第26話 教会からの突然の訪問者
やってきましたリコリスの花。
魔力過多の特効薬になる黄金のリコリスじゃないけど、症状を軽くする効果があるだけでもいいなぁと期待してる。
ロバート先生はやる気に満ちているので、すぐには無理かもしれないけど、がんばって頂きたい。
ただ黄金のリコリスをゲットするのが一番であるのは確かなんだよね。
ミランダの故郷かぁ。
うーん。
行くにしても、私がもうちょっと大きくならないとダメだよね。
早く大きくなりたい……。
「聖剣さん、勇者はまだ現れない?」
『うむ』
って事は、魔王復活もまだかー。
それはちょっと安心。
お父様の怪我もほぼ治ってきたから、そっちも安心だし。
魔王が現れるまで、のんびりできそうかも。
なんて思ってたら、いきなり教会から敵味方判別扉についての問い合わせが来た。
特定の人物を排除する呪いではないかと疑われたのだ。
「お兄様、どうしましょう」
「レティは何も悪い事をしていないのだから、胸を張っておいで」
セリオスお兄様はそう言うけど、でも心配です……。
この世界でも教会はとても力を持っている。
魔物につけられた傷から広がる瘴気を治せるのが神官だけなので、当然だろう。
魔物はその強さによって瘴気の濃さが違う。
弱い魔物であれば、かすり傷くらいなら、瘴気はそのまま消えてしまう。
でも強い魔物の場合は、かすり傷でも放っておくとそこから瘴気が広がっていき、全身が真っ黒になって、やがて苦しみながら死んでしまうのだ。
小説『グランアヴェール』でも、勇者が村に戻ったら魔物に襲われていて、村人たちが苦しみながら死んでしまうのを見て、魔王への復讐を誓うんだよね。
そして勇者の仲間の一人も、瘴気に腕をやられて隻腕になるんだっけ……。
そういえば、瘴気の原因が何か、って小説の中にも出てきてないなぁ。
瘴気が集まって魔王が生まれる訳だし、本当に瘴気って何なんだろう。
そんな事を考えているうちに、突然先触れも寄越さずに教会からの使者がやってきた。
普通、公爵家を訪問する際は、あらかじめ何日に行きます、と先触れを寄越す。
なのに王太子といい教会といい、アポなし訪問が多すぎではないだろうか。
しかも我が家はまだお父様が完全には回復していなくて、ちゃんとした応対はできない。
でも、訪問者は強引だった。
嫡男のお兄様がいれば問題ないと、押しかけてきたのだ。
心配になった私がお兄様にくっついて玄関に行くと、そこには護衛らしき人を二人従えた聖職者らしき人が待っていた。
紅茶色の髪に笑っているような細い糸目の目の色は茶色で、年齢は三十前後といったところだろうか。
でも目の奥は笑っていなくて、怖くなった私は思わずお兄様の後ろに隠れてしまった。
「初めまして、ローゼンベルクのご子息とご息女。私は異端審問会のレブラント枢機卿と申します」
よりによって、異端審問会!?
異端諮問会というのは、呪詛の魔法を使う魔女を見つける為の組織だ。
魔女と認定されると、魔法を使えなくする為に、魔封じの首輪をつけられてしまう。
つまり、魔法を放出できなくなるという事で……。
ちょっと待って。
それってサヨナラしたはずの、私の死亡フラグなのでは!?
「初めまして枢機卿。私はセリオス・ローゼンベルクです。こちらは妹のレティシア・ローゼンベルク」
「初めまして……」
とりあえず挨拶はしなくちゃと思って、お兄様の後ろから挨拶をする。
マナーがなってないけど、一応五歳だからね!
こんな失礼な態度でも、さすがに向こうも怒れない。
「あなたがレティシア嬢ですか」
「ぴえっ」
レブラント枢機卿がしゃがんで私の顔の前にやってきたので、思わず変な声が出た。
は、恥ずかしい……。
「妹をご存じで?」
お兄様の声が一瞬低くなった。
私に向けられていないのであれば、そういう声も素敵です。
「魔力過多を患っているとお聞きしたが、そう見えないほどお元気でいらっしゃる」
私が何と答えていいか分からずに黙っていると、お兄様が代わりに答えてくれた。
「毛玉のおかげです」
「毛玉……?」
「ええ。ご存じありませんか? ドラゴンの巣にいる毛玉ですよ」
「ああ。……しかし、あれは……」
思案するような枢機卿は、私の後ろを見てギョッとしたような顔をした。
私も振り返ってみると、大きな毛玉が転がってくる。
「モコ」
モコが、ぽよーんと私にぶつかってきたので、慌ててキャッチする。
もふんとした毛は、今日も侍女さんたちによって艶々になっている。
「……それは何ですか?」
「モコです」
私が答えると、枢機卿は何とも言えないような微妙な表情を浮かべる。
「まさかとは思いますが、毛玉が育ったのですか?」
「大きくなりました!」
にっこり笑ってモコを両手で掲げて見せてあげると、枢機卿はますます変な顔になる。
そして助けを求めるかのようにお兄様へ視線を向けた。
お兄様は少し笑うのを我慢してるみたいで、肩が震えている。
そんな姿もかっこいいのは、けしからんと思います。
「毛玉は精霊の一種だと考えられてきましたが、どうやら本当だったようです。実はこのモコの毛を使って護符のような物を作ってみたところ、当家に悪意を持つ者は、一歩たりともこの扉をくぐれなくなったのです」
そしてお兄様は、自分よりもはるかに年上の枢機卿に挑むような目を向けた。
「つまり、呪いなどではなく、精霊による祝福が我がローゼンベルク家を守っているのです」
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