第31話 リコリスキャンディーは危険です
もぐもぐもぐ。
飴をなめると、リコリスの成分がすうっと体の中に溶けこんで、どこまでも膨らんでいこうとする魔力が治まって行くのが分かる。
お兄様が心配そうに私を見てるけど、キャンディーの効果はもう分かってるので、心配しながらも見守ってくれている。
お兄様、そのちょっと憂いのある顔も素敵です。
「何を食べたんだ?」
エルヴィンが私の口元を見て不思議そうな顔をする。
私がいきなり胸を押さえて飴を食べ始めたのが不思議だったんだろう。
「魔力過多の発作を和らげてくれる飴です」
「へえ、おいしいのか?」
私は食べたそうにしているエルヴィンに、しっかりと釘を刺す。
だって……。
「魔力を抑える効果があるので、エル様が食べると魔法が使えなくなっちゃいますよ」
そうなんだよねぇ。
魔力過多って、つまり体の中の魔力が一度に増えすぎてダメージを与えちゃって、リコリスはそれを抑える効果を持つ。
だからもし魔力の少ない人が飲んだら魔力欠乏症になっちゃうし、普通の魔力の人もしばらくは魔法が使えなくなる。
エルヴィンは王族だから他の人よりも魔力が多い方ではあるけど、小説でラスボスになっちゃうくらい強かったお兄様ですら、試しにリコリスを煎じたお茶を飲んだら一瞬魔力が使えなくなったくらいだから、その効果はかなり絶大だ。
そしてそれこそが、リコリスの性能をまだおおっぴらに公開できない理由でもある。
だってさ、魔力を無力化しちゃうんだよ……?
もし騙されてリコリスを摂取した直後に襲われたら、なんの抵抗もできずにやられちゃうもの。
百合を薄めたような独特の香りがあるからそれに注意すればいいけど、周知するには時間がかかる。
その間に薬としてではなく毒として使われたら、それこそリコリスは悪い植物だってイメージが先行してしまって、積極的に栽培することができなくなってしまうだろう。
その問題をどうするかで、ロバート博士とお父様は悩んでいるらしい。
小説では「特効薬見つかった、わーい。これで皆助かるね」で終わったけど、現実には薬として出そうと思ってもクリアしなくちゃいけない事が山積みになってる。
早く薬として出せればいいのになぁ。
「そうなのか?」
「やめておいた方がいいでしょうね」
お兄様に確認したエルヴィンは、がっくりと肩を落とした。
そんなに飴が食べたかったの?
まあ、まだ十一歳だから子供といえば子供だしね。
「これをどうぞ」
そう言って私は、エルヴィンにキャラメルをあげた。
砂糖と牛乳とバターだけで作れるお菓子は、この世界でも一般的だ。我が家の料理長の作ってくれたキャラメルは、特においしい。
すぐ溶けちゃうから気をつけないといけないけど、魔石を利用した冷蔵室があるから、いつでも好きな時に食べられる。
さすが公爵家!
「おお、キャラメルか!」
「殿下、私が先に頂きます」
「この屋敷内には敵が入ってこれないのだから心配ない」
大人の護衛の後ろに控えてたイアンが慌てて前に出てくるけど、エルヴィンは気にせずそのままキャラメルを口に入れた。
「うまいな。久しぶりの甘味だ」
なんだかとっても嬉しそうだからどうしてだろうと思ってたんだけど、イアンが、先日エルヴィンに用意されていたお菓子に毒が入ってた事があって、犯人のパティシエは捕まったんだけどまだはっきりとした背後関係が分からないせいで、ここしばらくはお菓子が食べれなかったんだって教えてくれた。
えええ。
王宮で王太子が毒殺未遂に遭うって……それって、ちゃんと王宮の警備ができてないって事じゃない?
大丈夫なのかな。「敵は外」のお守りを上げた方がいいのかな。
あと、エルヴィンが命を狙われてるっていうのがちょっと衝撃。
だってエルヴィンを殺して得をするような人が見当たらないんだもん。
今の王妃様はエルヴィンの継母だけど、子供は娘一人だし、実の子以上にエルヴィンを可愛がってる。
この国の王位継承権は基本的に男子が優先的に継承するけど、四親等内に男子がいない場合は直系の女子が継承するっていう決まりになってる。
貴族はもうちょっと緩くて、長男から順番に継承権を持つけど、男子がいない場合は女子が継承権を持つんだけどね。
今の王家には子供が二人。
エルヴィンと、小説のヒロインであるフィオーナ王女だ。
でも確か、エルヴィンには従兄もいたはずだから、何かあったらそっちに王位がいくはず。
あれ?
でも小説ではフィオーナ王女が女王になってなかったっけ?
あれは勇者と結婚したからかな……。
それかもしかして、エルヴィンの従兄は小説の終わりにはもう生きてないって事?
魔王軍に殺されちゃったとか……。
まさかエルヴィンが狙われたように、毒殺されたなんて事、ないよね!?
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