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【書籍化・コミカライズ連載中】グランアヴェール~お守りの魔導師はラスボスお兄様を救いたい~  作者: 彩戸ゆめ
第一章 推しの妹に転生しました

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第35話 捕まえたのは盗賊じゃない

 馬車を襲った盗賊たちは、盗賊じゃなかった。

 盗賊のように薄汚れた格好をしていたんだけど、臭くなかったのだ。


 盗賊が毎日お風呂に入って綺麗にするなんてこと、できるはずない。

 だから捕まえたのは「盗賊のフリをした人たち」だ。


 だけど中々口が堅いらしく、誰からの命令で私たちを狙ったのか白状しない。私たちの内の、誰を狙ったのかも。


 私たちは今、襲撃された場所から少し離れたところで野営している。


 もう少し先に行けば少し大きな町があるんだけど、襲撃者たちの素性がはっきりしない以上、誰が味方で誰が敵か分からない。


 それで知らない人たちがたくさんいる場所は危険だという事になったのだ。


「お兄様、大丈夫かなぁ」


 お兄様とエルヴィンは、襲撃者たちをどうするかっていう話し合いをしに馬車の外に出ていった。


 一人になった私は、馬車の中でモコや聖剣とこれからどうするかの相談をする。

 といっても、モコは普段あんまり喋らないので、馬車の中でふわふわころころしてるだけだけど。


『大丈夫であろうよ。あれは人にしては強い』


 聖剣の言葉に私は頷く。


 ですよねー。いずれラスボスになっちゃうくらい強いんだもん。

 さすがお兄様。


 とはいっても、黙秘してる人を自白させるのって、かなり大変だろうから心配……。

 まだ大人になりきってないうちから、殺伐として欲しくないんだけどなぁ。


「襲ってきた人たちって、誰を狙ったんだろう」

『分からぬのか?』


「あくまで、金目の物がありそうだから襲ったって言い張ってるみたい」


 それにしては口が堅すぎるらしいけど。


 つまり、単なる盗賊じゃなくて口を割らない訓練を受けてるプロって事だよね。

 こっちも自白させるプロがいれば別だったんだろうけど、さすがにそこまでの人員はいない。


 はっきり言って、ローゼンベルク公爵家も王家も、排除したいと思ってる人はたくさんいる。


 ローゼンベルク家の場合は敵対する貴族家だけど、もし狙いがエルヴィンだった場合、王家に対する恨みなのか、それとも「王太子」であるエルヴィンの命を狙ったのかで、かなり違ってくる。


「うーん。確かにエルヴィンは先代王妃様の子供だけど、今の王妃様にはまだ男子が生まれてないしなぁ」


 王家の王位継承権の順番は男子優先で、四親等内に男子がいない場合のみ女子が王位を継承する。


 今の王家は、エルヴィンが第一王位継承者で、第二、第三王位継承者にはエルヴィンの従兄弟がなってる。


 エルヴィンの妹で小説『グランアヴェール』のヒロインであるフィオーナ王女の王位継承権は四番目だ。


 もしこれで王妃様に男の子が生まれたら、王位を狙ってエルヴィンを殺そうとする可能性は高いけど、今の段階でそれはないんじゃないかなぁ。


 確かに小説では勇者と結婚したフィオーナが女王になったから、従兄弟には何らかの理由があって王位を継げなかったんだと思う。


 魔王軍に殺されちゃったとかね。


 でも今の段階では魔王はまだ現れてない。


 それにもし仮に王妃様がエルヴィンを疎ましく思ってたとしても、まだ従兄弟がピンピンしてるのに暗殺しようとするかなぁ?


「小説でも子供はフィオーナ姫だけだったから、王妃さまにはエルヴィンを殺す動機がない」


 だとすると、敵は私たち兄妹を狙ってるって事になるけど……。


 やっぱり一番怪しいのって、お父様の後妻の座を狙ってるミランダじゃない?


 だって盗賊に襲われて後継者が二人とも死んでしまったら、お父様は絶対に再婚しなくちゃいけなくなると思うもん。


 お父様は嫌がって親戚に家督を譲るって言いそうだけど、また薬を盛られたら抵抗できなくなる。


 それに関しては、王妃様が関わってる可能性もあるんだよね。


 魅了に近い効き目を持つ薬の原材料はリコリスで、確かにミランダの領地にしか咲かないんだけど、王妃様の庭にも咲いている。


 どっちのリコリスを原料としてるか、分からないのだ。


「ミランダが敵なのははっきりしてるし、王妃様がそれに協力してるのも分かってる。問題は、このまま敵の巣窟に黄金のリコリスを探しに行けるかって事よね」


 ある程度の妨害はあるかもしれないとは思ってたけど、まさかこんな王都を出てすぐの所で襲撃されるとは思わなかった。


 私が作った「敵は外」お札のおかげで中には入れなかっただろうから、もしかして外でずっと見張ってたのかな……。


「うーん。やっぱり誰が主犯かはっきりさせた方がいいよね」


 とすると……。


 私はお守り作製用裁縫セットを取り出した。


 これは聖剣針とかが入ってるので、肌身離さず持っているのだ。


「どうしよう。糸がない……」


 お守りを大量生産したから、モコの抜け毛が足りなくなっちゃった。


『もらえばよかろう』

「……モコ、ちょっと何本か毛をもらえる?」


 馬車の中を転がっていたモコは、くりんとした目を丸くして私を見た。


 そしてふわふわの毛をぺしゃりと垂れさせながら私の元へ来て目をつぶった。


「ごめんね」


 えいやっとモコの毛を抜くと、モコはぴゃっと飛び上がった。


 ごめんね、痛かったよね。

 でもどうしても必要だったの。ありがとね。


 私はモコの毛を聖剣針に通すと、チクチクとお守りを縫った。


「できたー!」


 私はできたお守りを持って、馬車を下りた。


「お兄様―!」


 お兄様を呼ぶと、すぐに私の所にきてくれる。


「どうしたんだい、レティ。危ないから馬車の中で待っておいで」

「お兄様、これを自白させたい人に貼り付けてください」


「これは?」

「自白お守りです!」


 私が手にしたお守りには「自白」と書かれている。


 これを貼れば、きっとペラペラと何でもしゃべるはず。

 もっと早く気がつけばよかった。


「これを使ってください!」


 私はお守りをお兄様の手の上に置いた。



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