第13話 誕生日プレゼント
小説の中のエルヴィンは、金髪碧眼で笑うと白い歯が見える、爽やか系の細マッチョだった。
俺様で貴族至上主義みたいなところはあるけど、基本的に単純な性格をしているので、勇者アベルにぎゃふんと言わされる事が多い、ちょっと道化師的な役割だったように思う。
そんな彼の人気が出たのは、その壮絶な最期からだ。
魔王との戦いの前で四天王と呼ばれる最後の魔物と対峙して、アベルのミスで窮地に陥った時、「ここは俺に任せろ。お前たちは先に行け」と言って相打ちになったのである。
それでも最後まで平民であるアベルの事は好きじゃなかったらしく「後は頼んだぞ、セリオス」と、最後にお兄様の名前を呟いて倒れた。
これぞ男同士の友情。
なんというかもう、最高ですよね!
ファンの間で、もしかしたらエルヴィンは脳筋なんじゃないかっていう疑惑があったんだけど、それが正しかった事が証明されてしまった。
王家の教育ってどうなってるんだろう……。
「この俺がわざわざ来てやったのだぞ。もっと喜べ」
「誰も呼んでないのに押しかけたのは誰ですか。しかも近衛を撒いてきましたね?」
さり気なく私を背中に隠したお兄様の厳しい言葉に、エルヴィンは言葉を詰まらせる。
ええっ、近衛を撒いてきたの?
公爵家は王宮のすぐ近くに屋敷を持っているとはいえ、よくここまで無事にやって来たなぁ。
仮にも王太子なんだから、もっと慎重に行動しないとダメじゃない。
「ちゃんとイアンは連れてきたぞ」
イアンって騎士団長の息子で魔王討伐の一員だけど、エルヴィンと同じ年じゃないっけ……。
将来の側近候補として、エルヴィンのお守……じゃない、お目付け役をしている。
ちゃんと止めないとダメじゃない。
そう思ってチラリと壁際を見ると、十一歳にしては大きな体を小さくしたイアンが申し訳なさそうに立っている。
きっと止める間もなく、エルヴィンが飛び出してきちゃったんだろうなぁ。
「エル様はイアンが死んじゃってもいいんですか?」
「は? な、何を言うんだ」
お兄様の後ろから顔だけ出してエルヴィンを見ると、一体何を言われているか分からないという顔をしていた。
「だってもし護衛が誰もいない時に、エル様がほんのちょっぴりでも怪我をしたら、イアンは死罪になると思いますよ」
「そんな、大げさな……」
「そうですよね、お兄様」
私の言う事は信じなくても、お兄様の事は信じるだろうと思って話を振ると、賢い賢いと頭を撫でられる。
えへへ。褒められちゃった。
って、そうじゃなくて。
「そうだね。他の護衛がいないのなら全ての責任はイアンが被るだろう。レティにも分かるのに、君は……」
そこはちょっと申し訳ない。
私は永遠の十六歳だから、実質エルヴィンより年上なのよ。
五歳の私がこんな話し方をしてておかしいと思われないのは、お兄様がいるおかげだ。
私のように前世の記憶があるわけでもないのに、五歳の時のお兄様の話し方は、今の私とあまり変わらなかったそうだ。
さすがお兄様。私とは違う、本物の天才!
「しかし、レティシアは俺の友達だから、来るのは当然だろう」
「今度からはちゃんと先触れを寄越して護衛を撒かないようにして下さい」
「わ、分かった」
お兄様にこんこんと説教されたエルヴィンは、ちょっと涙目になっていた。
「お兄様、それよりもプレゼントを開けていいですか?」
「もちろんだとも」
やったー!
お父様からは温室を、お兄様からはお揃いのブレスレットをもらった。
温室はいずれ黄金のリコリスを見つけたら栽培できるようにおねだりした。
ブレスレットにはお兄様の瞳にそっくりな魔石がついていて、防御の効果があるらしい。
エルヴィンからは……。
お花のしおりをもらった。
子供のプレゼントみたい、と思いながら、でも私はまだ子供だった、って思い直して。
手にしたしおりを見て、驚愕した。
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