第17話 お兄様と密談
「お兄様」
「うん」
「一刻も早くお父様からミランダを引き離したほうがいいと思う」
「そうだね」
「お兄様には、何かいいアイデアがありますか?」
私が聞くと、お兄様は「そうだね」と考える素振りをしながら私を見る。
「レティこそ、何かいい考えがあるのかい?」
「ミランダを物理的に離すのが一番だと思います!」
私が元気よく答えると、お兄様はよくできましたと私の頭をなでてくれた。
えへへへ。嬉しい。
「確かに、それは言えるね。でもどうやって?」
「ミランダの領地に風光明媚な場所はありませんか? そこに私が療養に行く事にすればいいと思うの。その間にリコリスの成分を分析して、お父様の解毒薬を作るのはどう?」
「レティをミランダの領地に行かせるのは賛成できないな」
確かに赤ちゃんの時、床に叩きつけられそうになったもんね。
でも今の私なら、無抵抗のままやられる事はないし、護衛もちゃんとつけてもらう。
それに聖剣を見つけたら魔力を扱えるようになって、反撃もできる……と、思う。
「まず父上に相談してみたいところだけど……。既に何らかの薬物を投与されているとなると、普段の様子と変わらないように見えて、実は判断が鈍っているという可能性もある。ミランダを解雇しないのも、おかしいと思っていたんだ」
衣裳部屋の担当にした後、ミランダはそこでもちょっとしたトラブルを起こしたらしい。
さすがに王妃の縁戚とはいってもクビにするところなんだけど、なぜかそのまま勤めている。
そう言われてみれば、確かに不自然だ。
「僕たちだけで解決となると、正攻法ではいかない、か……」
お兄様は悩むように腕を組む。
お兄様の横顔をじっと見つめていると、深いため息が部屋に響いた。
「解毒薬を作るためのリコリスは、どうやって手に入れるつもりだい? ミランダの領地から運ぶにしても時間がかかりすぎる」
「エルヴィンに、プレゼントでもらったリコリスを育ててみたいから、鉢植えでちょうだいってお願いすればいいと思うの」
珍しいというだけで、別に王宮で開発された新種の花という訳でもないから、そんなに苦労しなくても手に入ると思う。
ただ、もし王妃が難色を示したら、それはそれで考えなくちゃいけない。
「王妃殿下が許さないかもしれないよ?」
「だったら押し花にするのも許してないと思う」
そう断言すると、お兄様は目を閉じて考えこむ。
きっと今、物凄い勢いで色んなパターンをシミュレーションしているはず。
私はお兄様が結論を出すのをじっと待った。
淡い常夜灯に照らされたお兄様の姿は、まるで彫像のように美しい。
四年前よりも丸みの失せた頬に、長いまつ毛の影が落ちる。
少年らしさを抜け出す時期特有の、何とも言えない魅力があった。
「分かった。僕も一緒に行こう。解毒薬の作製はロバート博士に任せておけば大丈夫だろう」
ええっ。でもそれだとこっそり聖剣を見つけられなくなっちゃう。
ああ、だけど温室の真ん中にオブジェとして刺す予定なら、偶然聖剣を見つけちゃいましたって事にした方がいいのかな。
ミランダと私だけより、お兄様がいてくれた方が心強いのは確かだし。
……お兄様と旅行、って考えると、心が浮き立つのは仕方ないよね。
凄く楽しみ!
「さあ、もう遅いから部屋まで送っていこう。それともここで一緒に寝る?」
ひええええ。
そんな、お兄様と一緒のベッドに入ったりしたら緊張で眠れません!
ここは素直に自分の部屋に戻ります。
そして部屋に戻った私が眠るまでお兄様は手を握ってくれていて。
悪夢なんて忘れてしまうくらい、素敵な気持ちで眠りに落ちた。
でもその旅行は実現しなかった。
朝食の席で、私が突然倒れてしまったからだ。
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