第22話 お守りの効力
慌ててホールに向かった私は、お兄様の無事な姿を見つけてホッとする。
でもお父様は……?
「お父様!」
護衛に抱えられたお父様は、ぐったりとしている。
「急に魔物が襲ってきたんだ。回復術師をすぐに呼べ!」
魔物が……!?
そういえば小説で、お父様が魔物に襲われるという事件があった。
でもそれはミランダと再婚してからの話で、自分の子供を後継ぎにしようと企んだミランダの仕業だったはず。それでお父様は寝たきりになってしまって、ローゼンベルク公爵家はミランダに牛耳られる、という流れで……。
もちろんお兄様がミランダの罪を暴いて追い出したけど、それまでの数年はお兄様にとってつらく厳しい物になる。
お兄様の無表情が更に進行する原因でもあるのよね。
まさかこんなに早くこの事件が起きるなんて……。しかもお兄様と一緒の時に。
そもそもミランダとの再婚がなくなったから、起こらないはずって信じてた。
もっと警戒していれば、お父様が怪我をする事もなかったのに……!
私は寝室に運ばれていくお父様の後を追った。
「お兄様、お父様は……」
ベッドにうつ伏せで横たわるお父様の顔色は悪い。
その背中には大きな切り傷があって、血がドクドクと流れている。
お兄様が氷魔法で凍らせて止血しようとしたのか、切られたコートの上の方はうっすら凍って白くなっていた。
「僕をかばって……」
お父様……!
確かにお兄様が危なかったら身を挺してかばうのは当然だけど、それでお父様が怪我を負っちゃダメでしょう!
しかも魔物から受ける傷には瘴気が残る可能性が高い。
これほど深手の傷なら、かなり瘴気のダメージを受けているはず。
もしかしたら、お父様が死んでしまうかも……!
(聖剣さん! 何とかならない?)
私は苦しい時の聖剣頼みで声をかける。
でも聖剣の返事はのんびりしたものだった。
『瘴気はないから、大丈夫であろう』
(え……?)
『お主の作ったお守りとやらが効果を発したようだな。傷だけならば神官でなくとも癒せるはずだぞ』
私はじっとお父様の背中の傷を見る。
瘴気がなくて怪我だけ。
怪我だけなら、確かに回復術師の魔法で治る。
よ……良かったぁ……!
もしお父様が魔物の傷が原因で死んでしまったり寝たきりになってしまったりしたら、どうしようかと思った。
せっかく家族になったんだもん。もっともっとお父様と一緒にいたい。
そりゃあもちろん、私の最愛の推しはセリオスお兄様で唯一無二の存在だけど、お父様だって私の大切な家族なんだから、失いたくない。
お守りを作って良かったー!
(聖剣さん、モコ、ありがとう!)
感謝の気持ちをこめると、聖剣とモコから「どういたしまして」という返事が伝わってくる。
ありがとう。
ありがとう、本当に!
私はそこでまだ出血が止まらないらしいお父様の様子を見る。
背が低いから、どんな状態なのかよく分からない。さっきはチラっと見ただけだったし。
お守りが効いたんだよね。だったら……。
私はお兄様にあげようと、数時間で作ったお守り第二弾をポケットから出す。
漢字は難しかったので、「ケンコウ」ってカタカナで刺繍してあるけど、これで効かないかな。
苦しそうなお父様の側に寄って、背伸びしてお守りをペタッと背中に載せる。
ギリギリで手が届いた。
良かったー!
「レティ、危ない」
お兄様が慌てて私をベッドから離れさせる。
「魔物から受けた傷には瘴気が残っている事が多いから、近づいてはいけないよ」
聖剣から瘴気はないって聞いているけど、説明できないから黙って頷く。
私からはお父さまの背中は見えない。
血が止まってるといいんだけどなぁ。
「坊ちゃま! 血が止まりました!」
「なんだって!」
お父様に仕えている筆頭執事のセバスが、驚いたようにお兄様を呼ぶ。
最近は「セリオス様」って呼んでるのに「坊ちゃま」呼びになるくらい慌ててるみたい。
お兄様はお父様の容態を見ると、安堵した表情を浮かべてから、すぐに険しい顔になった。
そして周りにいる使用人たちを見回す。
「ここにいる者は、決してこのことを口外してはならない。もし口外した事が分かれば、一族郎党処分するから、そのつもりでいろ」
えっ、えっ。
なんだかお兄様がいきなりすさぶっていらっしゃる。
ここはお父様が治って良かったなって喜ぶところじゃないの?
一体何が起こったの?
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