第18話 魔力の暴発
今日は成人の日ですね
新成人の皆様、おめでとうございます!
朝食の席でホットミルクを飲んだ瞬間、すぐにおかしいと思った。
体の中の魔力が一気に増え、体内で暴れ回る。
私はカップを取り落とし、食卓に突っ伏した。
力を失った体がずるりと床に落ちる。
「レティ!」
お兄様の叫ぶ声が聞こえる。
答えようと思っても、声が出ない。
モコが必死に魔力を吸ってくれるけど、それ以上に魔力が膨らんでいく。
『娘、大丈夫か!』
聖剣も心配して声をかけてくれるけど、返事をする余裕はない。
かつてない程の魔力の暴発に、おかしいと思う。
だって、お兄様はいつものお兄様だった。
私が魔力過多の発作を起こすのは、たいていお兄様が原因だ。
でもさすがに普段のお兄様を見て発作を起こす事はなくなってきている。
ただ、この家の中には私を殺したいと思っている人がいる。
ミランダと料理長がお菓子の中に魔力を増幅させる薬を入れるって言ってたけど、もしかしたらお菓子じゃなくてホットミルクに入れられたのかもしれない。
「すぐに料理長とミランダを捕まえてこい!」
お兄様の声が遠い。
ああ、もっと警戒しておけば良かった……。
膨らみ過ぎた魔力が、限界まで膨らむ。
ダメ、お兄様たち、逃げて……!
小説でアベルが魔力の暴発を起した時の描写を思い出す。
森の中で幼馴染が魔物に切りつけられて、それで……。
抱きしめられていた幼馴染は無事だったけど、アベルの周りの木が全部なくなっていた。
という事は、私が魔力の暴発を起してしまったら、ここにいるお兄様たちが危険になる。
でも、どんどん膨らむ魔力は破裂寸前まで増えている。
どうしよう、どうすれば……。
『ねえ、ボクとケイヤクする?』
頭の中に聞こえる、いつもの聖剣とは違う、言葉を覚えたての子供のような声。
『おお、そいつがおった。娘、早く契約をするのだ』
契約……誰と……?
『そこの毛玉に決まっておるだろう。精霊の幼体は力を持たぬが、そなたの魔力を吸って契約できるほどに育ったのだ』
何だか分からないけど、助かるのなら……。
(モコ……私と契約してくれる?)
『うん。いいよ』
モコがそう言った瞬間、見えない何かで深くモコと繋がったのを感じる。
『ボクね、レティシアのマリョクをたくさんもらったから、ミンナより早く大きくなれたんだよ』
膨らみ過ぎた魔力がどんどんモコに流れていくのを感じる。
それと共に、モコのつたなかった言葉が滑らかになっていった。
『ああ、レティシアの魔力を膨らませてるのってこれかな……。これは僕の魔力で包んで……えいっ』
モコの掛け声と共に、体の熱がすうっと収まる。
そしてあれだけ暴れていた体の中の魔力が落ち着きを取り戻した。
(モコ、今何をしたの?)
『えっとね、悪さしてるのをポイってした』
(その辺に捨てちゃダメよ)
『分かった』
素直に返事を返したモコが食卓の上でふるふると体を震わすと、そこから白い粉が落ちてきた。
「レティ、大丈夫かっ」
不意に私に触れたら余計に魔力暴発の危険性が高まるのを十分に分かっているお兄様が、すぐに駆け付けられる距離で心配そうにしている。
お父様は、と視線を向けると、何だかボーっとして座っているだけだ。
(モコ。お父様にも悪さをしてるのが入ってると思うんだけど、取れるかしら)
『んー。やってみる』
モコはふよふよと飛んで、お父様の元へ行く。
そしてその顔に張り付いた。
『うーん。全部取るのは時間がかかりそう。ちょっとずつでもいい?』
ミランダたちの会話を聞く限り、お父様は以前から薬を盛られていた。
だから取り除くのにも時間がかかるんだろう。
(それでいいからお願い!)
『分かったー』
モコの答えに安心して、私は真っ青になっているお兄様に目を向ける。
「お兄様、もう大丈――」
続けようと思った言葉は、お兄様のアイスブルーの瞳からこぼれ落ちる綺麗な涙を見て固まった。
誰よ、推しを泣かせたのは!
……私だ。
「レティが倒れて、もう永遠に失ってしまうのかと思った……」
恐る恐る伸ばされる手を、そっと握る。
指の先まで冷えている手を、小さな両手で包みこんだ。
魔力過多が治ったわけではないと思う。これからも発作を起こして倒れる事はあるだろう。
でもモコとの契約で、少なくとも魔力の暴発で死ぬ事はなくなった。
これはお兄様のラスボス回避に向けての、大きな大きな第一歩だ。
これからも、絶対に阻止しますから!
お兄様。
前世も今世も、私はお兄様が大好きです!
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