第3話 魔力過多
とは言っても、魔力過多を治さないと根本的な解決にはならない。
魔力過多で生まれる子供は少ない。
なぜなら、母体よりもはるかに多い魔力の子供がお腹の中にいるせいで、母親も疑似的魔力過多の状態になってしまうからだ。
その上更に出産となると、母体にかかる負荷はとてつもなく重い。
だから魔力過多の子供はお腹の中で育たないし、なんとか出産を迎えたとしても、母親と一緒に命を落としてしまう事が多い。
私の母も出産時に亡くなってしまい、私もずっと仮死状態だった。
お医者さんが私の状態を見ながら回復魔法をかけてくれていたおかげで、何とか死なずに済んだのだ。
軽い魔力過多ならば成長するにつれ治る事があるし、家族であれば多少なら増えすぎた魔力を吸い取る事ができるから命を落とすまではいかない。
でも私のように仮死状態で生まれる子供は、そこで生き延びたとしても、大人になる前に増えすぎる魔力に体が耐え切れず死んでしまう。
グランアヴェールの主人公、勇者アベルも魔力過多で、小さい頃はベッドから起き上がれないくらい体が弱かった。
でも村の裏手にある洞窟で眠っていた聖剣に呼ばれて、そこにしか生えてない黄金のリコリスの花粉を吸いこんだ事によって完治する。
つまり聖剣のある洞窟にいけば特効薬が生えてるんだけど、まだ赤ちゃんだから取りに行けないのよね。
もう少し大きくならないと無理。
それまで何とか発作を起こさないようにしなくちゃいけないんだけど……。
とりあえずセリオスお兄様を見て興奮しすぎないようにしないとダメだわ。
「レティ、早く元気におなり」
でも、でも、推しが最高で可愛いいんですけどぉ!
私の小さな手をぎゅっと握るお兄様。
よく覚えてないけど、私、前世でどんな徳を積んだんですか?
もうこの手を洗わなくてもいいですか?
神様仏様、この世界の創造神様、私を転生させてくださってありがとうございます!
本当に毎日が幸せです。
大人になった表情筋の死んでるクールなセリオス様も素敵だけど、まだ小さくて頬に丸みも残ってて、
艶やかな銀髪もまだ短くて、綺麗なアイスブルーの瞳も切れ長なんだけど子供らしくまん丸で。
そんなこの世の可愛さを全て集めて神様が作った最高に可愛い美少年を前に、興奮するなっていうほうが無理だよね。
つまり、毎日死にかけてます。はい。
小説でも、レティシアは「セリオスの死んだ妹」としか出てきてない。
まさか小説のレティシアも兄の麗しさに興奮して死んじゃったなんて事は……。
いや、さすがにそれはないか。
実の兄妹だもんね。
でも、前世も今世も死因が「推しに興奮した為」っていうのは情けない。
それに私も、もっともっと推しを堪能したい。
だから頑張って推しに慣れて興奮しないように……。
「にー」
お兄様の手をがんばって握り返す。
すると喜びにあふれた笑顔が返ってきた。
ああああああ。
尊い!
尊いですー!
「レティ、もしかして、にーって僕の事?」
「にーに、にー!」
そうです。私の最愛のお兄様。
秘かに練習してましたー!
やっと披露できる。わーい。
もうちょっとがんばって、お兄様って言えるようになるから、待っててくださいね。
「ああ、レティ、嬉しいよ!」
私の思いが通じたのか、お兄様は満開の笑顔を浮かべて私に抱き着いた。
ひーえー!
推しが、推しに、抱きしめられてるうううううううううう。
あ……。
体の中の魔力がぶわっと膨らむ。
膨らんで、膨らんで、弾け……ないように……が、がまんっ……。
「レティ? レティ! ロバート先生、レティがー!」
だいじょうぶだから……。
だからなかないで……。
目が覚めてそこにセリオスお兄様の姿を見つけた私は、心の底からホッとした。
良かったよぉぉ。
また別の世界に転生してたらどうしようかと思っちゃった。
せっかくグランアヴェールの世界に生まれたんだから、命大事に。これ絶対大切。
「にーに……」
「レティ、良かった……」
ああっ。なんだかツヤツヤスベスベのほっぺが少しやつれているような……。
ううう。私を心配してくれてたのね。
小説通り、妹思いなんだなぁ。
秘かに感動していると、セリオスお兄様は何かを私の顔にくっつけた。
モフっとしているのに、触れられるとそこから熱が冷めるような感じがした。
「だめだよ、また魔力が膨らんでしまう」
「う……?」
「これはね、魔力を吸収してくれる毛玉だよ」
そう言ってお兄様は、真っ白の毛玉を見せてくれた。
生き物なのか、真ん中に目がある。
え、目が合っちゃった。
「……!」
お互いに目をまん丸にして見つめ合う。
これ、どこかで見たような……。
あっ、思い出した!
森の妖精と姉妹が触れ合う国民的映画に出てきた、まっくろくろたろうだ。
モフっとした毛玉のフォルムといい、くりくりした大きな目といい、完全にそれの色違いバージョンだわ。
「やっと手に入ったんだって。大切にしてね」
後で分かった事だけど、この毛玉はドラゴンの巣にしか存在しない精霊の一種で、ドラゴンの膨大な魔力を吸収して生きてるんだって。
ただ数が少ないので、とても貴重なんだそう。
そんな凄いものを私にくれるなんて、セリオスお兄様、ありがとうございます!
大好きです、一生推します。
毛玉も大切にします!
「にー!」
私はにっこり笑って、真っ白い毛玉をお兄様から受け取った。
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