第16話 リコリスの花
小説の表紙にモチーフとして使われていた白に赤い縁どりのあるリコリス。
そして魔力過多を治す力を持つ黄金のリコリス。
小説『グランアヴェール』には、リコリスのモチーフが至るところに出てくる。
だからミランダの使っているのが「リコリス」を原料とした薬である可能性は高い。
「リコリス……。聞いた事がない花だ」
「今日、エル様が持ってきてくれたしおりの花なの」
「あれか」
前世の記憶があるから知っているんだけど、それをお兄様に打ち明けると怒涛のお兄様賛歌が始まってしまいそうなので、怖くて話していない。
だから今日もらったしおりから思いついたという事にした。
「リコリスは王宮でしか栽培されてなくて、前にエル様から聞いて見てみたいって話してたの。それでしおりにして持ってきてくれたんだと思う」
「レティはどうして香水がリコリスだと分かったの?」
「白に赤い縁取りの珍しい花って言ってたから……」
本当はそんな会話はしてなかったけど、つじつまを合わせる為には仕方ない。
「確かにしおりの花と同じだね」
白に赤い縁取りの花は他にもあるだろうけど、お兄様が知らない花となると限定される。
さすがのお兄様も王宮にしか咲いていないリコリスは知らなかったらしい。
「この花はどこで咲いているんだろう」
「エル様は王妃様のお庭だって言ってた」
「なるほど。それでミランダがリコリスの香水を手に入れられたという訳か。でもどうやってその効能を知ったんだろう」
確かにそれは疑問だ。
まさか王妃様がそんな怪しい薬を作ってる訳ないだろうし。
もしそうだったら、王宮の庭に植えてないはず。
「もしかしてミランダの領地に咲いているのかも」
ミランダの領地は王都から離れたところにある。そこでしか咲いていないとしたら、ミランダがリコリスの特性に詳しいのも納得できる。
前世の『グランアヴェール』ファンの考察で、黄金のリコリスは普通のリコリスに聖剣の魔力が作用してできたものなんじゃないかって言われてた。
黄金のリコリスが聖剣の魔力によって変化したものだとするなら、ミランダの領地のどこかに聖剣の洞窟があるかもしれない。
私は洞窟の周りの様子を思い出そうとする。
アベルの村の北側に大きな崖があって、その崖の上に立ったら洞窟に転移していた。
(ねえ、聖剣さん。例えばなんだけど、その洞窟の上に人が立ったら聖剣さんのところまで転移させられる?)
『ふむ。それくらいなら容易いな』
(……聖剣さんのとこに行けるかもしれない)
『おお、それは良い。いつだ? いつ来るのだ?』
(まだ分からないけど、早いうちには行けると思う)
そう心の中で言いながら、私はついに聖剣の場所が分かるかもしれないと興奮していた。
ミランダの領地にある崖、という所まで範囲が狭まれば、聖剣のいる洞窟を見つけられるはず。
崖沿いにずっと歩くのでもいいし、闇雲に探すより望みがある。
聖剣と契約を結べば、私が魔力を暴発させる事はなくなるだろう。
つまり、お兄様のラスボス化の第一歩、私の死亡フラグがこれでなくなるという事だ。
まだ完全には喜べないけど、でも、嬉しい。
発作を起こすたびに、このまま目覚めなかったらどうしよう、お兄様が笑えなくなったらどうしよう、って思ってた。
私が前世の記憶を持つせいで推しのお兄様に興奮しちゃって、小説よりも死にかけた回数が多くなっちゃって。
もし小説よりも早く死んでしまったら。
お兄様を救う事もできず、小説通りの未来にする事もできず、もしかしたらイレギュラーな私のせいでお兄様をラスボスにしないどころか、魔王を倒すこともできなくなるんじゃないかって、ずっと不安だった。
だけどあの洞窟が見つかれば、安心できる。
それに黄金のリコリスがあれば、魔力過多の特効薬を作れるはず。
我が家の温室の真ん中に聖剣を刺しておけば、黄金のリコリスを栽培できるんじゃないかな。
勇者アベルも魔力の暴発の後で薬を飲めば魔力過多を完治できるから、私が聖剣と契約しちゃった事で命に関わるような発作を起こす事はなくなる。
残る問題は、どうやってミランダの領地に行くかだけど……。
なんて言ってお兄様とお父様を説得しよう。
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