第123話 叔父というより、これは
「叔父は中にいるの?」
敬称をつけるなってお兄様に言われたので、良い子の私はそれに従う。
伯爵本人ならともなく、単なる婿と公爵家の子供では、身分的にはこっちが上だから呼び捨てにするのが当然だし。
そんな私の挑発に、ミランダは乗らなかった。
さすがに学習したのかな。
ミランダは私を殺そうとしたのが発覚して、ローゼンベルク家から姿を消した。
罪を明らかにしようとローゼンベルク公爵家が総力を挙げて探したのに、全然見つからなかったんだよね。
てっきり王妃がかくまっているのかと思ってたけど、今までずっと叔父が保護していたのかも。
お兄様は口を開いたら罵詈雑言が飛び出てしまうって言って、無言のままだ。
お兄様の罵詈雑言かぁ。……私に対してのものじゃなければ、それはそれで一度聞いてみたい気もする。
「ねえミランダ。どうして私たちが来るのが分かっていたの?」
私の問いに、ミランダはまるで私を殺そうとしたことなどなかったかのように、笑顔を向ける。
「お嬢様たちに便宜を図るようにと王宮から早馬が来たんです。ちょうどコルツ伯爵もいらしたところで良かったですわ」
コルツ伯爵というのは叔父のことだ。
厳密に言えば婿なので伯爵位を持っているわけではないんだけど、妻の当主は女伯爵と呼ばれ、叔父はコルツ伯爵と呼ばれているみたいだね。
「こちらへ」
案内されたのは、シルクの絨毯やマホガニーの机、そしてふかふかのソファがある豪華な応接室だ。
うわぁ。お金かかってそうな部屋。
村人の姿がなくても、その困窮の度合いは分かる。
舗装されていない道、今にも壊れそうなあばら家、雑草の生えた耕作地。
だというのに、この屋敷の家具は一流品であつらえている。
つまりこのネヴィル子爵領では、領民から税を搾り取っているのが明白だ。
お兄様もエルヴィンも、何ならアベルもそれに気がついてソファに座ったままのネヴィル子爵を睨みつけている。
銀髪で、普通の人の三倍くらい横幅がある巨漢だ。
肉に埋もれた目は小さくて、鼻も頬の肉に圧迫されているから、太った豚にしか見えない。
太り過ぎて呼吸がしずらいのか、ぶひぶひ言っている。
「え、豚さん?」
思わず口に出してから、しまったと両手で口を隠す。
いくら本当のことでも、子爵相手にまずかったかも。
そうしたら案の定、豚さんが顔を真っ赤にして怒りだした。
「なんだこの失礼な奴は! こんなのが僕の姪なのか」
姪? ってことは……もしかしてこの人が例の叔父?
えええっ。
でもお父様にもお兄様にも全然似てないよ?
私が生まれた頃は、お父様ほどじゃないけど美男子でぶいぶい言わせてたんでしょ?
たった十四年でこんなに劣化する?
目の色も、よく見るとローゼンベルクのアイスブルーじゃなくて、灰色だ。
この人、本当に私たちやお兄様と血のつながりがあるのかな。
「レティ、豚に失礼だよ」
って、お兄様のほうが、私よりもっと容赦なかった。
「お前たちっ!」
激高した叔父の顔がもっと真っ赤になる。立ち上がろうとしたけど、一人では立てないみたいでジタバタしている。
「久しぶりだな、コルツ伯」
「おお、これはこれは王太子殿下。お久しぶりでございます。あいにく膝を痛めて立ち上がれないので、このままで失礼いたします」
「王太子殿下の前で立ち上がって礼をせぬなど、不敬だろう」
まずエルヴィンが声をかける前に立ち上がってお辞儀をするのが普通なのに、立ち上がるつもりもないなんて、エルヴィンの護衛騎士がいたら不敬罪で捕まっているところだよ。
「これは異なこと。魔王討伐の一行は特別扱いしないようにとの通達を受けておりますよ」
それは王太子が来たからってわざわざ歓迎パーティーを開いたりしないようにっていう通達でしょう。
決して王太子として扱わなくていいっていう意味じゃない。
「ケネス様、そんなことより重要なお話があるんじゃないですかぁ?」
ミランダが叔父の隣に座ってしなだれかかる。
うげっ。この二人ってもしかして付き合ってるの?
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