第25話 敵味方判別扉
扉の上につけたお守りによって、我が家を訪れた人が敵か味方か判別できるようになりました。
でも私のお守りのおかげって言っちゃうと、うっかり聖女認定されて教会へ連れて行かれちゃうかもしれないんで、成長したモコのおかげって事になった。
白い綿ぼこりのようだったモコは、私の魔力を吸ってすくすくと成長し、今では小型犬くらいの大きさになっている。
白バージョンのまっくろくろたろうから、小さなトロロに変身したようなイメージだろうか。
モコは元々「毛玉」と呼ばれている精霊の一種で、こんなに大きく育った個体はいないので、モコの不思議な力のせいにすれば問題ないという判断らしい。
なんとも大雑把だけど、お守りの文字を刺繍した糸はモコの毛だから、間違っていないといえば間違っていないもんね。
最近は部屋のお掃除をするメイドさんたちの間で、モコの抜け毛を探すのが流行っているらしい。
いや、モコは犬猫じゃないから抜け毛なんてないよ……。
と、思ってたら、ありました。
刺繍に使ってる毛みたいな特殊な効果は持たないみたいだけど、メイドさんたちはお守りとして巾着に入れて大切にしてるんだとか。
あれって、ただ単にモコが気に入ったメイドさんにあげてるだけな気がするなぁ。
だって抜け毛持ってるメイドさんって、モコをもふもふしてたり、そっとお菓子をあげてたりする人たちだもん。
いつの間にか、モコはローゼンベルク家皆のペットになってました。
でもそのおかげで屋敷内を偵察できたわけだから、モコには感謝しかない。
そしてさらにお守り効果で守護神扱いになった。
「もしかしたら毛玉狩りが流行るかもしれないけど、ドラゴンの巣にしか生息してない希少な生き物だから捕まえるのは難しいだろうね。それに、普通はいつの間にか小さくなって消えてしまうらしいよ」
お茶を飲む所作だけでも美しいセリオスお兄様に見とれていた私は、「小さくなって消えてしまう」という不穏な言葉の響きに驚いた。
「消えちゃうんですか?」
思わず膝の上でふわふわしているモコを撫でてしまう。
モコはこうして撫でられるのが好きみたいで、気持ちいい、っていうモコの感情が手の平から伝わってくる。
もしモコが消えちゃったらどうしよう、って思ったら「だいじょうぶだよ。消えないから」っていうモコの声が聞こえてきた。
モコは普段あんまりお喋りをしないんだけど、こういう時はちゃんと気持ちを伝えてくれる。
「モコの成長を見ると、魔力を吸収して大きくなるみたいだから、消えてしまう場合は魔力が足りなかったのかもしれないね。もしかしたら魔力過多の子供に毛玉を与える事ができれば、魔力の暴発を抑えられるんだろうか」
お兄様の言葉に、私はうーんと考える。
「小さいうちは大丈夫でも、大きくなったら無理かもしれない」
私も聖剣の助けがなかったら、ここまで大きくなれてなかったと思うもの。
やっぱり聖剣のある黄金のリコリスが咲く場所に行って特効薬を作るしかない。
でもミランダの領地にあるんだよね。
ミランダは敵味方判別お守りにはじかれてローゼンベルク家には入れなくなっちゃってる。
お兄様はミランダみたいに分かりやすい敵は、わざと屋敷内に入れて様子を見る事にするって言ってるから、そのうちまた戻ってくるんだろうけど、さすがにその領地に行くのは無理かなぁ。
私の療養で行くって事にしようと思ったけど、お父様とお兄様が襲撃された直後でその案は実現不可能になっちゃったし。
困ったなぁ。
「じゃあお前また倒れるのか?」
そう口を挟んできたのは、いきなりやってきた王子様だ。
お兄様の親友と私の友達を自称しているのでお見舞いと称して前触れもなく訪れた。
私の誕生日パーティーの時のように護衛を撒いてきた訳じゃないのは良いけど、来るなら来るで連絡くらいしてよね、って思う。
一応王族というか王太子なんだから、警護とか色々あるでしょうに……。
お兄様はおもしろそうに敵味方判定扉をくぐらせてみたけど、あっさりくぐり抜けたので、ちょっと拍子抜けしたみたいだった。
うん。あの時のお兄様、カッコ可愛かった。
あの表情が見れただけで、エルヴィン殿下のアポなし訪問を許そうって気になれた。
「そうかも?」
首を傾げながら言うと、エルヴィン殿下は焦ったように身を乗り出した。
「何か対策はないのか?」
えー。もしかして王子様なのに魔力過多の事知らないの?
王族なんて元々の魔力が多いから、魔力過多の子供が生まれる確率が高そうなのに。
なんていうか見かけは抜群に良いんだけど、この王子様、中身が結構ポンコツなんだよね。
俺様気質は、初めて会った時に比べたらかなり良くなってきたけど、基礎的な知識が欠落してる事があるというか……。
ちゃんとお勉強してるのかなぁ。
説明するのめんどくさいなと思ってたら、代わりにお兄様が説明をしてくれた。
ああっ。お兄様の手を煩わせてしまってごめんなさい。
「そうか……。魔力過多の子供は長生きできないのか……」
お兄様の説明を聞いたエルヴィン殿下は、痛ましそうに私を見た。
いや、そんな顔されても、私はお兄様をラスボスにしない為に生き延びる予定ですから、全く何の心配もありません。
「もちろん病気の完治を目指して特効薬の研究をしているんだけどね。そういえばレティの誕生日に持ってきてくれたしおりの花は初めて見たんだけど、あれは王宮でしか咲かない花なのかい?」
「あれか? 義母上が大切に育てていらっしゃるからそうなのかもしれない」
「もし良ければ一株分けてもらえないだろうか。特効薬を作るために色んな材料で研究してみたいんだ」
「お、おお。もちろんいいぞ」
滅多にないセリオスお兄様のお願いに、エルヴィン殿下は俺に任せろとばかりに胸を叩いた。
黄金のリコリスじゃないけど、でもずっと小説のモチーフになってたリコリスの花にはきっと何かあるはず。
まさかこんなタイミングで話題に出るとは。
さすがお兄様。
やったー!
これでリコリスの花、ゲットだー!
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