第40話 聖剣が変化した……!
すみません、調子に乗りました。
突然どうしたんだというお兄様のあっけに取られた顔は、思いのほか私にダメージを与えました。
エルヴィンにまで「何言ってるんだ?」という顔をされ、ダメージ倍増です。
私はしょぼんとしながら剣を下ろした。
私の身長と同じくらいの大きさの聖剣は、かなり大きい。
聖剣を抜いたのはいいけど、冷静に考えて、これ、どうしよう。
なんて思っていたのが伝わったのか、聖剣が急にまばゆい光に包まれた。
目の前が真っ白で何も見えない。
「レティ!」
異変を察知したお兄様が駆け寄ってくるのが分かる。
「殿下危ない!」
エルヴィンをかばうイアンの声。
そして――。
「聖剣が――!」
私の手の平から失われる、金属の感触。
何も見えない中、駆け寄ってきたお兄様の指先が私の服に触れる。
次の瞬間、凄い勢いでお兄様に抱きこまれた。
ドクドクと、激しく脈打つ心臓の音が聞こえる。
しばらくすると、お兄様の腕の力がゆるくなって、安堵したようなため息が漏れる。
そろりと顔を上げると、もうあの光はなくなっていた。
そして手の中にあったはずの聖剣もなくなっている。
どこ行ったんだろ?
「ここだ」
突然、聞いた事のないような低音ボイスが聞こえた。
誰?
振り返ると、すぐ近くに見知らぬ男の人が立っていた。
まるで闇夜を閉じこめたかのような艶やかな黒い髪に、夜空に浮かぶ月のような金色の瞳。
世界で一番麗しいのはセリオスお兄様だと思うけど、この人も人外じみた美しさだ。
黒一色の執事服を着た姿は、まるで夜を具現化したかのよう。
全くその気配に気づかなかったお兄様は、すぐに私を背にかばう。
「誰だっ」
誰何する声すらかっこいいですお兄様。
って、それどころじゃないんだけど。
この人、誰!?
「我は聖剣。その娘は我の契約者である」
「えええっ」
聖剣って人だったの!?
待って。原作ではそんな設定どこにもなかったんですけど。
「人ではないが単なる剣でもない。そも、神に造られたのでな」
つまり人の姿になれるってこと?
「正式な契約者を得れば、どんな姿にもなれるぞ」
そうなんだ……。
チラリとドラゴンにも変身できるのかな、って思ったけど、こんな狭いところでドラゴンになられても困るから、慌てて考えるのをやめた。
黄金のリコリスを背景にたたずむ姿は、それがあの聖剣だと分かっていても美しい。
でも私のイチ推しはセリオスお兄様で、ブレませんけどね。
チラリとお兄様の様子を窺うと、綺麗なアイスブルーの目がじっと私を見つめている。
あ……。
もしかして、説明を求めてますか……?
だよね、いきなり聖剣抜いたと思ったら、執事が現れて自分は聖剣だって言うんだもんね。それはびっくりするよね。
「レティ、これは一体どういう事?」
「えーと、信じられないかもしれませんが、この人は聖剣です」
「剣が人の姿に……?」
私の言葉を聞いたエルヴィンが、ぽかんと口を開けて驚いている。イアンも口は開けてないけど驚いているのが分かる。
お兄様は、こめかみに指を当てながら私に話の続きをうながした。
「そもそもどうしてこれが聖剣だと分かったんだい?」
「自分で言ってました」
嘘は言ってないです、嘘は。
今じゃなくてかなり前に自己紹介されたってだけで。
「剣を抜いたのはなぜ?」
「なんか、我を抜け、って言うから抜いてみました」
お兄様には嘘をついてもすぐにばれてしまうので、なんとか嘘じゃない範囲でごまかしたい。
だって前世の話をすると小説の話もしなくちゃいけなくて、そこではお兄様はラスボスになって死んでしまうから……。
魔力過多で死んでしまうはずの私は黄金のリコリスのおかげで生き延びそうだし、聖剣も人型になっちゃうしで、原作とはだいぶ違ってきてる。
いつお兄様がラスボスになってしまうのか分からなくなってしまった。
だけど、どんな時も、もしラスボスになってしまったとしても私はお兄様の味方としてずっと側にいたい。
私よりお兄様の方が何倍も賢いし、本当は全部打ち明けたほうが、対策を取れていいんだろうけど……。
打ち明けてしまったら、本当にその未来がやってくるような気がして言えない。
目を伏せてしまった私の頭をお兄様が優しくなでてくれる。
「そう、分かったよ。それにしても聖剣か……。レティのそばにいると、本当に思いがけない事がたくさん起こるね」
その声には、優しさだけがにじんでいて。
きっと何か思う所があるのだろうけど、口に出さないで見守ってくれるその優しさが嬉しくて。
私はお兄様にぎゅっとしがみついた。
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