第127話 魔王の洞窟
『グランアヴェール お守りの魔導師は最推しラスボスお兄様を救いたい』コミックス3巻
漫画・夏河もか先生
発売しました!
幼少期クライマックス!
素敵なお兄様と可愛いレティシアをぜひご覧になってくださいませ~
大人の色気たっぷりの聖剣さんもいますよ(*´꒳`*)
魔王が発生した方向には高い山があった。
もともとネヴィル子爵領は、良質な鉄鉱石が取れる鉱山を多く持っていて、その山の一つだ。
山の周囲は厚い雲に覆われ、太陽の光も遮られている。
風は冷たく、草木を揺らしながら不吉な音を立てていて、足元に広がる荒れ果てた大地は、魔王の出現によって完全に荒廃していた。
枯れた草と木々が無造作に散らばり、まるですべての生命力を吸い取られてしまったかのように、辺りは静寂に包まれていた。
そして進むにつれ、馬車を曳く馬たちの歩が遅くなっていく。
「そろそろ馬たちが限界でしょう」
ついに馬車を止めたランが、御者席から降りて馬車の扉を開ける。
「ここからは歩くしかないね」
先に降りたお兄様の手を借りて馬車から降りる。
モコは瘴気の濃い地面に触れたくないのか、私の腕の中に収まっている。
「空気が重い」
いつでも戦えるように勇者の剣を手にしたアベルが、空を見上げた。
灰色の雲は今まで見たこともないほど低い位置まで降りていて、上から押しつぶされてしまいそうな錯覚に落ちる。
「マリア、大丈夫か」
聖女になれるほどの力を持つマリアちゃんには、瘴気の満ちたこの場所は、息をするのも辛いのだろう。
でもマリアちゃんは、自分の頬を軽く叩いて気合いを入れると、しっかりとした目でアベルを見上げる。
「大丈夫だよ。絶対に魔王を倒そう」
「うん。俺に任せろ」
勇者の剣を手にしたアベルが、反対の手で胸を叩く。
「気合い入ってるのはいいけど、無理はするなよ。魔王を倒すのは当然だけど、俺達の誰一人として、欠けるんじゃないぞ」
小説ではそんなエルヴィンが「ここは俺に任せて先に行け」と言って、一人だけ死んでしまったんだけれど、絶対にそんなことにはさせない。
私が、お兄様もエルヴィンも必ず守ってみせる。
「もちろん分かっているわ。エルヴィンも絶対に死んじゃダメよ」
「お、心配してくれるのか」
「当然でしょう」
一応、婚約者だしね。
でも婚約かぁ。
エルヴィンに好きな人ができるまでの婚約のつもりだったけど、未だにそんな人が現れる様子はないんだよね。
となるとこのまま結婚?
私が王妃になる?
うーん。想像できないなぁ。
私はエルヴィンの顔をじっと見つめる。
昔はやんちゃだったけど、今は結構落ち着いて来たよね。
お兄様が親友だっていうくらい、性格はいい。
顔も、お兄様ほどじゃないけどイケメンだ。
結婚する相手として悪くはないんだけど、なんかそういう実感がわかないっていうか。
そもそも前世からの最推しのお兄様がいるから、他に目が向かないんだよね。
私も公爵家の娘だから一生結婚しないってわけにもいかないんだろうけど、今まだ考えられないかなぁ。
「セリオスのことしか心配しないのかと思ってた」
いやさすがにそんなことはないよ?
長い付き合いなんだから、心配くらいするってば。
そんな非難を込めて見上げていると、エルヴィンが私の頭をポンと撫でた。
「絶対に生きて帰ろう」
ちょっ。やめてそういうフラグみたいなセリフ。
シャレにならな~い!
エルヴィンはふっと笑ってから、先頭に立つアベルの隣へと並んだ。
私はなんとなくエルヴィンが撫でた頭に手を置く。
指の先がほんの少し熱くなった気がした。
道中、瘴気が立ち込めた場所をいくつも通り過ぎた。
瘴気はまるで生き物のようにうごめき、近づく者を拒むかのように漂っている。
近くを通るだけで、冷たく、骨まで凍りつくような寒気を感じさせる。
その不吉な雰囲気にマリアちゃんが身震いするのを感じ取った私は、そっと彼女の手を取る。
「レティシア様」
「一人じゃないから。皆で倒そう」
「ごめんね、私、急に怖くなっちゃって……」
握り締めるマリアちゃんの手が、細かく震えている。
私はその手をぎゅっと握りしめた。
「怖いのなんて当然だよ。私もすごく怖いもの」
「レティシア様も?」
マリアちゃんの柔らかな茶色の瞳が、私を見つめる。
「ええ。だって魔王と戦うのなんて初めてだし。でもね、魔王を倒すための勇者がいるから大丈夫なんじゃないかなって思うの」
私の言葉に、マリアちゃんはアベルに視線を向けた。
「だってわざわざ女神様が選定した勇者だよ? 倒せないわけがないと思う」
「そう……かな」
マリアちゃんの瞳が揺れる。
だから私は迷わないまっすぐな瞳で見返してあげる。
「マリアちゃんだって聖女だし、このパーティーは全員女神様のお墨付きよ。それになんといってもお兄様がいるんですもの。だから大丈夫」
「そっか……。そうだよね。アベルだけじゃなくて、レティシア様のお兄様までいるんだもんね」
「そうよ。王太子のエルヴィンもランも、モコもいる。そして私も。ね? 最強でしょう?」
「うん。本当だ」
マリアちゃんがやっと笑顔を見せてくれた。
私はその手をつないだまま、魔王のいる山へ登って行く。
時折お兄様の手を借りながら、険しい山道を前へ前へと進む。
すると急に目の前が開けた。
それはとても奇妙な洞窟だった。山の一部がまるで巨大な獣の口のように裂け、その奥には蠢く黒い瘴気の渦がある。
入り口の岩肌は黒く染まり、その上をまるで生き物のように瘴気がはい回っていた。
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