第24話 敵は外
幸いお父様の怪我は、しばらくベッドの住人になれば治りそうでホッと安心した。
ただ屋敷の中に裏切者がいたので、全体に雰囲気がピリピリしている。
私はモコに頼んで屋敷の中に怪しい人がいないかどうか見回ってもらった。その間にせっせと新しいお守りの製作に励む。
もちろん「守護」のお守りだ。
文字を刺繍する事で増えすぎる魔力がちょうど良い感じに放出されるらしく、お守りを作り始めてからすこぶる調子が良い。
なかなか「護」という漢字が難しくて上手に縫えないのだが、お兄様とお父様の安全のためには、指に針を刺しまくってもがんばるしかない。
そしてもう一つ。
玄関に「敵は外」と書いたお守りをぶら下げてみた。
正直、効果があるかどうか分からなかったし「敵」っていう文字も難しくて泣きたくなったけど、これが案外効いた。
玄関から中に入れないという事はないんだけど、何か引っかかりを覚えるみたいで一瞬足を止めるのだ。
使用人たちは裏口を使うから、そこにリースのように飾ったお守りをかけておいたら、何人かがそこで立ち止まった。
彼らの名前はチェックされて、信頼できる使用人にその行動を見張ってもらう。
もちろんミランダも引っかかった。
そして何人かは、お父様の弟、つまり私の叔父さんのところへ報告に行っていた。
「叔父さんなんていたんだ……」
一度も会った事がないからびっくりしていると、お兄様は「縁を切っているからね」と何でもない事のように言った。
私はやっと起き上がれるようになったお父様にねだられて、剥いたリンゴを食べさせてあげている。
まだちょっと背中がひきつるから、上手にフォークを持てないんだって。
本当かなぁ?
これじゃあ、どっちが子供か分からない。
でもお兄様に良く似た顔でねだられると、つい頷いちゃうのよね。
後で部屋に来たお兄様が呆れていたけど。
「どうして縁を切ったの?」
私に言える事かな、と思ってお父様を見る。
お父様はあまり言いたくなさそうだったけど、重い口を開いた。
「元々素行に問題があったんだが、エミリアに横恋慕をしたから縁を切った」
どうも叔父は公爵家の次男として放蕩の限りを尽くしていたらしい。そして亡くなったお母様に手を出そうとして、お父様の逆鱗に触れてしまった。
「子ができたという伯爵家に婿入りさせたが、私を恨んでいるのだろう」
あー、そりゃあねぇ。
公爵家から伯爵家だと、かなり爵位が落ちるもんね……。
この国の爵位は、公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵、騎士爵の七つに分かれている。
騎士爵だけは功績を上げた当人だけに与えられた爵位で子供には受け継がれないが、基本的に爵位と財産は嫡子が全て引き継ぐ。
次子以降は、当主の手伝いをするか、文官や騎士になって稼ぐというのが一般的だ。
女性の場合は、直系に男子がいない場合だけ、婿養子を取って爵位を継ぐ事ができる。それ以外はお嫁に行くのが普通だ。
叔父は文官になるのも嫌、騎士になるのも嫌、聖職者になるのも嫌、という感じで、家族も扱いに困っていたんだそうだ。
ただ叔父の祖母、つまり亡くなったひいおばあちゃんが、叔父を可愛がっていて素行が治らなかったらしい。
あれかな、出来の悪い子ほど可愛いってやつかな。
あと顔が良かったらしい。
お父様はお兄様をちょっとヘタレにしたような美形だけど、もっと甘い美貌で、しかも甘え上手だったのだとか。
あぁ、いるよね、そういう人。
そんな感じで好き勝手してた叔父だけど、さすがに伯爵家の跡取り娘に子供ができた時は年貢の納め時だと誰もが思った。
だが、そこで叔父はなぜか、自分は伯爵家の器ではない、公爵家の当主にふさわしいと思ったらしく、何を思ったか既にお父様と結婚していたお母様に言い寄った。
まだお兄様も生まれていない時で、うまく誘惑に乗れば後継者が生まれたとしても自分の子になる。そこから家を乗っ取ればいいと思ったらしい。
顔は良くても、頭はあんまり良くなかったんだね。
もちろんお父様を愛しているお母様は叔父をはねつけ、叔父は伯爵家に婿入りし、ローゼンベルク公爵家には出入り禁止になった。
「それって、逆恨みって言いませんか?」
「その通りだね」
思わず感想を言うと、お兄様が同意してくれた。
ですよねー。
「ただ弟だけでこんな計画を立てられたとは思えないんだ」
お父様の言葉に、お兄様が付け加える。
「今までも不満はあったにせよ、直接の行動を取る事はありませんでしたからね。なぜこのタイミングなのか……」
そう言ってお兄様は私を見た。
え、何ですか?
お兄様の素敵な顔をずっと見ていていいって事ですか?
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