第30話 リコリスキャンディーの完成
リコリスのエキス入りキャンディー、出来上がりましたー!
蜂蜜とか色々入れても、効能は変わりませんでした。
実験台は私。
だって魔力過多である程度大きくなってて体力ある子って私くらいだし、一番の理由は、よく発作を起こしちゃうから。
なんといっても、前世から私の推しのお兄様といつも一緒にいますからね。発作を起こす確率はとっても高いのです。
ただし実験といっても、わざわざ発作を起こしたわけじゃなく、お兄様の麗しさにクラクラして発作を起こした時にリコリスを煎じた薬じゃなくて飴をなめてみたっていうくらい。
そして結果は、ちゃんと効きました!
劇的に、っていうほどではないけど、でも体の中の魔力の増え方が緩やかになっていったから、成功だと思う。
これで黄金のリコリスを見つける事ができれば、本物の特効薬ができる。
問題はどうやって黄金のリコリスがあるミランダの故郷へ行くかだけど……モコが教えてくれたって事でお父様とお兄様を説得しました!
すっかり回復したお父様はミランダが「敵は外」ドアをくぐれなかった事を知っているので私がミランダの故郷へ行く事を凄く心配していたけど、黄金のリコリスがあるところはミランダの領地の端っこだし、こっそり行けばバレないと思う。
それに黄金のリコリスが見つかれば、私だけじゃなくて、これから生まれる魔力過多の子供の命が助かるんだもん。
私は必死に説得してお父様の許可を取った。
なんとか説得して黄金のリコリスを探しに行ける事になったんだけど。
一緒に行くのは、ロバート博士とお兄様と護衛の皆様と……なぜか王太子エルヴィンだった。
なんでも、王宮で毒殺未遂があって、エルヴィンは無事だったんだけど毒見役が亡くなったそうだ。
背後関係がまだはっきりしないんで、国王陛下からちょっと王宮から離れるように勧められたらしい。
信頼できるのは敵を屋敷内に入れないように精霊が守ってるローゼンベルク家しかないって事で、我が家に突撃しにきたら、旅支度をしていたので、ちょうどいいからついてくるんだって。
ええー、待ってよ。
王太子様と一緒に行くなんて、もし何かあったらどうするのよ。
我が家はお取り潰しになっちゃうじゃない。
「ローゼンベルク家を守っている精霊さまが一緒なのだろう? だったら心配はいらないさ」
爽やかに笑ってるけど、この家を守ってるのは、本当はモコじゃなくてお守りなんだってば。
もうっ、お兄様、何とか言ってください。
「エルヴィン」
「お、なんだ?」
「僕たちはお忍びで行くんだ」
「楽しみだな。俺は騎士の格好をしようかな」
護衛の騎士の姿を見上げるエルヴィンに、セリオスお兄様はにっこりと笑う。
あ、その裏のなさそうでありそうな笑顔、素敵です。
「仮装じゃないんだから、商人の格好をするよ。僕たちは裕福な商人の兄妹で、君も一緒に行くなら、その使用人だ」
「王太子の俺が使用人……? 俺が主人でお前たちが使用人じゃダメなのか?」
不服そうなエルヴィンをお兄様はばっさりと切って捨てる。
「レティに使用人の真似なんてさせられないだろう。それとも何か? お前はレティを小間遣いにしてこき使いたいとでも言うのか?」
お兄様から冷たいオーラがにじみ出る。
実際に氷属性のお兄様は、ちょっと魔力を放出すると周囲を冷たくしてしまうのだ。
そこがいいんだけど。
お兄様の怒りと共に白く凍っていくなんて、凄く絵になるもんね。
あ、でもエルヴィンの頬にちょっと霜がついちゃってる。
さすがに王太子を氷漬けはダメだよね。
「エルヴィン様も、たまには使われる側の気持ちを知った方がいいと思います。良い王様になるための修行だと思ってがんばってみたらどうでしょう?」
お兄様の後ろからひょこっと顔を出してそう言うと、エルヴィンは「本当に五歳か……?」と呟きながら私を見た。
……すみません。前世の分を入れるとかなりサバを読んでます……。
「レティは賢いからね。それに精霊の加護を受けてるんだ。特別なのは当然だろう」
頭をなでながらそう言ってくれるお兄様、大好きです!
本物の天才というのは、私のように前世の記憶がないにも関わらず、今の私と同じような五歳児だったお兄様です。
そのおかげで、私は屋敷内でも普通に受け入れられたんだもん。
あれ、でもそうすると、五歳の頃のお兄様って周りに理解されなくて大変だったのでは……。
あああああ。
私がその頃に生まれていれば……。
そしたら最大の理解者になってあげられたのに。
「違いますよ、私はお兄様に似たんです」
そう言うと、お兄様はちょっとアイスブルーの目を見開いて。
そして心に残るような素敵な微笑みを浮かべた。
至福……。
あ、でも発作が……。
私は慌ててリコリスキャンディーを口に入れた。
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