄らなかったせいか、村の入り口で出会ったレティと同じくらいの年の少年は、突然現れた僕たちの姿にとても驚いていた。
だが身なりですぐに貴族だと分かったのだろう。
あえて名乗らずとも、すぐに村長を呼んできてくれた。
平民にしては、なかなか賢い子だ。
琥珀色に金の混じった珍しい瞳が印象的だった。
「なんのおもてなしもできませんが……」
村長がランに抱えられているレティを心配そうに見ている。
ミランダの領地の村という事で少し警戒していたが、どうやらこの村の住人は善良らしいと分かって、少し肩の力が抜ける。
小さな村には宿屋がなかったので、村長が屋敷の一室を貸してくれた。
この村で唯一の二階建ての家で、客間がある。
素朴な木のベッドにそっと下ろされたレティは、静かに眠っていた。
「大丈夫か?」
ベッドの横に立つ僕の肩越しに、エルヴィンが眠るレティの姿を見下ろしている。
声には僕をいたわるような響きがあった。
「ランはどう思う?」
レティと契約をしたというのならば、聖剣のランが一番レティの状態に詳しいだろう。
そう思って聞くと、返ってきた答えに安心した。
「私との契約とモコの進化が重なったからでしょう。しばらくすれば目覚めます」
確かに聖剣に主として認められただけでも大変なのに、さらにモコの進化が重なったのだ。
この小さい体には、さぞかし負担だったことだろう。
「それなら良かった。レティ、早くお目覚め」
部屋にあった椅子をベッドの横に置き、そこに座って眠るレティの手を握る。
柔らかく暖かい手は、すっぽりと僕の手の中に包まれた。
「念のため、この部屋の守りを固めよう」
僕はレティからもらった「敵は外」のお守りを部屋の入り口に貼らせて、敵対する者は入れないようにする。
翌日もレティの目が覚めなかったので、エルヴィンは護衛たちと一緒に王都へ帰らせた。
エルヴィンはだいぶゴネていたが、このままここにいても何の役にも立たないどころか、足手まといになる。
はっきりと言うと、悔しそうにしながらエルヴィンはローゼンベルク家の護衛たちも連れて村を出た。
王太子の護衛にしては数が少ないが、この先の街には手紙を送ったので、途中からは騎士団が守りに就くだろう。
僕たちは、その騎士団が戻ってくるまでここで待っていてもいい。
レティのお守りと、聖剣のランがいれば安全だ。
眠り続けるレティを、僕とランが交代で見守る。
レティのそばから離れないモコは、眠り続けて食事もとれないレティを、ずっと回復してくれているようだった。
僕を死の淵から救ってくれたのも、モコだ。
「それにしても、ずいぶん姿が変わったね」
小さな毛玉から少し大きな毛玉に成長したのも驚いたけど、今の姿は手足がしっかりとしているので、大型犬の子供のようだ。
「フェンリルだからな」
知らなかったのか、という顔で言われて、僕は思わずランを見る。
「モコがフェンリル……?」
白い子犬のようなモコが、あのフェンリルだって?
山のような大きさで、神獣とも災害とも呼ばれる魔物。
このモコが、そんな恐ろしい姿になるのだろうか。
「まだ幼体といったところだが。山のような大きさになるには、もっとたくさんの魔力を必要とするだろう」
「いずれはそうなるかもしれないのかい?」
「レティシアの魔力はかなり多いから、可能性はある。だがそこまで育てば、自在に大きさを変えられると思うぞ」
ああ、それなら良かった。
レティはモコを可愛がっているから、山のような大きさになったモコと遊べないのを悲しむだろう。
「そもそも毛玉は魔力を与えてくれるものの望む姿になる。戦いを願うならドラゴンに。癒しを願うならフェンリルに」
「毛玉がドラゴンに!?」
そんな話は初めて聞いた。
大発見なのではないだろうか。
あまりの驚きに言葉を失っていると、ベッドから小さな声が聞こえて、レティがその美しい紫色の目をゆっくり開けるところだった。
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