第129話 魔王との決着!でも……
お兄様の手から冷たい霧が放たれ、洞窟の空気を瞬時に凍らせる。
氷の霧は瘴気の塊に向かってまっすぐ進み、黒い瘴気を凍らせようとする。
でも瘴気はまるで生きているかのようにうねり、氷を弾き返してきた。
「さすがに魔王だけあって手強いね。それなら、これはどうかな」
お兄様は自分の周りに無数の氷の刃を出現させ、それを一斉に瘴気の塊に向かって飛ばす。
氷の刃は瘴気に突き刺さって一瞬だけ凍らせることに成功したけれど、すぐに瘴気が動き出して、氷を砕き散らしてしまった。
「これならどうだ!」
大剣を振りかざしたエルヴィンが叫ぶ。
風の魔法も同時に放って、剣の威力を大きくしていた。
けれども瘴気は、切り裂かれてもすぐに元通りになってしまう。
目のような赤い光が、効果のない攻撃をあざ笑っているかのように点滅した。
「まだまだぁっ!」
切り裂くのがダメなら突けばいいとばかりに、エルヴィンが赤い目を狙って剣を突き刺す。
深く突き刺さった剣は瘴気にダメージを与えたように見えたけど、瘴気は逆にエルヴィンの剣に絡みついて動きを封じようとした。
でもそれは逆にチャンスだ。
「アベル、今だ! マリアさんは、浄化魔法を!」
お兄様の合図で、アベルは剣を高々と掲げる。その剣へマリアちゃんが浄化魔法をぶつけた。
剣が光を帯び、溢れるような力が放たれる。
これこそランが鍛冶神につけてもらった勇者の剣の必殺技、光の剣だ。
聖剣グランアヴェールがどんな敵でも容易く切り裂くのに対して、勇者の剣は瘴気を斬ることに特化している。
しかも聖女とペアじゃないと、この必殺技は使えない。
まさにアベルとマリアちゃんのための技なのだ。
勇者の剣の閃光は、瘴気を切り裂き、大きく揺るがした。
「これで終わりだ!」
アベルが一気に剣を振り下ろして、その一撃で瘴気の塊を真っ二つに切り裂いた。
でもその瞬間、赤い目がさらに強い光を放ち、瘴気が再び集まり始めた。
「気をつけて! まだ終わってない」
うごうごと蠢く瘴気は、再び人のような形に戻っていく。
私はそこで開発途中の、超強力な技を使う決心をした。
本当は使いたくないけど……。
魔王を倒すために私とお兄様の愛が必要なら、仕方がない。
私は心の中で血の涙を流しながら。折り紙くん一号を取り出す。
そしてそのくちばしの中に、お兄様との概念指輪を入れる。指輪の石は純度の高い魔石だ。しかもお兄様と私の色で揃えている。
「ううう。使いたくない。でも世界を救うにはこれしか――」
私は折紙くん一号を、瘴気の方へ飛ばした。
「折り紙くんビーム発射!」
赤い折り紙くんが、くちばしを大きく開ける。
すると、くちばしから強烈な光のビームが発射される。
光は瘴気の塊を貫き、赤い目を直撃した。
目が大きく揺らぎ、瘴気が一瞬にして弾け飛んだ。
「やった……?」
アベルが勇者の剣をまだ構えた状態で呟く。
それにお兄様が笑顔で頷いた。
「やった! 魔王を倒したぞ!」
アベルとエルヴィンがハイタッチをする。もちろんお兄様とも。
マリアちゃんは気が抜けたのか、へなへなと力尽きて尻もちをついている。
そして私は。
「うっうっうっ。お兄様との概念指輪があああああああああ」
うわーーーーーーん。
いくら魔王を倒すためとはいえ、最愛のお兄様との概念指輪を使っちゃうなんてええええええ。
魔王を倒すためだったから仕方がないんだけど。
仕方がないんだけどおおおおおおおお。
私がほろほろ泣いていると、みんながギョッとして集まってくる。
ごめんね、皆。
喜ぶべきところなのに、泣いちゃって。
でも指輪ぁぁぁぁ!
「レティ、どうしんだい、何があったの」
お兄様も心配して私のところへ飛んできてくれた。
だから指輪の魔石を使って折り紙くんビームを出したことを説明する。
戻ってきた折り紙くんを見ると、体の中でボロボロに酸化したお兄様との概念指輪の残骸が入っていた。
あああああ。
お兄様色のアイスブルーダイヤと、私色のピンクダイヤがああああ。
アベルとマリアちゃんが困ったような、エルヴィンは呆れたような顔をしていたけど、当分私の心は魔王討伐の晴れやかさに包まれることはなかった。
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