第47話 僕が君を守るから(セリオス視点)
しかし魔力過多を完治させるためには黄金のリコリスの花が必要だ。
そしてそれは当家の侍女であるミランダの領地に咲いているらしい。
ミランダ・ヘル――王妃の血縁で、子爵家の娘。王妃の紹介でローゼンベルク公爵家に行儀見習いとしてやってきた。
だがミランダにはレティがまだ喋れない赤ちゃんの頃に危害を加えようとしていた疑いがある。
魔力を増幅する砂糖を混入させてレティを殺そうとしたのもミランダだろう。
分かってはいても、証拠がない。
王妃の血縁という事もあって、証拠もなく辞めさせる事ができなかった。
そのミランダの領地に行くというのはとても危険だったが、黄金のリコリスが手に入るのであれば、危険を承知で行くしかなかった。
レティを連れて行かずに済むならその方が良かったのだけれど、花の咲く洞窟は近くに行かないと分からないらしく、一緒に行くしかなかった。
僕がレティを守ればいい。
そう思って出発したら、なぜかエルヴィンが一緒に行きたいという。
しかも側近候補のイアンと一緒に。
エルヴィンもイアンも、剣技に優れ、その年齢にしては強い。
だがあくまでも「その年齢にしては」だ。
僕のように魔法に特化していればまだ戦力になるが、直接相手と剣を交えるとなると厳しい。
だから同行は断ったのだが、エルヴィンは無理やりついてきた。
こうなったエルヴィンは自分を曲げない。
仕方がないので同行を許可したが、王都を出てすぐに敵に襲われた。
あの動きは明らかに騎士で、狙いはエルヴィンだった。
僕の可愛くて賢くて有能なレティのお守りのおかげで難なく撃退できたけれど、何もなかったら危なかった。
もしかしたらレティシアは天から授けられた勝利の女神なのかもしれない。
ああ、だから魔力過多でその命を奪って、神々が天に取り戻そうとしているのだろうか。
絶対にそんな事はさせない。
必ず黄金のリコリスを見つけてみせる。
◇ ◇ ◇ ◇
そして黄金のリコリスは見つかった。
なぜか執事の姿に変化した聖剣などという余計なものがレティにくっついてきたが、じっくり話し合った結果、執事としてレティに仕えるなら許すことにした。
聖剣といえど、本体は剣。
極限まで凍らせて砕いてしまえばどうという事はない。
消滅はしたくないのか、レティにランという名前までつけてもらった聖剣は、偉そうな物言いを改めて執事らしく振舞った。
そろそろレティにも専属の執事をつけてあげたいと思っていたからちょうど良かった。
聖剣というからには、そこら辺の護衛よりも強いだろうから、安心してレティを任せられる。
人型の時は契約者以外を守れないという制約があるらしいが、僕は自分で自分の身を守れるのだから、レティさえ守ってくれればいいと思っていた。
黄金のリコリスがあった洞窟から戻ると、待機していた護衛たちが戦っていた。
王都を出てすぐに襲ってきた騎士のような統制された動きではないが、手練れだ。
非合法な暗殺に手を染める、闇ギルドのやつらかもしれない。
それでも聖剣であるランの縦横無尽な働きと、僕の魔法があれば負ける事はないと思っていた。
「応戦する。護衛たちはエルヴィンを守れ」
だがそれは驕りだった。
一対一の戦いであれば負けるはずのない実力差だったけれど、魔法使いたちは三人で魔法を練り上げ、強大な魔法を放とうとしていた。
大きな竜巻が渦を巻いて僕を襲う。
今までどんな攻撃も受け止めてきた、氷の盾にひびが入った。
「お兄様―!」
レティの悲鳴が聞こえる。
レティ、レティシア、僕の光。
君を守ると誓ったのに、もう、叶わない。
最後にレティの顔を見たくて視線を巡らす。
白い毛玉を抱いた僕の最愛の妹は、大きく目を見開いて竜巻に胸を貫かれた僕を見ていた。
ごめん。
守れなくてごめん。
でもきっとあの聖剣が、レティだけは助けてくれるだろうと思う。
それだけでも良かった。
レティ、僕の光。
どうか、どうか幸せに……。
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