第20話 誰も彼もが怪しくない
まずは、どうしてお兄様が狙われるのか、っていう所から考えなくちゃいけない。
お兄様は最高で完璧で素敵だけど、それは置いておくとして、他人から見たお兄様は「ローゼンベルク公爵家の嫡男」になる。
ローゼンベルク公爵家のご先祖様は、元々は王国に隣接する小さな国の王様だった。なにやかんやあって王国に併合された時に、公爵の地位をもらったらしい。
なので、その国の国宝とやらが我が家にはたんまりある。ほとんどが使い道の分からないものらしいけど。
そして元々治めていた国の大部分を領地にしているから、とてもお金持ちだ。
うん。
どう考えても、誰かがローゼンベルク公爵家の家督を狙ってる、って事だよね。
ローゼンベルク家の直系は、お兄様と私だけだ。
その私は魔力過多で長生きできないと思われているから、お兄様を消せば、家督は他の誰かのものになる。
その誰か、なんだけど……。
さっぱり見当がつかないのよね。
なので、子供らしく無邪気に遊んでいるふりをして様子を探る作戦の決行だ。
怪しいのは、お兄様専属の執事・侍従・護衛の三人。
この三人は後継者であるお兄様にずっとついていないといけないはずなのに、原作には出てこなかった。
つまり、何らかの事情で職を解かれたわけだ。
そこで私は屋敷をうろうろしてこの三人の情報を集めた。
まず執事。
彼は代々我が家の執事をしている家系の出身で、お兄様が生まれた時から将来専属執事として仕えるべく教育された人らしい。
そういう教育を受ける人は何人かいて、その中でも特に優れた人が、後継者の専属執事として選ばれるんだとか。
つまり彼はローゼンベルク公爵家の執事の中でも、多数のライバルを蹴散らして仕えている、エリート執事なのである。
仕事はできるし、お兄様に絶対の忠誠を誓っているし……。逆に私が疑ってしまってごめんなさいと謝りたくなるくらい、完璧な執事だった。
……執事さんは犯人じゃないなぁ。
となると、専属の従僕?
執事がスケジュールの管理だとしたら、従僕は身の回りの世話係だ。
朝起きて目覚めの紅茶を運んだり、服を着替えるのを手伝ったり、何とも羨ま……あ、いや、つまりずっとお兄様の側について仕えている。
彼はお兄様の乳兄弟にあたり、やっぱり絶対の忠誠を誓っている。
乳母だった人は公爵家に仕える騎士団の妻で、今は家族と一緒に暮らしていて、たまに屋敷に遊びにくる。
……怪しいところが何もない。
残るは護衛だけど、彼も公爵家の騎士団から選ばれていて、身元の確かな青年だ。うちと同じく妹がいるらしく、私がお兄様にべったりくっつくのを微笑ましく見ている。
「うーん。困った」
『お主の兄を裏切る者が見つからないのか?』
やはり年の功という事で、何かいいアイデアがないかと、聖剣に相談してみる。
「そうなの。誰も怪しい人がいないの」
裏切る人間というのは、恨み、嫉妬、そしてお金で動く。
でもお兄様は恨まれるような事は何もしていないし、公爵家に対する恨みだったとしても長年仕えている家柄の人たちばっかりだから、それも考え辛い。
お金にしても公爵家では十分な給金を渡している。
賭博か何かで身を持ち崩していたらお金を必要とするだろうけど、それはない。
とすると、残るのは嫉妬だけど……。
なんていうか、人って、手が届きそうなところにいる人には嫉妬するけど、そのはるか上にいる人に対しては、嫉妬するより憧れたり崇拝したりすると思うんだよね。
お兄様と立場の似ている人ならば嫉妬するのは分かるけど、ここまで立場が違うと、嫉妬の対象にならないんじゃないかなぁ。
うーん。誰が裏切るのか分からない。
「風の魔法が使えれば、盗聴とかできそうなんだけどなぁ」
魔力があるのに、一度使うと壊れた蛇口から水があふれるように魔力がどばーっと垂れ流しになってしまうから使えないなんて、本当に宝の持ち腐れだわ。
しかも興奮して魔力が増えすぎると、自分の体を壊しちゃうとか、魔力過多じゃなければ、できる事がいっぱいあるのに……。
『剣でもあれば、我の力を貸し与える事もできるのだがな』
「えっ、そうなの? じゃあお兄様の剣に力を貸せる?」
『いや。契約者たるそなたが持っておらぬと無理だな』
「じゃあ無理じゃない……」
剣は重い。
私のような五歳児に持てと言っても重くて持ち上がらないだろう。
短剣ですら無理だと思う。
持てるものといったら、針くらいしか……。
「私が手にした剣なら、力を貸せるって事?」
『うむ』
「だったら、針は?」
『針だと?』
「そう! 良い事考えちゃった!」
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