第126話 変わらないミランダ
『グランアヴェール お守りの魔導師は最推しラスボスお兄様を救いたい』コミックス3巻
漫画・夏河もか先生
本日発売となります。
幼少期クライマックス!
素敵なお兄様と可愛いレティシアをぜひご覧になってくださいませ~(*´꒳`*)
「ラン、屋敷の中に本当にネヴィル子爵がいるかどうか確認してくれ」
「承知いたしました」
優雅にお辞儀をしたランが、目をつぶって屋敷の中を精査する。
そしてゆっくりと金色の目を開けた。
「確かにいますね。でももう既に息がないようですが」
それを聞いたエルヴィンが、ミランダを睨みつける。
「殺したのか」
「違うわよ、本当にネヴィル子爵は私たちが来た時から臥せっていたのよ。しかも領民たちはどこかへ行ってしまっていて、屋敷に残っている使用人たちは暗い顔をしているばかりで役に立たないし、とんだ誤算だったわ」
「外の状況を知らないの?」
思わず口をはさむと、ミランダが憎々し気に振り返った。
「忌々しい。まだ死んでいなかったのね」
ああ、そうか。
ミランダの中では、私はまだ魔力過多に苦しんで、いつ死んでもおかしくない子供なんだ。
「ロバート先生とランのおかげで魔力過多が完治したのよ」
「ラン?」
聞き覚えのない名前だっていう顔をしていたミランダは、私の後ろにいる執事服姿のランに気がついた。
「ローゼンベルク家の執事なの? でも私がいた時はこんな美男子いなかったわよ」
えっ、気になるのそこ?
ローゼンベルク家にいた頃から残念な性格だったけど、もっと他に気にすることがあるでしょうに。
そもそも、今までどこにいて何をしていたんだろう。
「ミランダはずっと王妃様のところにいたの?」
気になって聞いてみると、ミランダは顔を歪めた。
「いいえ。あんなに献身的に尽くしたのに裏切られたの。実家も潰れて行くあてのない私を拾ってくださったのがケネス様よ。だから私はケネス様に忠誠を誓ったの」
ケネスって……そういえば叔父の名前だ。
それって絶対に善意じゃなくて、なにか企んでたからだよね。
「ケネス様はエルンスト様と仲直りしようとしていたけれど、間にいる人たちに邪魔をされてできなかったの。でもこれで仲良くできるわね」
いや、この状況をどう見たってお父様と叔父が仲良くするのなんて無理だけど。
私たちを陥れようと画策してたの、バレバレじゃない。
「きっと私のおかげでケネス様と仲直りができたのを褒めていただけるわ。そして私はエルンスト様に感謝されて妻になってくれと言われるのよ」
あまりにもひどい妄想に、思わずお兄様と顔を見合わせてしまう。
「話にならない」
冷たく言ったお兄様は、私にお守りの用意はできているかと聞いてきた。
任せてください!
ミランダについてくる馬車の中で、しっかりと魔力をこめて作りました!
じゃじゃーん。その名も「敵は内」お守り!
これは「敵は外」お札の変形判で、私たちの敵になる相手を家の中に閉じこめるお守りだ。
このお守りを家の玄関の外側に貼れば、一歩も外に出られなくなる。
魔王討伐の間、これで後ろから襲われる心配をしなくてもいい。
私はいそいそとお守りを出してお兄様に渡した。
「はい、どうぞお兄様」
お守りを受け取ったお兄様は、ミランダを振り返る。
「お前たちの罪は明白だ。王都に引き渡されるべきだが、ここにはそのための人員もいない。だから、ネヴィル子爵邸を封印する。」
「封印ですって……?」
「もし僕たちが魔王討伐に失敗したら、一生ここから出られなくなるのを覚悟しておいた方がいい」
そう言って、まるでラスボスになったかのように、悪辣な笑顔を浮かべた。
「もちろん僕たちの敵でなければ自由に行き来をすることができるから、食材や必要な物は手配することができるだろう。心優しい領民たちが救ってくれるといいね」
それはつまり助けてくれる領民がおらず、私たちが魔王討伐に成功して戻ってこなければ、ミランダ達は飢えて死ぬことになるという意味だ。
「そんな……」
「叔父が目覚めたらよく言い聞かせておくといい」
呆然とするミランダを置いて、私たちはネヴィル子爵の屋敷から出た。そして外から扉に「敵は内」のお札を貼り付ける。
これミランダも叔父も、屋敷から出ることはできない。
屋敷の外には疲れ果てた様子の領軍の兵士たちが座りこんでいた。
手入れのされていない粗末な革鎧に身を包んだ彼らは、私たちと一緒に子爵領へ戻ってくるのが精一杯だったのか、屋敷から出てきた私たちを見ても何も反応を示さなかった。
彼らが敵なのかどうなのかわからない。
でも戦意を失っていることは確かだ。
「よく聞け」
お兄様が通る声で兵士達に語りかける。
「ネヴィル子爵は既に亡くなられている。お前たちは新しい領主がやって来るまで、自分たちが生き延びることだけを考えるといい」
そう言って辺りを見回した。
命令されることに慣れている兵士たちは、黙ってお兄様の言葉を聞く。
「屋敷の中にはまだ客人がいるが、彼らは僕たちが戻ってくるまで外に出られない。気になるならば世話をしてやればいいだろう。ただし僕たちに敵対するものは一度屋敷の中に入ったら二度と出てこれないと思え」
兵士たちは最初、お兄様の言っている意味が分からなかったようだが、やがて理解したものから真意が伝わっていく。
ざわめきがさざ波のように広がると、彼らはよろよろと立ち上がって、思い思いの方向に散っていった。
きっと自分の住む村に戻っていくのだろう。
ネヴィル子爵領はとても荒廃していたけれど、すべての村に人がいなくなったわけではないのだろう。
魔王討伐するまで魔物がたくさん出るかもしれないけれど、それまでなんとか頑張ってまだ生き残っている人たちを守ってほしい。
そう思いながら去ってゆく兵士たちを見送る。
「さあ僕たちも出発しようか」
お兄様に肩を叩かれて、私たちの馬車の方へと向かう。
後顧の憂いがなくなったので、これで心置きなく魔王討伐に専念できる。
「ええ、お兄様」
そして私たちは、いよいよ魔王討伐へと向かった。
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