第2話 転生したら推しの妹でした
暗闇の中でがやがやと話す声がする。
どうやら生き延びたみたい……。
目を開けて気を失う前に見た手を挙げてみる。やっぱり小さい。
この小ささって……赤ちゃんだよね。
どうやら死んで赤ちゃんに転生してしまったらしい。
部屋の様子を見ると豪華だから、それなりの家に生まれたのだろうと予想する。
また病弱なのかと落ちこんでいると、視界の隅にさっきの美少年が見える。
青い目が印象的だ。
「坊ちゃま、お嬢さまはご無事ですよ」
執事らしき人がそう言うと、美少年は「良かった……」と涙ぐんでいる。
「ドキドキさせると命の危険があります 。驚かせたり、心拍数を上げたりすることの無いように」
執事とは別の人の声がする。
話の内容からするとお医者さんだろうか。
「先生、ありがとうございます」
「ご子息は妹思いでいらっしゃる」
どうやら美少年は私の兄らしい。
でも、どこかで会った事があるような気がするんだよなぁ。
そっと近寄ってくる美少年にドキドキしてしまう。
ドキドキしちゃダメ。
また倒れちゃう!
そう思うものの……。
「セリオス様は本当にレティシア様を可愛がっておいでですね」
執事さんのしみじみとした言葉に思考が止まる。
……は?
セリオスって言った……?
セリオスという名前を持つ美形は、私の常識だと最推しであるセリオス・ローゼンベルク様しかいないんだけど……。
まさかね。だってこんなに小さくないし。
でも……。
銀色に輝く髪。
一見冷たく見えるけど、今は心配そうな色をたたえているアイスブルーの瞳。
それはまさしく私の最推し、セリオス様の色!
という事は、本当に本当で本物のセリオス様!?
そう思った瞬間、私はまた意識を失った。
夢の中で私はスマホをいじっていた。
私のアカウント名は「セリオス様を幸せにする会」だ。
小説『グランアヴェール』の中で、勇者アベルの親友として登場するセリオス様は、剣も魔法も得意で序盤では勇者よりも活躍していた。
魔力過多という病気で妹を亡くしていて、同じように魔力過多で苦しんだアベルを弟のように可愛がっていた事から、伸び悩む勇者に適切なアドバイスを与えていた。
そんな頼れるお兄さん枠のセリオス様は、グランアヴェールで勇者よりも人気のキャラだった。
トレードマークの無表情は、可愛がっていた妹が目の前で死んでしまったせい。
どうやら私は、その亡くなった妹のレティシアに転生してしまったみたい。
「このままだと私は死んじゃって、そのショックでセリオス様は原作通りの無表情になっちゃう……?」
それはダメだ。
だって「セリオス様を幸せにする会」の会長として、私にはセリオス様を幸せにする義務があるもの。
魔力過多というのは、体内の魔力が多すぎて体が耐えられなくなってしまう病気だ。
ドキドキしたり興奮したりすると、体内の魔力が一気に増えてしまう。
ある程度まで育てば増える魔力に体が耐えられるようになるらしいけど、小説のレティシアはそこまで持たなかったみたい。
それに最推しのセリオス様がお兄様とか……。
それって毎日胸がドキドキしちゃうって事。
そして魔力過多は興奮してはいけない病気。
でも小さい頃のセリオス様を前にして、興奮しないでいられるだろうか。
……どう考えても無理だわ。
いや、無理とか言っちゃいけないんだけど。だってもし私が死んじゃったら、セリオス様の心に傷を負わせる事になってしまう。
セリオス様を幸せにする会の会長として、それだけはやっちゃいけない。
だったら私が自分のメンタルを鍛えるしかない。
何としてでも生き延びていかなくては!
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