第131話 宴会
でもお兄様とエルヴィンと、それからランも手放しで喜んではいないようだった。
フィオーナ姫は、敵だとはっきりはしてないけど、限りなく敵に近い存在だもんね。
とはいえ、私たちが魔王を倒したことは、すでに折り紙君一号からお父様が持っている折り紙君三号へと伝わっている。
小説のように魔物と戦って倒れたならともかく、さすがに魔王を討伐した私たちに危害を加えることはできないと思う。
だから安心していいはずなのに、お兄様たちは警戒を解かない。
アベルとマリアちゃんだけが、無邪気に歓待を喜んでいた。
村長の屋敷に着くと、広間に宴会の用意がされていた。
それほど大きな村ではないのに、こんなに立派な広間があるのに驚く。
村長に話を聞くと、入り口にあったような、この村の名物である花のアーチを作る時に広いスペースが必要だから、屋敷を建てる時に大きな広間を作ったらしい。
宴会で食事が出されるといっても、エルヴィンとフィオーナ姫は王族で、私とお兄様も公爵家の一員だ。
毒見役が必要ということで、エルヴィンたちはイアン、私たちはランが給仕することになった。
聖剣に給仕されるのって、なんだか不思議な気がするけど、似合っているからいいか。
この村の名産は花ということで、料理の飾りつけにも花がふんだんに使われている。目も楽しめて、これはこれで村の新しい特産になるのでは、なんて思った。
「そうだ、レティ。王都で報告をしたらレティの休みに合わせてしばらく休暇を取ろうと思うんだけど、どこか行きたいところとかやりたいことはある?」
お兄様が首を傾げた拍子に銀髪がさらりと頬にかかる。
そんなさり気ない仕草ですら美しくて、思わず拝みたくなってしまいそう。
「お兄様と一緒ならどこでも……」
行きたいところ、と言われても特にはないかなぁ。
あえて言うなら、景色の良いところ、とか。
私の死とエルヴィンの死がお兄様のラスボス化の大きな要因だったから、とにかく今までは生き残るのに精いっぱいだった。
でももう魔王は倒されて、私たちが死ぬ心配はない。
ストンと心の中に落ちるものがあった。
そっか。もっと先の未来まで、考えていいんだ。
なんだか心が軽くなってきた。
そっかぁ……。
この先の未来は、小説にはない、誰も知らない未来で、私たちは好きに生きていいんだ。
嬉しくなった私は、肉汁がたっぷり入ったソーセージにフォークを刺した。口に含むとじゅわりと出てくる肉汁に、舌鼓を打つ。
途中でイアンがワインを持ってきた。
「まあ、ワイン?」
フィオーナ姫が驚いたように聞く。
この村でわずかに作っている赤ワインで、少し酸味が強いがフルーティーでコクがあるらしい。
この世界には年齢でお酒を飲めないということはないので、私も少しだけもらうことにした。
前世ではずっと病院暮らしでお酒を飲む機会なんてなかったから、ボージョレーヌーボーの解禁日のニュースを見て凄く羨ましかったのを思い出す。
健康っていいなぁ。
私は渡されたブロンズのゴブレットをじっと見た。
こんな小さな村だからワイングラスなんていう高級なものはない。
それでも精一杯、豪華な杯を用意してくれたんだろう。ゴブレットの内側には金が張られている。
蔓のような模様が刻まれているゴブレットには、村の鍛冶屋が鍛えたであろうハンマーの跡が微かに残っていた。
全員の手にゴブレットが行き渡ると、イアンはいつになく緊張した様子でワインを注ぐ。
それだけで芳醇な香りが流れてきた。
ワインの善し悪しは分からないけど、香りはいいなぁ。
ランは別のワインボトルを持って、私とお兄様のカップに注いでくれる。お兄様がこっそり氷魔法をカップにかけてくれたので、冷え冷えだ。
せっかくだからエルヴィンとアベルにも冷え冷えを満喫してもらおうとして、エルヴィンのゴブレットだけ形が違うのに気がついた。
私たちが持っているのは蔓の模様のゴブレットで、エルヴィンのものだけ幾何学模様だ。
王太子だから特別なものにしたのかな、と思って見ていると、真っ青な顔のイアンと目が合った。
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