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第4話 侍女に嫌われています

 私は毛玉に「モコ」という名前をつけた。

 モコモコしててとても可愛い。


 そしてモコのおかげで、セリオスお兄様の麗しい顔を見ても発作を起こさなくなった。


 モコ! あなたは私の救世主よ!


 おかげでお兄様の幼児時代をがっつり堪能できている。

 うへへへへ。


 お兄様がいなくなった後はいつもしまりのない顔をして笑っているからか、専属の侍女のミランダからはそれはもう嫌われている。


 まあ、気持ちは分からなくもない。


 ほぼ仮死状態で生まれてきてずっと眠ったままだったのが、いきなり覚醒したと思ったら、兄の顔を見て気持ち悪く笑ってるんだもんね。


 体は一歳の幼女だけど心は推定十六歳だから、不気味な子供だと思って嫌うのも無理はない。


 でもお兄様への愛は純粋だから! ヨコシマじゃないから!


 そもそも私って「セリオス様を幸せにする会」の会長だったのよ。SNSでの私的な会だったけど、会員数はかなり多かった。


 それだけお兄様の幸せを願うファンが多かったって事だけど。


 幸せにする会の皆、妹として転生した私が絶対にセリオスお兄様を幸せにしますから、安心してください!


「本当に気味の悪い子」


 お兄様の事を考えてニマニマしていたのを見られたのか、ミランダが私の顔を覗きこんで顔をしかめる。


「一歳を過ぎたのに喋る事も立つ事もできないなんて」


 それは仕方ないよ。だって生まれてからずっと寝たきりだったんだもん。


 でもこれからスクスク育っていく予定だから問題なし。


 なんてのんきな事を考えていたら、いきなり足に痛みが走った。


「いうっ……」


 な、何が起こったの?

 まだ起き上がれないから、自分の足元も見れなくて、何があったのか分からない。


 するともう一度足に痛みが。


 きっと、つねられたんだ。


 痛みよりも驚きのほうが大きくて呆然としていると、モコがミランダに体当たりした。

 でも毛玉の攻撃はあまり効かない。


 そのままポフンと戻ってきてしまう。


 ミランダは冷たい目でモコを見下ろし、指でつまむ。


「邪魔ね」

「(やめて! モコをどうするつもり!)」


 叫びたいのに、ちゃんとした言葉が口から出ない。

 ただの「あうー」とか「ううー」とか、そんな言葉しか出なくて。


 モコを取り返そうとジタバタしても届かなくて。

 ミランダが窓を開ける。


 やめて。

 何をするの!


 やめて!


 私は大声で泣き喚いた。


 誰か来て!

 モコが、モコが死んじゃう。


 泣き声のあまりの大きさに、さすがにミランダも慌てる。


「ちょっと、泣き止みなさいよ」

「うわぁぁぁぁぁん。うわぁぁぁぁぁぁん」


 ミランダはモコを放り出して、私を抱き上げる。

 でも私は嫌がってミランダを叩く。


「くっ。……このっ」


 カッとなったミランダは私を床に叩きつけようとする。

 でも廊下から私の名前を呼ぶお兄様の声が聞こえてきた。


「にー! にー!(お兄様! 助けて、お兄様!)」


 ミランダは慌てて取り繕うように私を抱え直した。


 離して、離して!


「うわぁぁぁぁん。うわぁぁぁぁん」


 バンと勢いよくドアを開けてお兄様が部屋に入ってきた。


 お兄様!

 助けて!


「レティシア!」

「にー!」


 私は泣きながらお兄様に手を伸ばす。


 するとお兄様はひったくるようにミランダから私を取り戻した。六歳しか違わないけど、お兄様はしっかり私を抱きとめてくれた。


 うええええええん。

 怖かったよおおおおお。


「にーに、にーに」


 セリオスお兄様にしがみついて、その胸に顔をうずめて泣く。


 ああ、せっかくのお兄様の服が、私の涙と鼻水で台無しになってる。


 ごめんなさい。でも赤ちゃんだからか、自分の意思では涙が止まらない。


 お兄様は慰めるように私の背中を優しく叩く。


 トン、トン、と心臓と同じリズムの響きが、膨らみ始めていた魔力を少しずつ抑えていった。


「なぜレティシアがこんなに泣いているんだ」


 子供とは思えないほどの迫力でお兄様がミランダを圧倒する。


 こっそりと顔を上げると、ミランダはどう言い訳をしようかと考えているように見えた。


 でもお兄様はミランダに弁解する時間を与える気はないらしく、冷たく「下がれ」と命令する。


 渋々部屋からミランダが出ていくのを見送ったお兄様は、もう一度私をぎゅっと抱きしめた後、そっとベッドに戻した。


 そしてキョロキョロと辺りを見回す。


「こんな所に……」


 部屋の隅で見つけたのは、くしゃくしゃになったモコだった。

 お兄様はそっとモコを手の平に乗せると、ベッドの上の私の顔の横に置いてくれる。


「あう(モコ、無事で良かった)」


 モコはもぞもぞと動いて私の頬にぴったりとくっつく。

 すると萎れていた毛が、いつものようにふわふわになった。


「にーに(お兄様、ありがとう)」


 感謝の気持ちをこめてお兄様に笑顔を向ける。


「レティ、ご機嫌になったね」


 すると破壊力抜群の笑顔が返ってきた。


 ふああああああ。


 カメラ、カメラはどこ。スクショボタンはー!?


 不意の推しの笑顔に魔力が膨らみそうになったけど、モコが吸収してくれたおかげで収まった。


 モコ、危ないところをありがとう。

 もうちょっとで昇天するところだった。


 危ない危ない。セリオスお兄様が素敵なのは分かってるんだから、不意打ち攻撃にも耐性をつけなくちゃ。


 最近は慣れてきたと思ってたけど、破壊力がありすぎた。


 なんてお兄様に構ってもらって喜んでいると、お兄様が後ろを向いた。


「そろそろ入ってきたらどうですか?」


 誰かきたのかな、と思ってそちらを見ると、見た事のない男の人が扉の向こうに立っている。


 誰だろう?


もしも「面白かった」「続きが気になる」などと思って頂けましたら、

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