第34話 お守りの魔導師
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「賊は何人だ」
お兄様の体に当たっている耳に、くぐもったような声が聞こえる。
馬車の前方には窓があって、そこを開けると手綱を握る御者の姿があった。御者といっても、体が大きくて腕も太い。王太子であるエルヴィンを守れるように、護衛もできる実力者のはずだ。
「見える範囲では十人ほどです」
「少し多いな。いけるか?」
「ただの盗賊であれば」
「そうではない可能性もあるという事か」
「統率が取れており、執拗に馬を狙ってきます」
その言葉通り、ひゅんと風切音を鳴らして弓矢が飛んできた。
でも馬に当たる前に、風魔法で吹き飛ばされる。
どうやら護衛で風魔法を使える人がいるらしい。
それに例え馬車に当たっても、防御のお守りのおかげで大したダメージにはなっていない。
「敵に魔法使いはいるか?」
「いえ、今のところはいません」
「そうか。油断しないように」
お兄様は少し安心したように息を吐くと、見上げる私を見下ろした。
「レティ、何があっても僕が守るから」
ひえええええ。
お兄様が……お兄様が、私の心の臓を止めにかかっています。
緊張しつつ、でも私を安心させようと無理やりに微笑むお兄様の姿は神々しいばかりに美しく、両手を合わせて拝みたくなってしまうほど。
しかも少年セリオス様ですよ?
小説の挿絵でも見られないレアな姿に、思わず瞬きも忘れてしまった。
お兄様のアイスブルーの瞳が透き通ってて綺麗だなぁ。
こんな時なのにそんな事をのんびり思っていたら、突然ドンと大きい衝撃が走って馬車が大きく傾いた。
その瞬間、さっとお兄様が私を強く抱きしめる。
そのはずみで、抱えていたモコがコロコロと床に転がった。
エルヴィンは、と思って見ると、イアンに庇われつつも、剣を手にしてすぐに抜けるように構えている。
さすが脳筋王子様、いつでも戦える態勢になってる。
「どうした!」
お兄様の声に、御者が応える。
「魔法です! 車輪がやられました!」
「やはり魔法使いがいるのか。囲まれたら厄介だな」
あぁ、そっか。
防御のお守りをつけたのは馬車本体だから、車輪には効果がなかったんだ。
失敗した。車輪にもお守りをつければ良かった。
でも今さら言っても仕方ない。
こんな事もあろうかと、攻撃用のお守りも作ってて良かった!
「僕も迎撃しよう」
「お兄様、これを使います!」
私はバッグから大きなお守り袋を取り出して、むき出しのままの護符を何枚か取り出す。
「それは?」
私の手にはカタカナで「バクハツ」と書いた護符がある。
本当は「爆発」って書きたかったんだけど漢字が難しすぎて作れなかったんだよね。
残念。
私は床に落ちたモコを拾い上げると、お兄様に渡した。
「お兄様、モコをお願いします。あと、ほんの少しだけ扉を開けてもらえますか?」
「分かった」
お兄様は何も聞かずに馬車のドアを開けてくれる。
馬車の中に突風が吹き込む。
お兄様はすぐに風圧で閉じそうになる扉を、氷魔法で固定してくれた。
ドアの隙間からは、剣を手に並走する、護衛に変装した騎士たちが見える。
そのうちの一人と目が合って驚かれたけど、何事もなかったかのように顔を後ろに向ける。
「おい、何するんだ。危ないだろう」
慌てるエルヴィンの声を背中に私は護符を手の平に乗せる。
護符は、張り付いたように私の手の平の上から動かなかった。
「私たちを守って」
そう言って息をふきかけると、護符がふわりと宙に浮いて盗賊たちの元へと物凄い勢いで飛んでいく。
ドカン!
何かが爆発する音がした。
「もう一枚!」
さらに護符を飛ばすと、後方でドカンドカンと連続した爆発音が聞こえた。
「念のためにもう一枚! 私たちを守って!」
ドゴォォォォォン!
ふわりと飛んで行った護符は、一枚目よりも二枚三枚と数を重ねるごとに威力を増しているような音がする。
それと同時に馬車がゆっくりとスピードを落とす。
や……やっつけた?
馬車の扉を開けて確かめたいけど、もしまだ盗賊がいたらと思うと怖くてできない。
どうしよう。まだ護符は残ってるから、念のために投げるべき?
そう悩んでいたら、お兄様が扉の隙間からさっき私と目が合った騎士に声をかける。
公爵家で見た事はないから、エルヴィンの護衛として来た騎士様かなぁ。
「賊はどうなった?」
「全員戦闘不能となっております」
「よろしい。確認の為、一度馬車を止めろ。お前たちは賊を捕縛せよ」
「はっ」
そう言って馬首を返して後ろに向かう騎士が、チラっと私を見た。
なんだかその顔はちょっと強張ってる。
そうだよね、一応エルヴィンは王太子だから、何かあったら大変だったもんね。
分かる分かる。
何とか撃退できたみたいで良かった~。
安心したらどっと疲れちゃった。
お兄様を見て疲れを癒そう。
そう思って振り返ると、驚いたようなエルヴィンの顔が見える。
私の事をじっと見つめて、
「お守りの魔導師……」
ゆっくりと止まった馬車の中で、エルヴィンが小さく呟いた。
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