第32話 いざ出発!
小説の中ではただの脳筋王子様に見えたエルヴィンだけど、実は王家のドロドロに巻き込まれて大変だったのかもしれない。
「このキャラメルはおいしいな! もっとくれ」
邪気のない笑顔でエルヴィンが手を出す。
……いや、もしかしたら、大変だったけどエルヴィンはそれに全く気がついてなかっただけかも。
キャラメルのおかわりを手の平に乗せてあげると嬉しそうに口にほおばるエルヴィンは、まるで大型犬のようだ。
結局エルヴィンはキャラメルを五個も食べてイアンに止められていた。
その間に、できる護衛さんたちはエルヴィンの変装服を用意したらしい。
これって、もうエルヴィンが一緒に行くのは決定なんじゃないかな。
お父様もお兄様も、王様が認めているのなら仕方がないと、エルヴィンの同行を認めた。
えええ。お父様たち、もっとちゃんと止めようよ。
さすがに王太子と一緒に変装して旅に出るなんて事、できないんじゃないのかなぁ。護衛の数とか凄い事になって、商人一行に化けるのは無理なんじゃ……。
そんな私の心配は、私特製のお守りで解決する事になりました。
色々試して、お守りに刺繍できる文字は4文字まで、お守りの効果が続く時間は、お守りの文字と効果の難易度によるというのが分かった。
たとえば「敵は外」のお守りは一週間経っても効果があるけど、「守護」のお守りなどは攻撃の強さによって耐久度が変わる。
そして効果がなくなったお守りは、摩擦で擦り切れたかのようになって、途中で糸が切れてしまう、など。
なので、たくさんお守りを作りました。
オーソドックスな「守護」「強化」。解毒……にしたかったけど、難しくて「どくけし」になったお守り。「攻大」は、これも「攻撃力大」にしたかったけど刺繍できなくてこの二文字になった。
その他にも役に立ちそうなお守りをたくさん作った。
もちろん家に残るお父様のために、「守護」と「敵は外」のお守りもたくさん作っておいた。
「レティ、どうしても行かなければいけないのかい?」
少し裕福な商人の娘の格好をした私は、すっかり体調が良くなったお父様にぎゅうぎゅうと抱きしめられていた。
お父様が好んで使うコロンの匂いがかすかに香る。
黙っていればお兄様にそっくりのクール系イケメンなんだけど、お母様が亡くなってしまってから私とどう接したらいいか分からなくて距離を置いていたのを反省した反動なのか、最近は親ばか街道を爆走している。
だから本当は私と一緒に黄金のリコリスを探しに行きたかったんだけど、さすがにローゼンベルク家全員が行けるはずはなく、泣く泣く断念した。
というかお父様の後妻になるのを狙ってるミランダの領地になんて行ったら、鴨がネギ背負ってやってくるようなものだから、絶対に連れていけないよね。
でもお父様は別れを惜しむように、いつまで経っても私を離そうとしなかった。
「父上。そろそろ出発しないと、今日中に宿に到着できません」
この世界は魔法があるけど移動は馬車だ。車はまだ発明されていない。
馬車をひくのは馬だけど前世で知ってる馬じゃない。頭の上には小さな角が一本生えている。
こんなささいな事で、ここは異世界なんだなぁと思う。
「お父様、すぐに帰ってきますから」
私はお父様の頬にキスをすると、お兄様と執事にお父様をひきはがしてもらって屋敷を後にした。
なんだか号泣してるのが見えるけど……目を合わせると出発できなくなりそうだから、振り返らないようにしとこうかな……。
私も、やっぱりちょっと寂しいらしい。
健康になって戻ってくるから。
待っていてくださいね、お父様!
そして!
お兄様と旅行ですよ、旅行!
いつもの貴族然としたお兄様の姿も素敵ですが、裕福な商人の息子に変装したラフな姿のお兄さまも眼福です。
白いシャツとモスグリーンのジレがこんなにも似合う少年が他にいるでしょうか。
きりっとした印象はそのままに、モスグリーンの色合いが優しさを加えている。
思わず拝んでしまったら、お兄様に笑われてしまった。
でもそれくらい素敵だったんだよ!
エルヴィンも、いつものゴテゴテした格好じゃなくて白シャツにスラックスという使用人らしい格好になってました。
お兄様ほどではないけど、まあまあ似合ってるかな。
そして私は、お兄様とお揃いのモスグリーンのドレスを用意してもらった。
歩きやすいようにちょっと短めのドレスに、サッシュはお兄様の髪の色と同じ銀色。
もうそれだけで気分は爆上がり!
「レティ、ほら、楽しみなのは分かるけど、あんまり興奮しちゃダメだよ」
馬車に乗ると、お兄様がすぐに私の口の中に飴を入れた。
もぐもぐ。
……うん、興奮しすぎて、リコリスキャンディーのお世話になりました。
さあ、いざゆかん。
黄金のリコリス……、と、聖剣の眠る洞窟へ!
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