第38話 初めまして、聖剣さん
「まず僕が洞窟に行ってリコリスの花があるかどうか見てくるよ」
私は恐る恐る崖を見る。
確かにお兄様の魔法で氷の階段ができている。
でもこれ、足が滑りそう……。
(聖剣さーん! 転移はできなくても刺繍に付与する魔力は残ってるよね?)
『当然だ』
(ありがとう。モコー!)
私は周りでふわふわ飛んでいるモコを呼ぶと、毛をもらっていいか尋ねた。
するとモコは、私に目のない方の、多分背中を向けてじっとしてくれた。
「お兄様、ちょっとだけ待ってください」
私はモコの毛と聖剣針でお守りを作る。
ちくちくちくちく。
よし、できた!
「そのお守りは?」
「じゃじゃーん! 滑り止めお守りです」
前世で受験生に売ったらバカ売れ間違いなしの「滑止」って刺繍したお守りを持てば、氷の上でも滑らないに違いない。
私の分も作ったから、一緒に行きましょう!
「おい、俺の分はないのか?」
えー、エルヴィンも行くの?
護衛のイアンも?
ええっ、何があるか分からないからここにいる全員?
「そんなに大勢は無理じゃないかな。いくらお兄様が天才魔法使いだといっても、これだけの人数が乗ったら氷の階段は壊れちゃいそう」
私は崖からちょっと身を乗り出して階段を見る。
ちょっと青みがかった氷の階段はキラキラと輝いてとても綺麗だけど、それほど頑丈だとは思えない。
お忍びの旅だから鎧を着た騎士はいないけど、護衛の人たちが持ってる長剣だけでも重そう。
筋肉も重そうだしこの人たちが一人でも乗ったら、壊れちゃうんじゃないかな。
「ここは僕たちだけで行ってみよう。もし鳥系の魔物がいても、凍らせてしまえばいいし」
確かに、崖の途中にある洞窟に魔物がいたとしても、羽のある魔物だろう。
さすがお兄様、名推理が冴えわたっていますね!
もっとも、ここには聖剣と黄金のリコリスしかないんだけど。
「俺も絶対に行くからな!」
滑り止めお守りがないならそのまま行くと言い出したエルヴィンに、仕方なくお守りを作って渡す。
そしてお兄様、エルヴィン、イアン、私の四人で階段を下りる。
もちろん私の手は、しっかりお兄様と繋がっている。
一歩踏み出すと、キシリ、と氷がきしむ音がした。
ひいいいいいいいい。
下を見ちゃダメ、下を見ちゃダメ。
そうだ。こんな時は麗しいお兄様の顔を拝ませて頂こう。
月の光を編んだような銀の髪と、氷をそのまま閉じこめたようなアイスブルーの瞳。鼻筋はすっと通っていて、薄い唇は私の前ではいつもほころんでいる。
やっぱり、いつ見ても素敵!
原作のセリオス様も好きだけど、妹の私にしか見せない優しい顔とか、ちょっと油断したような気の抜けた顔とか、いつのどんな瞬間でもお兄様の麗しさには際限がない。
神様、この世界に転生させてくださってありがとうございます!
うっとりとお兄様の顔を眺めながら階段を下りると、あっという間に洞窟の入り口に到着した。
お兄様の顔の効果凄い。
時間まで超越してる。
「ここがレティの夢で見た洞窟か……」
洞窟の中は、ひんやりしていた。
入口は少し広くなっていて、奥に進むにつれ狭くなっている。
「この先に黄金のリコリスがあるんだろうか」
前を向いたままのお兄様が、私の手をぎゅっと握る。
「これでやっとレティの病気が治るね」
「はい!」
お兄様が私の顔を見て、花が咲いたように綺麗に笑う。
小さいお兄様の貴重な笑顔!
保存したーい!
「行こうか」
お兄様と一緒に人が一人通るのがやっとという道を進む。後ろには、物珍しそうに洞窟の壁を触りながら進んでいるエルヴィンたちが続いている。
冒険活劇だと、エルヴィンの触れているところが隠し扉になっていて、エルヴィンだけが壁の中に吸い込まれて行くんだけど、さすがにそんな事もなく、そのまま順調に進んでいった。
「花の香りがする」
前方から漂ってくるのは、濃厚な百合に似た香り。
リコリスだ。
思わずお兄様と顔を見合わす。
お兄様が繋いでくれている手が、緊張に強張るのが伝わってきた。
早足になりながら、先に進む。
するとそこには――。
まばゆい黄金の光に包まれた、一振りの剣が地面に突き刺さっていた。
その周りには、光り輝きながら咲く、たくさんの黄金のリコリス。
(聖剣さんだ……)
『待ちわびたぞ』
ずっと聞いていた聖剣の声が、光り輝く剣から聞こえてくる。
(こうして会うのは初めてだよね。初めまして、聖剣さん)
『うむ。よくぞ参った』
こうして私はついに、聖剣との対面を果たした。
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